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黄金の竜  作者: ラーさん
第二章「竜との旅」
38/73

「美しき残酷の主」1

人の世の始まりを告げし七賢者、人々を七族に分かちて大地を満たす。


それ即ち勇敢なるフォロクレス、白き獅子に姿を変えて、フォロンの族を引き連れ、エルゼの沃野を走る。

それ即ち冷徹なるエパミノンダス、蒼き梟に姿を変えて、ルラの族を引き連れ、コルディの氷海を渡る。

それ即ち熱情のデマデス、赤き鷹に姿を変えて、バリュイの族を引き連れソルガ・サライの広野を飛びゆく。

それ即ち秀麗なるフリュネ、銀毛の牝馬に姿を変えて、ペレイラの族を引き連れデマデスの後を追い、ソルガ・サライの野辺へと馳せる。

それ即ち博愛のクラウディア、金毛の羊に姿を変えて、ムーラの族を引き連れ、バーゼルの大河を越える。

それ即ち不敵なるアルキビアデス、宵色の狼に姿を変えて、ハシュドゥバルドの族を引き連れ、シュバルの森林を抜ける。

それ即ち不屈のクレオン、黒き牡牛に姿を変えて、ゴークの族を引き連れ、ヤーマスの山脈へと至る。


地を拓きし七賢者、さらにそれぞれが族を七に分け、七七しちしち四十九支族をなさしむ。


つまりフォロンの族は、クラクル、エッダ、カーフ、サガン、ラシーニャ、ダンツェ、ポルポロ。

つまりルラの族は、ベーネ、タタル……


   (中略)


かくして、あまねく大地に人は満ち、人は謳歌し、人は世を統べる。

よみせよ。讃えよ。偉大なる七賢者を。

その恩恵は永劫に我らが身上に注ぎ、我らを祝う慈雨となろう。

嘉せよ。讃えよ。偉大なる七賢者を。

 

「人の世の始まり」より






「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!」

「下は駄目か!」

 階下に駆け鳴る複数の足音を聴いたジャミルは、抗議の声を上げるアシュリーに構わず、その手を強く引っ張って階段を駆け昇った。

「痛い、痛い」

「くそっ、どう逃げる?」

 タラスの商館は斜面に建っている。裏通りに面する勝手口を一階とすると四階建ての建物であり、ジャミルが先まで商談をしていたタラスの執務室は、広場側に開いた正面口のある三階にあたった。つまり階段を上がった四階は袋小路である。

「上に逃げたぞ!」

 階段から響く兵士の声と足音に急かされたジャミルは、手近に扉の空いている部屋を見つけると、脇に抱えた麻袋と一緒にアシュリーをほうり込むように中に入れ、急いで扉を閉めた。

「痛いではないか!」

 鍵をかけ、さらにタンスや椅子で扉を塞いだジャミルは、そこでようやく床に転がっているアシュリーに振り返った。

「どこから出てきた!」

「助けに来てやったというのに、なんだその言い草は」

 アシュリーはあぐらをかいて居直ると腕を組んでそっぽを向く。ジャミルは頭痛を覚えた。

 先ほどの兵士の口ぶりからすると、どうやら自分の手配書にアシュリーのことも書かれているようだった。おそらく勝手に自分のあとをつけたアシュリーがどこかで兵士に姿を見られ、逆にあとをつけられたのだろうとジャミルは推測した。出現の仕方から演算で姿を消していたようだったが、一瞬でも見られればアシュリーの容貌は強烈に印象に残る。懸念通りの事態にジャミルは重くため息を漏らした。

「だから目立つと言ったのに」

「なんだ、私が悪いというのか? お前が尾行されているのを見たから心配して来てやったというのに。ええい、何故にこんな奴の護衛など安請け合いしてしまったのか。自分の軽率を恨むわいっ」

「尾行?」

 すっかりふて腐れたアシュリーの言葉にジャミルが驚く。その反応に眉を上げたアシュリーは皮肉たっぷりに唇を突き出した。

「ほーれ、気付いていなかったではないか。どっちが目立っていたのやらな」

 それでも「あの兵士の言い方だとお前が一番の決め手になったようだったじゃないか」と言い返そうとしたジャミルの背後から大きな音がした。タンスや椅子で押さえた扉が音とともに激しく軋んでいる。扉を叩き破ろうとしているのだ。

「こんな言い合いしている場合じゃなかった」

 部屋を見渡したが逃げ道は窓ぐらいしかなかった。ジャミルは窓からそっと外をうかがう。窓は広場側で、眼下には畳んだ天幕や物資を詰め込んだ木箱、兵士の背嚢や荷積み待ちの馬車などが雑然と石畳の広場に散在している。その中で数十人の兵士が商館の正面に集まって包囲を形成していた。

「あっ、あの部屋だ!」

 そう叫ぶ兵士の声が聞こえた次の瞬間には顔の横の窓枠に矢が突き立っていた。ビィーンと矢柄やがらの揺れる音に肝を冷やしたジャミルは慌てて首を引っ込めた。

「わははっ。惜しいな、もう少し横だった」

「助けに来たんだろうが!」

 指を差して喜ぶアシュリーにジャミルが思わずそう叫んだ。するとアシュリーがニヤリと笑った。

「ほうほう、助けて欲しいか?」

 アシュリーは立ち上がると、ジャミルの顔を下から覗き込むように近づいてきた。

「やはり私の助けが必要だと?」

 その金玉きんぎょくにも似た玉肌たまはだに鼻腔を刺激する甘やかな芳気を薫らせる美貌が、ジャミルの眼前で盛夏に咲く金花きんかのようにこれ以上ない満面の笑みを開く。アシュリーの手がジャミルの頬から顎へと伸び、その無精髭を撫でると、鈴の音のような涼やかな声がアシュリーの口から優しく流れた。


「では、今までの数々の暴言と失敬な態度について謝罪をしてもらおうか?」


 ジャミルは歯噛みした。確かに他に選択肢はなかった。しかしだからといって、ここまで屈辱的な形でこんな選択を迫られるとはジャミルは思ってもいなかった。

 扉の軋む音がだんだんと大きくなっていく。


「……すみま……でした」

 

 しかしアシュリーは首をわざとらしく傾けて耳をジャミルに向けた。

「ん? よく聞こえなかったな」

 扉を押さえるタンスの揺れがどんどん激しくなる。ジャミルは同じ台詞を繰り返した。

「……すみませんでした」

 しかしアシュリーは耳をさらにジャミルの口元に近づける。

「あちらがうるさくてよく聞こえんなぁ。もっとはっきりと言え、男であろう」

 扉は激しくたわみ、ついに押さえの椅子が倒れた。


「数々の暴言と失敬な態度について謝罪いたします! どうもすみませんでしたっ!」


「よしっ!」


 やけくそに叫んだジャミルにアシュリーは会心の笑みで応諾を与えた。そしてジャミルから身体を離すと頭上に腕を回し円形の演算を描いた。

「まあ、見ておれ。派手に遊んでやろう」

 アシュリーのその愉悦に満ちた表情に、ジャミルは腹の底から冷たいものが喉にせり上がってくるのを感じた。そしてこの事態を招くことになった己の無力さと不運を恨んだ。

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