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老害扱いされてパーティーを追放された大戦帰りの魔導士、無一文なので仕方なく魔法禁止の武闘大会に出場します

掲載日:2026/06/13

「おい!なぜ魔獣を追わない!?楽しようとするな!俺が若い頃は目についた魔族は一匹残らず処分してたぞ!」

怒号に近い俺の言葉。しかしその想いはまるで届かなかった。

「そ、それはなかなかの禁句。さすがに引いてしまいますわ……」

「老害のガチ説教……さすがにきついぜ」

魔獣は森の中に逃げていったが、仲間の言葉はぐさりと俺の心に突き刺さった。

「あらおじさま、顔が真っ赤ですわよ」

「効いてる効いてる!」

図星。

ひとまわりも年下の仲間に煽られて俺は感情の持って行き所に困っていた。

いっそ黙らせてしまうか?

さっきの魔獣のところへ瞬間移動して捕獲して戻る。目の前であの魔獣を灰にしておけばさすがにこの新人たちも――

「いい加減にしないか二人とも!」

リーダーの声が飛んできた。我がパーティーの長。やはり一回り年下である。

「レーゼルさんの言う通りだ。気のゆるみは即死につながる。そういう仕事をしているんだぞ」

やっときた加勢のおかげで、俺は心の中で矛を収めた。

「はい、それは十分理解しています」

「要は誰が言うってところだしねぇ」

ぐっ……!なんだこの舐め切った態度は!?

「はぁ、もういい。そんなことより紹介したい人がいる」

リーダーの妙に引っかかる言葉によって、小綺麗な魔導士ローブを纏った青年が現れた。

「今日から彼に後衛魔導士を務めてもらう。では順番に挨拶を――」

「は!?なんだそりゃ!?」

気づけばバカでかい声が俺から飛んでいた。

追加メンバーの話なんて聞いていない。

後衛魔導士?なぜ俺のポジションに補強が入る?

「おい、いくら何でも――」

その瞬間、リーダーは俺に向かって深く頭を下げた。本当に深く、身体が直角に折れ曲がっている。

「すみませんレーゼルさん!俺たちには俺たちのやり方で冒険を進めていきたくて!」

よく分からないことを叫ぶリーダーを見て、もう二人のパーティーメンバーも頭を下げる。

「自分勝手でごめんなさい!」

「本当に申し訳ありません!」

俺は謝られている。しかしなぜ謝られているのか理解できない。

リーダーがようやく頭を上げる。

「今日から我がパーティーは彼を新しく後衛魔導士とした4人パーティーとして再出発します!」

「……」

俺は来た早々に修羅場を見せられている青年に目をやった。

俺の視線に小動物のようにビクリと反応して……他と同じように頭を下げた。

「レーゼルさんがいなくとも、あなたの教えは我がパーティーに残ります!」

なんだか、かっこうのいいセリフを吐くリーダー。

「分かってください。分かってくれるのですね。ありがとうございます」

リーダーの言葉は最早どこをツッコんでいいかも分からない。

呆然とするとは正にこのことだろう。

俺は何も言うことなく荒野に立ち尽くしていた。

そうして気がついたら、その場には俺しかいなかった。

聞いたことがある。

パーティーメンバーにとんでもない無能がいると、そいつは追放と称しパーティーからはじき出されることがあるとのことだ。

……どうやら俺は追放されたらしい。



失意のまま街へ戻る。

夕暮れの石畳を歩きながら、俺は妙な気分になっていた。

怒りはある。悲しみもある。

だが何より困っていた。

「……さて」

宿屋が見えてきたところで足を止める。

資金はリーダーの管理だった。

そう、現在俺は無一文である。

宿に泊まれない。飯も食えない。追放された悲しみに浸る余裕すらなかった。

そんな時だった。

広場の向こうから歓声が聞こえる。

巨大な横断幕。

四年に一度開催される王都武闘大会。

「……これだな」

俺は即座に方向転換した。



大会の受付はガラガラだった。もうほとんどの参加者が手続きを済ませているようだ。

「参加希望だ」

その声にこたえて受付嬢が書類を差し出した。

若い女性だった。そして頬に大きな傷跡がある。いきなり戦いの熱を感じさせる。

「ありがとうございます。銀貨2枚です」

沈黙。

「……参加費になりますが?」

俺は頭を抱えた。

「ないのであれば参加はできません」

受付嬢の声が冷たい。

「ツケてくれないか?」

「えーと、あてがあるのですか?」

「優勝賞金で返す」

「無理です」

受付嬢は呆れた顔になった。

「だいたい貴方、魔導士なんじゃないの? そのローブ、どう見ても魔導士用でしょう」

「まあな」

「大会は魔法禁止です」

「知っている」

「知っていて来たの?」

「うむ」

「何しに?」

「優勝しに」

受付嬢が天を仰いだ。まあ仕方ない。

普通の魔導士ならそうだろう。だが俺たちの世代は違う。

大戦時代の最前線では、魔導士だから後ろに立っていればいいなどという甘えは許されなかった。

回復もする。剣も握る。槍も使う。殴る。逃げる。運ぶ。

そして生き残る。それが要求された。

とはいえ、そんな話を今の若者にしても老害扱いされるだけである。

俺は悩んだ末に言った。

「一つ試してみないか」

「何を?」

「得意じゃないが……」

そう言って傷跡へ手をかざした。受付嬢が警戒する。淡い光が集まる。修復魔法。俺の専門ではない。

だが大戦中、何度も仲間へ使った。

光が消える。受付嬢が瞬きをした。

俺は受付台の端に置かれていた小さな手鏡を顎で示す。

「見てみろ」

受付嬢は疑わしそうに鏡を手に取った。そして、固まった。

「……え?」

傷跡のない左頬に手を当てる。

なぞる。

もう一度、鏡を近づける。

俺は横を通り過ぎる。

「大会が終わったら倍にして返す!」



武闘場は満員だった。

今回の予選方式は特殊である。最高ランクの武闘家との自由組手。勝敗は関係ない。技量を見せた八名のみが本戦出場。

観客席は異様な熱気に包まれていた。

そして査定役の高ランク武闘家は恐ろしく強かったようだ。

九十九人挑戦。九十九人敗北。誰一人として勝負になっていない。

「すげぇ……」

「やっぱ英雄級だな」

「化け物だ」

歓声が飛ぶ。

残る挑戦者は一人。俺だった。

武舞台へ上がる。観客席から失笑。

「なんだあのおっさん」

「最後の挑戦者?」

「帰った方がいいんじゃないか?」

好き放題言ってくれる。

まあいい。

俺は身体を伸ばした。肩を回す。首を鳴らす。そして。右足を一歩前へ。左拳を顎の前へ。ゆっくり右拳を前へ出す。

対面の武闘家の表情が変わった。笑顔が消える。険しくなる。構えを取る。額から脂汗が流れた。

数秒が経つ。双方動かない。

やがて武闘家は構えを解いた。

「この勝負、私の負けです」

会場が静まり返る。

「は?」

「え?」

「何言ってんだ?」

武闘家は続ける。

「それでは、これから本戦出場の八人を選びます!皆様しばらくお待ちください!」

そう言って武舞台を降りた。

俺は呼び止める。

「勝負は水物だ。やってみれば分からないぞ?」

武闘家は苦笑した。

「そうかもしれませんが、私にはこれから八人を選ぶ仕事が残っているんです。いや、七人か」

そうして去っていった。

観客席は納得していなかった。

「疲れてたんだろ」

「連戦だしな」

「最後のおっさんラッキーだったな」

そんな声が飛ぶ。

俺は小さく呟く。

「なるほど」

最近の若者もひとくくりにはできないもんだ。



トーナメントの決勝戦。会場の熱気は最高潮だった。

ファイナリストは「フィジカルこそ正義!」と言わんばかりの巨漢の男。

そして俺。

「始めっ!」

審判の声。その瞬間、巨漢の姿が消えた。高速の胴タックル。俺は完全に身体を持っていかれた。

最悪だ、完全に気が緩んでいた。

そのまま胴をクラッチさせられた。身動きが取れない。

「ははは!先手を取ったぞ!」

巨漢の両腕が俺を締め上げる。骨がきしむ。

「正直、危ないと思った相手はお前だけだ!」

大歓声の中で巨漢が満足そうに言う。

「そしてそのお前も、この形に組めば怖くはない!」

「そうだな」

悔しいがその通りだった。俺の体術なんてこんなもんだ。専門の武闘家相手に、しかも体格差まである。組まれてしまえば抜けられない。

「まあ、優勝は諦めるか……」

俺は小さく息を吐いた。

「ところで」

「何だ?」

「お前みたいな魔族まで出場しているとは思わなかった」

巨漢の腕に一瞬だけ力が入る。

「……何を言っている」

「イントネーションが違う」

「は?」

「昔は人語を使う魔族も多かったんだがな。久しぶりに見たよ」

巨漢の表情が変わった。俺にだけ聞こえる声を出す。

「それを知られては、生かして終わらせられないな」

締め付けが強くなる。骨が鳴る。肺から空気が押し出される。

「一つ聞くが」

俺は苦しい中で言った。

「知られて困るのはなぜだ?」

巨漢が笑う。

もう人の笑いではなかった。

「そりゃ、お前さん」

その声はやはり人間のものではなかった。

「人間が食いづらくなるだろ?」

もう十分だ。俺は身体全身に魔力を満たす。

身体を捕まれたまま俺は頭を引き、巨漢の顎へ叩きつけた。

魔力を込めた頭突き。

鈍い音。巨漢の拘束が緩む。

俺は床へ落ちると同時に踏み込んだ。圧倒的連打。その一撃ごとに魔力を通す。

巨漢の皮膚が裂ける。その奥から黒い鱗が覗いた。

俺はその手首を掴んだ。

「お前のせいで……!」

俺は巨漢を空高く放り投げた。

「また老害扱いされちまうよ」

両の手の平を天に向ける。

かつて何度も撃ってきた魔導砲。俺は全身全霊で魔力を放った。光が武闘場を貫く。

その光の中で魔人は灰になった。



翌日。

俺は小さな家のソファーに身体を沈めていた。

全身が痛い。

魔導砲の反動もある。

久しぶりに全力で撃ったせいで、指先まで痺れていた。

「情けない」

昔なら三発は撃てた。今は一発でこれだ。やはり年か。

そんなことを考えていると、玄関が開いた。

「ただいま」

帰ってきたのは武闘大会の受付嬢だった。彼女は買い物袋を置き、俺を見るなりため息をついた。

「まだ生きてる?」

「なんとかな」

「よかったわね。街ではあなた、半分くらい死んだことになってるわよ」

受付嬢は椅子に座った。

「でもって魔人の件よ」

「ああ、そこは大事だ」

「巨漢の男は生きていた。昨晩、街から逃げ出した。あの大きな身体を見間違えるはずがない――。そういう話を流しておいたわ」

「どうなるかな?」

「あなたが殺人犯扱いされるのは避けられたと思う……けど」

「けど?」

「格式ある武闘大会を魔法で滅茶苦茶にした最低の老害」

「……そっちは避けられないか」

「無理ね」

受付嬢はあっさり言った。

「殺人犯よりはいいでしょう?」

「もちろん。しかしながら、だ」

俺は身体を起こす。

「なぜ俺をかくまってくれた?」

「分からない?」

そう言って彼女は自分の頬に手を当てた。

「分からん」

いや、そうか。

「倍返しすると言った参加費、あれは少し待て」

それを聞いて彼女はふうっと、ため息をついた。

「これだから最近の老害は……」

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