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黄金の竜  作者: ラーさん
第一章「黄金に輝けるもの」
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「出会い」5

 半年前だ。あの男、エルナンがオレの前に現れたのは。


 ……ああ、エルナンてのは王国の有力貴族エステ家の当主だ。王太子フォルランとは親しい友人だったって話だ。


 ……じゃあもうちょっと事情を詳しく話すか。


 もともと宮廷では王コンラートと太子フォルランの仲が悪かった。最後は親が息子に殺されちまうほどだからな。だから貴族達も二手に分かれてそれぞれに付いた。コンラート派は大貴族が中心、フォルラン派は中小、若手貴族が中心だった。このフォルラン派の有力貴族の一人がエルナンさ。


 そして五年前、ついにコンラートがフォルランに殺された。コンラート派の貴族は自分たちの地位が奪われることを恐れてフォルランの即位を拒み、王弟ベルトランを担ぎ出した。そしてさっき話した通りフォルランはベルトランとの戦いに敗れた死んだ。フォルラン派の貴族は大半が処刑、追放の浮き目にあった。


 ……ここまでくればだいたい分かるだろ?


 ……そう。生き残ったフォルラン派の連中は、死んだフォルランの替わりを求めて、どこで調べたかオレを捜していたのさ。


 ベルトランに対抗するには大義名分と旗印がいる。コンラートにはまだ遺児がいるから、ベルトランの即位は不当だ。このジャミルこそが正統な後継者である……ってな。


 ジャミルなんていう、どこの馬の骨とも知れない奴にそんな大義名分が通用するなんざ、誰も思っちゃいない。実際、理由なんてどうでもいいのさ。目的はフォルラン派貴族の復権だからな。ただ貴族は王の血を引いていないってだけだ。実態は貴族同士の権力争いで、オレはその道具って訳さ。


 ……ともかく、半年前ついにエルナンがやってきた。


 そのときオレは行商をしていた。昔は家族全員で行商の旅をしていたんだが、親父が歳になったから、家を借りて妹を世話に残し、オレが親父の行商を継いで家計を支えていた。そこにエルナンが現れた。


 エルナンはさっき話したオレの出生の秘密を語り、ベルトランの非道を並べ立て、自分たちと共に立ち上がろうと告げた。


 オレは断った。出生の話なんざ今でも信じていないぐらいだ。確かにベルトランには血生臭い話、例えば逆らった貴族を串刺しにした姿で蝋で固めて城内の広場に飾るとか、非道な性格を物語る話は多かったが、それもあくまで貴族に対するもので、別に税金が上がった訳でもなし、戦争が起きた訳でもなし、オレが政治に興味を持つ理由なんてなかった。


 エルナンはその場はすぐに引き下がった。だがな……


 ――すぐに考えをあらためて頂けると思いますよ。……そう、今回の行商を終える頃には――


 奴は最後にそう言い残した。オレは不安を覚えて行商を切り上げ、急いで家に戻った。そしたら親父と妹の姿がない。まさかと思って家の中を捜していると、玄関で音がした。玄関にはさっきまでなかった手紙が貼られていた。手紙にはこう書いてあった。


 ――あなたが自分の人生より家族が大切であると思うなら、今夜、街の広場までお越しください。もし自分の人生の方が大切であるとお思いなら、明日の朝、首を二つお届けに参ります――


 こうしてオレはジャミル殿下になり、ベルトランと戦って五日前に敗れ、逃げる途中で矢に当たり、河に流され、君に助けられ、ベッドに寝ているという訳さ。


 ……オレはな、あの戦いに負けたときに死んでやろうと思ったんだ。そうすりゃ、親父と妹に人質の価値が無くなるから。けどエルナンはこう言った。


 ――戻らない時は、後を追わせるよう言い付けてある――


 さらに付け加えた。


 ――一人で死ぬのは寂しかろう?――


 ってな。


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