きみに恋してる。
ギリギリ夏の文化祭です。
よろしくお願いします。
9月中旬、まだ夏の暑さが残る今日のこの日、校内には浮かれたような空気と人々の熱気が溢れていた。
文化祭。一生に数回しかないこのイベントは、思いもよらぬ非日常を与えてくれる。
『ねえねえ!君もこれ着てみなよ!』
『えっ、だってこれ、女子用じゃん』
『えー、絶対似合うよ!ほらほら!』
はしゃぐような女子たちの声に押されているのは、俺の好きな人。完全なる悪ノリに巻き込まれて困っているが、俺はそれを助ける気にはならなかった。
『とりあえず着てみなって!いってらっしゃい!』
『ええ、ちょっと!』
そういって彼は更衣室に押し込まれる。助けた方が良かったのだろうが、好奇心が勝っていた。更衣室から出てきた彼は、どんなふうになるのだろう。
部屋の中からはがさがさと音がする。着替えている。そう思うだけで心臓が騒いだ。
ガラガラガラ。控えめに開いたドアから彼が出てくる。
『…どう、かな』
そう言って出てきた彼の姿は、言葉にできないほど可愛かった。丈の長い黒のワンピースに、フリルのついた白いエプロン。頭にはこれまたフリルのついたカチューシャが付けられている。華奢な体に、短い黒髪のアンバランスさがまた味を出している。
『…え、めちゃくちゃ似合ってるよ!!』
『かわいい!!写真撮らせて!!』
女子たちははしゃいだような声でスマホを構えている。当の彼は顔を赤くしてスカートを握りしめているが、その仕草までどこか煽情的であった。
『やっぱり似合うと思ったんだよー!』
『あ、ほら、友達に見せてきなって!』
そう言って女子たちは彼を俺の前に引っ張ってくる。近づいてくる彼に、俺の心拍数が上がる。彼は顔を真っ赤にして言った。
『…どう、かな』
どう、と言われても、この姿を的確に言い表せるような言葉を俺は持っていなかった。どんな言葉を使っても、その美しさは伝わらないような気がする。
『…似合ってる。』
『似合ってるって言われても…』
結局そんなありきたりなことしか言えない。
彼は困ったように顔を隠している。
その姿に、ほんのいたずら心が湧いた。
彼の肩を引き寄せ、耳元で囁く。
『可愛い。』
『…え、えっ?!!』
彼はさらに顔を赤くさせる。
そのフリルが揺れる様も、俺には鮮烈に目に映る。
『あれ、あの子って男の子?』
『へえ、可愛いじゃん』
遠くから声が聞こえた。振り返ると、そこには見慣れない制服の男子グループ。こちらを不純な目つきで見ている。
グループの一人が近づいてくる。彼の肩に触れて、声をかけた。
『君、その服すごく似合ってるね。どう?俺と一緒に回らない?』
『おいお前やめとけってー!』
グループの男子は止めることなく茶化している。彼の方を見ると、完全に困っているようだった。
『えと、あの…。宣伝しないといけないし、困ります…。』
『いいじゃんちょっとくらい。ほら、行こう?』
そう言って男は彼の白い手を掴む。
その時俺の中にふつふつと湧き上がる気持ちがあった。
咄嗟に彼の肩を抱き寄せて言う。
『こいつ、俺のなんで。』
途端に後ろで見ていた女子から悲鳴が上がる。
睨みつけるわけではない。ただ、瞳の中に確かに燃えている独占欲。
ーー手を出すな。
言外の言葉が伝わったのか、男たちはすごすごと去っていった。
しばしの沈黙、俺は彼を離さずに抱きしめていた。廊下の人通りは多く、俺たちを噂する声が聞こえる。
『…あの、』
彼は恥ずかしげに俯いて言った。
『何?』
『周りに見られてる…』
『見せときゃいい』
『でも…』
そう言って彼は黙り込む。
辺りを見渡すと、
ーー何あれ、付き合ってるの?
ーー男同士で?
心無い声が聞こえる。彼はますます顔を赤くしていた。
俺はわざと見えるように手を繋ぐ。
『俺の大切な人に、あれこれ言わないでもらえる?』
今度こそ周りから悲鳴が上がった。なぜか拍手が上がっている。
そこで我に帰った。
俺は何を言っているのだろう。俺が彼を一方的に好きなだけで、俺たちはただの友達。恋人でもないというのに。
慌てて手を離して頭を下げる。
『っごめん!嫌だったか?』
嫌われたかもしれない。怒られるかもしれない。不安に騒ぐ内心に反して、返事は意外なものだった。
『…嫌じゃ、ない』
『え?』
彼はそう言って俺の服の裾を掴んでくる。
安堵より先にこちらの顔が熱くなる。
気がつけば抱きしめていた。
夕日が窓から差し込んでくる。
俺は彼に囁いた。
『…好きだよ』
彼は笑って言う。
『俺も。』
おめでとう、とどこからか祝福の声が上がる。
今日、俺たちは恋人同士になった。




