プロローグ
初めての連載で、小説を書くのも数年ぶりです。仕事もしているので最後まで書けるか分りませんが、お付き合いしていただければ幸いです。
美しき残酷の主
醜き生命の王
光輝に包まれし黄金の魂を
腐臭を放ちし漆黒の肉塊の内に収め
孤高の頂きに立ちて四海を睥睨せし
無慈悲なる万物の皇帝
その名は竜なり――
「名も無き詩人の讃竜歌」より
闇が渦を巻いている。
(息苦しい……)
闇には気配だけが満ちていた。全身に絡み付くその気配は、久しく触れえぬ温もりを愛でるかのように、彼女の肌を舐めていった。
(……喜んでいる?)
肌に染み込んでくる闇の息遣いは徐々に速く、長い沈鬱を払うかのように胎動している。
彼女の唇は薄く笑い、闇がそれを撫でる。
(お前に感情があるというならば、私の心も知れるはずだ)
彼女は願い
闇は問い掛け
彼女はうなずき
闇は笑った
渦は闇を払うかのように次第に回転を速め、やがて渦の中心から小さな光が現れるのが見えた。
(――黄金の光?)
次の瞬間、光は爆発的に溢れ出した。闇は姿を失い、黄金の光の奔流が彼女の全身を一瞬にして灼いた。
全身の感覚が灼かれ、手足が黒い炭に変わるさまを視界の端に認めながら、彼女は黄金の光の中心を見据え、唇を焼き尽くされ剥き出しになった歯を開き――笑った。
(そうだ。たぎれ、私の心よ。何もかも焼き尽くし、黒い心の灰になれ……!)
彼女は光に熔けた。