「出会い」2
まぶたに薄い光を感じたジャミルは、ゆっくりと目を開けた。
薄暗い部屋には鎧戸からわずかな光が漏れ射している。背中に敷かれたマットレスから干し藁の柔らかい匂いがした。鼻をくすぐる芳香に意識を呼び起こされたジャミルは、自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。
「ここ…は…?」
ジャミルの言葉に応える声などない。誰かいないのかとジャミルが身をよじったとき脇腹に鈍い痛みが走った。その痛みでジャミルはその傷の存在を思い出すと同時に、あの熱風が背を焼き、爆風が身体をさらう一瞬の感覚が鮮烈に蘇り、全身を震わせた。
(生きて…る?)
手で傷を確かめてみる。包帯も巻かれていない身体に火傷の痕はなく、あの深々と脇腹を突き破った矢傷も肉の盛り上がった小さな傷痕があるだけだった。
(夢? いや……)
浮かんだ疑念もすぐに否定した。傷痕の奥に残る疼くような痛みは、自分の記憶が決して間違いでないことを主張している。
「動けるか……」
身を起こそうと腹筋に力を入れると、鈍い痛みは次第に鋭さを増し、ジャミルの額に脂汗を浮かばせた。ジャミルは再びベッドに身を預け、苦笑を浮かべる。
(ともかく生きてることだけは確かだってことだ……)
しかし傷がこうも塞がるほどの長い間、自分は眠っていたのだろうか? それはどれほどの時間なのだろうか?
――後を追わせるよう言い付けてある。
過ぎた時間を思うほどにエルナンの言葉がジャミルの不安を掻き立てた。
(早く戻らなくちゃならないのに……)
焦燥と痛み。ジャミルの顔は胸にわだかまる重く苦しい息に、潰されんばかりに激しく歪んだ。
そのとき、扉の開く音がした。
甘い風の匂いが部屋に通った。ジャミルは首を動かし、その方を見やる。
「目を覚ましたの?」
それは夜露に濡れた木々の梢を渡る鳥の囀りのような、澄んだ女の声だった。
女はベッドの前を横切り鎧戸を開けた。差し込む光が暗がりを払う。目を細めたジャミルは、明るさに慣れるにつれて徐々に映る女の容貌に、思わず息を漏らした。
「あ……」
腰まである黒鳥の濡れ羽のように深い瑠璃色を光に散らした艶やかな黒髪、朝露を浴びた花びらのようにしっとりとした薄紅色の唇、白磁のように滑らかな肌は羽ばたかんとする鳥のごとき生気を端正な輪郭の中に秘めていた。
(美しい……)
そして曙光に浮かぶ紫雲の陰が作り出す鈍色を帯びたかのような、儚げな色を映す灰褐色の瞳が、時の止まったかのように真っ直ぐにジャミルの顔を見つめていた。
ジャミルは自分の鼓動を耳に聞いた。