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5歳からの婚約破棄くんれん!~ぼんくら王子がやらかした国のおはなし~

作者: もちべえ
掲載日:2026/09/07


「えれのあ・ふぉん・あるでぃあ!」


 春の日差しが差し込む王城の一室。

 花で飾られた壇上で、この国の第一王子レオンくん(五さい)が金色の髪を揺らしながら胸を張る。


「わ、わたしは、いま、ここで、おまえとのこんやくを、はきする!!」


 その宣言を受けて、会場中の視線がお相手の令嬢へと集まった。


 ……いや。

 レオンくんの両親は、レオンくんにくぎ付けだった。


 国王様と王妃様である。

 特に、王妃様は目をうるうるさせながら、「よくできました」と言わんばかりに、音を立てないよう小さく拍手をしている。


 対するアルディア公爵家のご令嬢、エレノアちゃん(五さい)も、レオンくんに負けじと銀色の髪を揺らして言葉を発した。


「レオンハルト・ふぉん・アウレリアだいいちおうじさま!」


 エレノアちゃんの力強い声で壇上に緊張が走る。


「うけてたつわ! ぼんくらおうじ! かかってきなさい!!」


「ふ、ふええ……」


 レオンくんは涙目になった。



 台本とは違うセリフ。

 今度は、観衆の視線が一斉にエレノアちゃんの両親である公爵夫妻へ向かう。

「やらかしやがったな」という視線である。


 当の夫妻は「あちゃあ……」という顔で頭を抱えていた。

 どうやら、エレノアちゃんは一般的な令嬢にあるまじき好戦的な性格に育ってしまったらしい。



 ***



 この国では、王族は五歳、十二歳、十八歳と、人生の節目に「婚約破棄」の訓練を行う伝統がある。


 大昔、公衆の面前で婚約破棄をやらかしたぼんくら王子のせいで、国が滅亡寸前までいったことがあり、その教訓を後世へ伝えるため、こんなトンチキな風習が生まれたのだ。


 ちなみに、そのぼんくら王子を題材にした物語は数え切れないほど作られており、エレノアちゃんの台詞も、その一つ『ぼんくら王子をボンボコしたい』に登場する悪役令嬢の決め台詞である。


 五歳児は、すぐ影響を受ける。

 エレノアちゃんお気に入りの物語を何度も読み聞かせてしまった、お世話係のやらかしであった。


 さて。


 エレノアちゃんの思いがけぬ反撃――もとい、台本にないアドリブによって涙目になったレオンくんだが、現実は非情である。

 将来の国王たるもの、この程度の危機にひるんではいられない。

 お芝居は続けなければいけないのだ。


 このお芝居、五歳のお遊戯にもかかわらず、最初の口上以外はすべて本人たちのアドリブという鬼畜仕様になっている。

 もっとも、たいていは何を話せばいいのかわからず、お互いにもじもじして終わる。初めての婚約破棄なのだから、それで十分なのだ。


 だが、まれに、この流れからあれやこれやして、お互いにプロポーズをし合うという、5歳で伝説的なバカップルとなった、今の国王みたいな例外もあるので見る側としてはワクワクが止まらないのである。


 会場中がレオンくんの次の一言を待っていた。


「ぼ、ぼく――」



 ――ぼんくらじゃないもん!!」


 レオンくんが選んだのは5歳児の真っ直ぐな反論だった!


((かわいい……))

 おもわず観客たちの頬がゆるむ。



 しかし――

「ぼんくらじゃないっていうやつが、ぼんくらなんだから!!」

「ふ、ふええ……」

 ――この年代の男の子が女の子に口げんかで勝てるわけがなかった。


 エレノアちゃんの謎理論がレオンくんに襲い掛かる。


「こんやくはきとかする子に、ロクなやつなんていないって、みんな言ってるんだから!!」

「こ、これ、おしばいだから、ぼくわるくないもん……」

「だいたい、あたしがいるのに、こんやくはきするとか、ぜったいに、みるめがないんだからね!!」

「ふ、ふええん……」


 レオンくんは防戦一方だ。

 涙目を超えてもう泣きそうである。


 だが、周りの大人たちは、うんうんとうなずきながらエレノアちゃんの言葉を聞いている。この国の道徳では、エレノアちゃんの言葉は完全に正しかった。婚約破棄、許すまじ。それがこの国の絶対的な教えである。


「だから! あんたは、わたしのことだけみてれば、いいんだからね!! わかったらへんじ!!」

「えーーーん、わ、わかったよぉ……」


 そうこうしているうちに、両者の格付けは完了した。

 もはや、レオンくんがエレノアちゃんに逆らうことはないだろう。


 ちなみに。

 二人はこれが初対面であった。



 保護者たちはそんな二人を見守りながら、それぞれ思い思いに微笑んでいた。少なくともレオンくんの両親は、「かわいいレオンが見られた」、それだけで大満足だったようである。


 このまま結婚したら、完全に尻に敷かれそうなものだが、

 本当にこの国は大丈夫なのだろうか……



 *****



 時は流れ、十二歳の婚約破棄訓練の日がやってきた。


 会場となる王城の大講堂には、王族や貴族、騎士団、文官たちがずらりと並び、まるで国を挙げた式典のような空気が漂っている。

 五歳だった子どもたちも、七年という歳月を経て、すっかり成長していた。


 まずは、レオンハルト・フォン・アウレリア第一王子。

 柔らかな金髪は肩にかからない程度に整えられ、青い瞳には王族らしい気品が宿り始めている。幼い頃の泣き虫な面影は薄れ、背丈も同年代より頭一つ高い。剣術も礼儀作法もそれなりに身につけ、将来有望な王子として周囲から期待されていた。


 一方のエレノア・フォン・アルディア。

 長く伸ばした銀髪は絹糸のように美しくまとめられ、深紅の瞳は静かな知性を宿していた。その立ち姿は十二歳とは思えぬほど洗練され、公爵令嬢として非の打ちどころがない。とりわけ五歳の頃の反省から淑女教育を徹底的に施された結果、かつての好戦的な少女はどこにも見当たらない。


 少なくとも、見た目だけは。


「――お、お前はリリアを陰湿ないじめで苦しめ続けた! 公爵令嬢という立場を利用し、何度も彼女を泣かせたのだ!」


「……………………」


 返事はない。

 ただ、紅い瞳が静かにレオンを見つめているだけだった。


 無言なのが、逆に怖い。

 レオンはそう思っていたが、もちろん口には出さない。


 好戦的な性格は影を潜めていたが、

 影を潜めているということは、影に潜んでいるという事なのだ。


 目の前の婚約者が、バーサーカーからアサシンにクラスチェンジしただけであることを、レオンは理解していた。


「エレノア様……私とレオン様は真実の愛を手に入れてしまったのですよ。うふふ……」


 甘く艶やかな声が響く。

 十二歳の婚約破棄訓練では、王子の傍らに悪女役が配置される。

 王子をそそのかし、国家を転覆せんとする妖艶なる女狐。


 今年、その役を務める女性は、レオンより頭一つ高い長身で、豊かな金髪を優雅に結い上げていた。 成熟した美貌に柔らかな微笑みを浮かべ、豊満な胸元へとレオンをぎゅっと抱き寄せる。


 その様子を、エレノアは氷のように冷たい視線で見つめていた。


「……マザコン」

「ち、ちがうよ! これは、お芝居だから!」

「うふふふふ」


 そう。

 悪女役を務めるのは、伝統的に王子の母親――リリア王妃なのである。

 下手な令嬢をあてがって、万が一にも間違いがあってはならないからだ。


 かつては女装した男をこの役目に据えたこともあったらしいが、万が一が……、いや、うん。何も言うまい。


 そういうわけでエレノアは、実の母親とレオンを取り合うという、なんとも言えない状況に置かれていた。


 親子なので、ある意味「真実の愛」は成立している。

 セリフにも嘘はない。

 なかなか厄介な設定である。


 悪女から王子を取り戻し、婚約破棄を思いとどまらせる。

 それが今回、エレノアに与えられた課題だった。


 そして、これは嫁姑問題の予行演習でもあった。


「……お芝居でなければ、力ずくで取り戻せばいいので簡単なのですけどね」

「うふふ。エレノア様。お試しになられますか?」


 二人の間に静かな火花が散る。


「ひぃっ……!」


 その空気に青ざめるレオン。

 逃げるように視線をそらすと、父親である王様も同じように顔を青くしていた。

 どうやら、いつもは優しい王妃にも隠された一面があるようだ。


 さすがのエレノアも、相手がリリア王妃では分が悪い。体格の差を覆すのは容易ではないのだ。エレノアは考えていた。力以外で、この局面を切り抜ける方法を――。


「レオン様。陰湿ないじめとは、どのようなものなのでしょう」


 表情を変えずにレオンを牽制するエレノア。


「――私、まるで身に覚えがないのですけれど?」


「そ、それは……彼女の大事なものを汚したり、陰湿なうわさを流したり、あと、階段から突き落としたりとかだ!!」

「その証拠はどこにあるのですか?」

「しょ、証拠は目撃者の証言が――」


「そんなことより」


 エレノアはにこりと微笑んだ。


「私がそのような証拠を残すようなポンコツだとでもおっしゃるの? どうなの? 死ぬの?」

「ひぃっ……!」

「うふふ。エレノアちゃん?」


「失礼いたしました。ですが、レオン様。そのような証言など、いくらでも捏造できるのではなくて?」

「うっ……」


「むしろ私、リリア様とはとても仲良しですのよ。

 証言者も用意しておりますの」


「え? そんなの聞いてな――」


 エレノアが指を鳴らす。

 すると控えていた侍女や騎士、庭師たちが次々と前へ出た。


「私は、お二人がレオン殿下をネタに談笑しているところを目撃しました!」

「レオン殿下の姿絵をご覧になりながら、お茶会をされておりました!」

「二人で殿下を尾行している姿も見ました!」

「手合わせのたびに庭が半壊するので、庭師一同たいへん困っております!」


「私は、お二人が人気のない部屋へ入っていく姿を……美女と美少女、閉ざされた密室、これはきっと――」


「え? え? 母様? エレノア? そ、そんなの……」


 お芝居の証言を真に受けて、よからぬ妄想に身をゆだねそうになるレオン。


「な、なんでそこだけ信じるのよ!!」

「うふふ……最後の子は、ちょっと、ね」


 予想外のレオンの反応に珍しくうろたえるエレノアと、静かに微笑む王妃。

 衛兵が無言で証人を連行していった。


「……すけべ」

「ち、ちがうよ!そんなこと考えてないから!!」


 エレノアのつぶやきに、思わず反論するレオンだが、そんなこととは、どんなことなのか誰も言っていないので語るに落ちているのである。



「……うおっほん! このように仲睦まじくされていたリリア様が、エレノア様にいじめられていたという話は信じられませぬ!」

「そうだ! こうなれば真実は一つしかありませぬ!」

「レオン様が、とち狂って婚約破棄を企てたに違いありますまい!

 かつてのぼんくら王子の如く!!!!」


「「「「かつてのぼんくら王子のごとく!!!!」」」」

「え? うえええええ!?」


 レオンの絶叫が大講堂に響き渡った。


 ぼんくらは魔王に、ひいては国の滅亡へとつながるのだ。


 この国では、「ぼんくら王子がすべて悪い」という結論は、

 驚くほど受け入れられやすいのである。


「どうなさるのですか、レオン様。ご決断を。

『どうすれば』などと寝ぼけたことは、おっしゃらないでくださいましね」


 会場中の視線がレオンへ集まる。

 その目は、もはや芝居を見守る観客のものではない。

 現王子は、ぼんくらなのか。

 ぼんくらではないのか。


 皆が固唾をのんで見守っていた。


「ど、どうやら私の目が曇っていたようだ! すまない、許してくださいお願いします……じゃなくて、許してくれ!!」


 一呼吸置き、レオンは王子らしく胸を張る。


「それと! 今後、婚約破棄を助長するような偽証を行った者は牢へ入れる!! 婚約破棄に協力することは、この国では重罪である! 皆も気を付けるように!」


 その宣言に、会場は大きな拍手に包まれた。


「はい。二人ともよくできました」

 リリア王妃が柔らかく微笑む。


「存在しないものを否定するのは難しい。でも、良い評判で上書きすることはできるのよね。よく準備したわね、エレノアちゃん。お見事です」

「お褒めにあずかり、光栄ですわ。リリア王妃様」


 優雅に一礼するエレノア。

 その姿は、もはや五歳の暴れん坊ではない。


 ……少なくとも表向きは。


 こうして、十二歳の婚約破棄訓練は、無事に幕を閉じた。



 *****



 ――十八歳の婚約破棄訓練は中止になった。


 魔王の復活、王都への襲撃、そして魔王討伐への出征が決まったからだ。


 かつて婚約破棄訓練の舞台となった王城の大講堂は、見るも無残な姿になっていた。高い天井の一部は崩れ落ち、色鮮やかだったステンドグラスは粉々に砕けている。壁には魔物の爪痕がいくつも残り、床には瓦礫が散乱していた。


 そんな場所に、二人の男女が向かい合って立っている。


 十八歳となったレオンハルト・フォン・アウレリア第一王子。

 幼い頃の面影を残しながらも、すっかり青年らしい姿になっていた。整えられた金髪に、凛々しく成長した青い瞳。王族として鍛えられた身体には、王家の紋章が刻まれた白銀の胸当てと、深い青の外套が身につけられている。その腰には王家に代々伝わる長剣。今や誰が見ても、立派な王子である。


 対するエレノア・フォン・アルディアも、幼い頃の面影を残しながら、美しい女性へと成長していた。 腰まで流れる銀髪。その奥にある深紅の瞳は、幼い頃のような無邪気さこそ失われていたものの、今も変わらぬ強い意志を宿している。公爵令嬢として仕立てられた戦装束は、白を基調とした軽装の鎧。細かな装飾が施された胸当てや肩当てにはアルディア公爵家の紋章が刻まれ、腰には細身の剣が佩かれている。


 その上から羽織った深紅のマントが、吹き抜けた風に大きく翻った。かつての好戦的な五歳児と同一人物とは思えないほど、堂々とした姿である。


 そんな二人が、いつも訓練していた場所で向かい合っていた。


「レオン様、婚約を、破棄させていただきます」

「なぜだエレノア! そんな必要はないはず――」


「生きて帰れる保証はないからです」


 エレノアは、レオンの目を見つめ、はっきりとそう告げる。


「私は私のお役目を果たしたく存じます。

 魔王を見事うち滅ぼして見せましょう」


「そ、そんなの……!

 君が行く必要なんて……」


 だがレオンは、その先を言うことができなかった。


 なぜなら――


(神妙なフリしてるけど、めちゃくちゃワクワクしてる……!)


 エレノアが、言葉とは裏腹に腕をブンブンさせながら超高速でシャドーボクシングをしていたからである。白銀の胸当てがカチャカチャと音を立て、深紅のマントがその動きに合わせて激しく揺れている。


「腕が鳴るわ。

 さあ、待ってなさい≪魔王ぼんくら王子≫!!」


 魔王復活は、エレノアの好戦性を解き放つ大義名分を与えてしまったようだ。


 ≪魔王ぼんくら王子≫……そう、魔王は古のぼんくら王子その人である。


 悪女にうつつを抜かし、なんやかんやあって魔王に覚醒。

 国を滅ぼす直前まで追い詰めた、恐怖の魔王である。


 本当の名前は歴史の闇に埋もれてしまった。

 この国の住民にとっては、「ぼんくら王子」、もしくは「ぼんくら」で十分だったからだ。


「うふふ、レオン、わがままを言ってはいけませんよ?」

「お、お母様……」


 エレノアの舞踏にも似たウォーミングアップを呆然と眺めていたレオンに声をかけてきたのは、母、リリア王妃であった。


 こちらも当然のように完全武装している。王妃の礼装を思わせる優雅なドレスではない。動きやすい濃紺の戦装束に、王家の紋章を刻んだ軽鎧。長い金髪はきっちりとまとめられ、その腰には細身の剣が佩かれている。普段の優雅な王妃とは別人のような姿だった。


「この国の貴族女性にとって、全力で殴って良い≪魔王ぼんくら≫を殴りにいくことは、数百年の悲願なの。分かって頂戴、レオン……」


 そう語るリリア。

 背後に並ぶは、完全武装の女性たち、総勢三百人。


 貴族らしい華やかな装飾を残したまま、実用性を重視した戦装束に身を包んだ者たち。

 その誰もが、武器を手にしている。


 剣。

 槍。

 杖。

 弓。


 そして全員が、エレノアと同じ目をしていた。


「……もしかして、貴族の令嬢、奥方、全員で魔王にカチコミをかけるおつもりですか?」

「むしろどこに行かない理由が?」


 リリアは、にっこりと微笑んだ。

 その笑顔には、王妃としての優雅さと、数百年分の怨念が同居していた。


 300人の女性たちも次々に声を上げた。


「魔法による大規模な奇襲、空爆!! 卑劣なる魔王に鉄槌を!!」

「人命を優先したとはいえ、多くの建物を破壊されました……!」

「民の安寧を脅かす魔王を許すことなどできません!!」


「「「「でも、そんなことより、一発殴ってやるのが私たちの夢なのです!!!」」」」


 何ということでしょう。

 この国には狂犬しかいなかったようです。



「言っておくけど、私の夢は魔王をぶん殴ることじゃないからね!」


 エレノアが頬を赤らめそんなことを言っていましたが、レオンはこの国の本当の姿を理解して、遠い目をしたまま討伐軍が出立するのをただ見送っていたのでした。



 ***



「――というわけで、さきほど王妃から魔王討伐完了の知らせが届いた」

「ち、父上? 早くないですか!?」


 女性陣が旅立って数時間後、魔王討伐の知らせが王城に届いていた。

 電光石火である。

 というか、魔王ぼんくら王子の居城は、旧王城跡地なので普通にご近所なのだ。


「いや、こんなものであろう」

 レオンの父である王様は、そらそうよとばかりに、そう返した。


「魔王を封印した、初代聖女のアナスタシア様はお一人で戦っておられた。その時代よりも研究、研鑽を積み、初代様より力を持った令嬢、奥方が300名で一斉にかかるのだ。よほどのことが無ければ魔王など2分でミンチよ」


「……え? それじゃあ、婚約破棄した意味って……」

 つい先ほどしたばかりの、エレノアとの別れを思い出しレオンはつぶやく。


「……エレノアからの手紙も届いておるな。念のため、あと三日三晩は、回復させてボコボコにしてを繰り返して、二度と復活したくなくなるようにしてから消滅させるとのことだ」


「「「「…………」」」」

「それと、当然のことながら全員無傷である」


 レオンを含め、会議室に集まっていた王国上層部の面々は、国王の言葉に顔を青くしながら一様に安堵の表情を浮かべてそれを聞いていた。

 なんやかんやで、みな妻や娘が心配だったのである。


「……何はともあれ、魔王の脅威は去った。この国は平和になったということだ」


 国王は、手紙を読み終わると目をつぶり、感慨を込めて言葉を続ける。


「そして、それはすなわち――」


 人々の視線が国王へと集まる。


「――婚約破棄が許される時代になったことを意味する」

「父上……?なにを――」


 目を開くと、王はじっとレオンを見つめた。

 そして、問いかけた。


「する?」

「しません!!」


 レオンは即答した。


「――ということだ。良かったなエレノアよ」

「……はい」

「ええっ!?」


 どこからともなく姿をあらわすエレノア。


「魔王をボコボコにしている最中だったのでは……」

「今は順番待ちですので」


 どうやら、魔王は人気アトラクション状態のようだった。


「レオンよ、お前の方で婚約を白紙に戻す気が無いのであれば、さっさとエレノアに改めて婚約を申し込むがよい。なんならそのまま婚姻でもかまわんぞ」


「どうやらエレノアの夢は、お前にちゃんと選んでもらうことのようだからな」


 耳まで真っ赤になるエレノア。

 この時、レオンは初めて真に理解したのかもしれない。

 自分が、ずっと本当に愛されていたのだということを。


 覚悟を決めた表情のレオン。

 二人はしっかりと向き合い――


「エレノア、僕は―――」

「―――はい」



 *


 *


 *


 その国では、今も婚約破棄の訓練は続けられている。


 ただ、魔王が討伐された時に、18歳の訓練では実際に婚約が破棄される風習が追加されたという。


 

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