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刺し傷
超短編BLです。
不穏な部分があるので少し注意していただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
『…ごめん』
彼はそう言った。放課後の教室、二人きりの沈黙。窓の外ではうるさいくらいに蝉の声が響いていた。
逆光で彼の顔が見えなくなる。
わかっていた。きっと、届かないと。
先ほどまで上がっていた血圧が引いていく。体が冷えていく感覚がする。冷房の風が、皮膚を刺すような心地だった。
さよならと、言いたかった。
そう言えたら、どれだけ良かっただろう。
でも俺自身がそれを拒んでいた。
それなら、せめて。
俺は彼に傷をつけた。
決して忘れられないように。
取り返しのつかないように。
それだけでよかった。
それだけで、君の中に俺が生きるのなら。
彼の小さな顎に触れ、その唇にキスをする。
決して離さないように、逃げられないように。
長いようで短い、一瞬の煌めき。
彼はまだ地べたに座ったままだった。
その怯えたように揺れる瞳が、俺を見上げている。
まるで怪物を見るように。
きゃははは、と外のはしゃぐ声。
ふいに窓に映った顔を見ると、
俺は笑っていた。




