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黄金の竜  作者: ラーさん
第一章「黄金に輝けるもの」
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「復活」3

「門を閉めろ!」

 急ぎ村へ戻ったハンス達が異変を告げて、村の門が閉ざされる直前だった。武装した騎馬の一団が村に突入し、瞬く間に悲鳴と恐慌の渦を巻き起こした。

「フォルリの旗だ!」

 騎兵の掲げる旗差を見て、誰かが叫んだ。それは紛うことなく赤地に白獅子のフォルリ王家の紋章だった。

 この村はムーラン王国の東の端にあった。村の東を流れるバーゼル河を越えると、そこが隣国のフォルリ王国である。フォルリとムーランの間には数度の戦争があったが、この二十年余りは平和な状態が続いていた。そのためこの襲撃は、村人たちにとってまったくの奇襲となった。

 混乱に陥った村人たちを、騎兵は羊でも狩るかのように打ち殺していく。やがて槍で武装した歩兵も加わり、惨劇は悲愴の度を深めていった。そして誰が放ったか、村のそこそこで火が上がり、夜闇に赤く炎が爆ぜた。

 ハンスの手に引かれるアセリナは、腕のローラを強く抱き、村の外を目指して走っていた。

「くそっ!」

 火の燃え移った物見台が、轟音とともに崩れて、その行く手を塞ぐ。振り見れば、血に汚れた槍を構えた兵士が数人、こちらへと駆けてくる。

 ハンスは握った手を放し、燃え落ちた角材を拾い上げると、アセリナに決然と言い放った。

「ローラを頼んだ!」

 ハンスが角材を携え、敵に向かって走っていく。しかしアセリナは放された手を、その離れゆく背中へ伸ばすだけだった。

 ハンスの手にする角材が、先頭の兵士の頭部を横殴りに張り飛ばす。けれど続く敵の槍が、ハンスの胸板を貫き、背中に突き出た銀色の穂先が、炎に照らされ朱色あけいろに染まった。

「アセリナ、ローラを――!」

 ハンスの絶叫が耳鳴りのように反響して――消えた。

 槍が引き抜かれ、ハンスの身体が崩れ落ちる。ハンスの動かぬ身体を踏み越えて、兵士がこちらに迫ってくる。

 アセリナはローラの泣き声を聞いた。

 それでもアセリナは動けなかった。

 血溜まり倒れるハンス。

 泣き叫ぶローラ。

 伸ばした手は、何も掴めぬままに虚空に浮かぶ。

 燃えかげる村を背に、血塗れた槍を携えた、下卑た男の顔が前にあった。


「――ハンス」


 男の手がアセリナの腕を掴んだ。






 アセリナは自分に覆い被さる男の荒い息遣いを聴きながら、何度も、何度も、その光景を見ていた。

 俯せに倒れたハンスは幾度と見返しても、変わらぬ姿勢で倒れ続けている。

 傍らに眠るローラは、曲がった首に、もう二度と泣くこともない。

 あるのはのしかかる男の重みだけ。

(――か?)

 色を失った世界に声が聞こえた。

(――いか?)

 目をつむり、耳を澄ますと、闇の中に声を聞いた。

(――憎いか?)

 その声は囁きだった。耳を優しく打つそれは、熱を湿らす吐息のように、甘くアセリナの心に誘いを掛けた。

「ああ――」

 声にもならぬ唇の震えが、闇の中に細く伝わる。

「――憎い」

 アセリナはどこかで笑い声を聞いた気がした。

 そして、闇が渦を巻いた。


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