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陽の昇る国  作者: とのぶんつ
はじまり編
5/7

第五話 帰ろう

 暗く閉ざされた空間に、錦戸 陽出(にしきど ひので)はひとり佇んでいた。

「また…、夢の中……?」

 見渡す限りの無機質な地平線。しかし、今までの仄暗さとは違いどこまでも黒く一寸先も光は見えないのに、はっきりと指先まで己の輪郭を捉えている。指先まで悴んでしまうほど冷たい空気に肺が潰れそうだった。

 

「……ノッ!」


 どこかで聞き慣れた声がした気がして思わず振り返る。辺りは変わらず真っ暗な重く冷たい虚のまま。

 急に怖くなり、陽出は無我夢中で走り出す。走っても走っても光は見えず、それどころか闇はさらに濃くなりまるで陽出を弄ぶかのように思えた。

「……なんでっ、今までこんなに暗かったこと…っなかったのに!」

 上がる息を押し退け叫んだつもりが、闇の中に声をが吸い込まれるかのように小さくほとんど声は響かなかった。それどころか己の吐息すら徐々に薄れ、冷たい静寂が視界すらも奪おうとする。

「もう……、やだよぉ……。」

 陽出はよろよろと蹲り、顔を覆う。こんな嫌な夢、早く覚めてしまいたい。心の中で覚めろ覚めろと繰り返し必死で唱えながら、その時がやってくることを祈っていた。

 

「お前は、何のために生きているの。」


 本当に突然のことだった。頭の中に冷たく聞き覚えのある声が鮮明に響く。

「ひ………っ!?」

 自分以外の声に体が大きく跳ね、ばっと顔を上げる。辺りは相変わらず真っ暗のまま。声の源はどこにもおらず、凍りつく背筋に足がすくんで動けなくなる。

「誰か…、誰かいるの……?」

 霞む声に反応するように真っ黒いモヤが陽出を囲み始める。

「な、なに…!?」

 戸惑う陽出を待つことなく、一瞬で視界の全てがモヤに包まれ、思わず目を瞑る。


 ――

 

「……え?」

 しばらくして、目を開けた先に広がる視界が陽出の困惑を誘う。

 陽だまりが小さな窓から差し込み、規則正しく敷き詰められた床板を明るく照らしている。すぐそばにはイグサの香る畳が敷かれており、チリひとつない完全美がそこにあった。

「あれ…、なんで……?」

 キョロキョロと辺りを見渡す。いつの間にか黒い地平線は古びた屋敷へと世界が移り変わっていた。

 状況が理解できず困惑していると、深々としたため息が聞こえてくる。

 振り返ると着物姿の老婆が立っていた。

「え……、あの……。」

 さっきまで誰もいなかったのに。突如として現れた老婆の声に、思わず体を震わせ会釈をする。老婆は再びため息をつき、首を振りながら額を覆う。

「…実娘(出来損ない)の子どものくせに本当に生意気なことね。」

 そう言って老婆は手を振りかざす。


 バシッッ!!

 

 いきなり頬を叩かれた。訳もわからず目を見開くが、ヒリヒリと熱くなる頬の感覚を、陽出はなぜか知っていた。

「これ以上殴られたくなければ少しは成果を上げることね。錦戸の名を汚す真似は許しません。」

 老婆はキツく陽出を睨みながらピシャリと音を立てて扉を閉める。

「なん…で……?」

 突然現れたと思ったら、突然引っ叩かれた。このひどく曲がりくねった理不尽に、陽出は立ち尽くす他なかった。

 どことなく見覚えのある屋敷に自分を何故か嫌う老婆。理不尽の理由を考えようとすると、蓋をしていたはずの臭いものが溢れてきそうで吐き気を催す。

「う……ぐぅ…………っ。」

 陽出はその場に蹲り、走り出す鼓動を必死で抑える。

 キィーンと耳鳴りが響き、目を瞑りながらひたすら呼吸を繰り返す。

 弾けそうな心臓を抑えることに必死で世界が万華鏡のようにぐにゃりと歪み、移り変わっていく様子に気がつくことができなかった。


 ――

 

「まじお前何で生きてんの?」


 再び背後からどこか聞き覚えのある声が響く。

「えっ……?」

 恐る恐る顔を上げると知らぬ間にまた、違う景色へと移り変わっていた。

「ここは…?」

 見渡すと古びたコンクリートに囲まれた狭い部屋と、強烈なアンモニア臭を放つ便器。じっとりとした高い湿度と臭いも相まって吐き気を催す。

 振り返ると真っ白なユニフォームに身を包んだ少年数人が、陽出を囲んでいた。

「あ……あの、なに…か……?」

 彼らは汚物を見下ろすかのように陽出を睨み、むき出しの敵意を全身から放っていた。そのうちの一人が眉をひそめ、陽出の胸ぐらを強引に掴む。

「何寝ぼけたこと言ってんの?お前のせいで試合に負けたんだけど。」

 何のことかわからず戸惑う陽出に痺れを切らしたのか、少年の一人がバッドで陽出の頭を殴りつける。

「ぐぁ…っ!?」

 頭から全身に広がる衝撃に視界がぼやけ、追い打ちをかけるように後頭部から鈍い重みが襲いかかる。

「ほら、水分補給だ。飲めよ。」

 別の少年が陽出の頭を思い切り踏みつけ、便器の中に押し付ける。鼻や口から勢いよく汚水が侵入し、ニュルニュルと喉を引っ掻きながら胃の中へ溜まり始める。

「ぐぅぉ…っ、うぉぇぇぇぇっ!!」

 胃から濁った水が逆流し、より酸っぱい臭いが強くなる。その様子がよっぽど面白いのか少年たちは屈託のない笑顔で陽出を罵りタコ殴りにする。

「汚ねぇぇぇぇぇ!!まじでキモすぎぃぃぃぃ!!」


「ウンコマンしねぇぇぇぇぇ!!」


「汚物消毒ゥゥゥゥ!!」


 次々と繰り出される理不尽に、陽出は訳もわからず悶えることしかできない。

「ごぼ…っ、かっ……ぉぇ……、な……ん…で…ぇぉっ」

 マシンガンで撃たれるかのように、理不尽な拷問は続く。全身で受け止め切れるキャパシティを超えてもなお、彼らは力の限り陽出を虐げ続ける。次第に視界がぼやけて意識が遠のいていくが、いつまでも気を失わせてくれるほど、この世界は優しくなかった。

 再びぐにゃりと光を乱反射させ、あっという間に世界は周囲の姿を変える。

 

 ――

 

「目を開けなさい!人が話しているのに眠るなんて恥を知りなさい!」


 ピシャリと音を立て、頬に走る鋭い熱さが覚醒レベルを一気に上昇させる。

「うぐぅ……。」

 気がつくと再び違う景色。木でできた柱と扉、石畳の地面と分厚い上り框。

 恐らく最初に飛ばされた屋敷の玄関だろうか。侘び寂びを感じる屋敷の中で、今度は着物の老婆に胸ぐらを掴まれ殴られていた。

「ぼ…く……は……。」

 痛みで力の入らない体を奮い立たせるが、口すらまともに動かせない。

「喋る権利はお前などにない!!」

 そう言って老婆は拳を振り上げ頬を殴る。ドカッと鈍い音が響き、頭がぐらっと揺れる。

 ここまで散々痛い思いをしてきたからなのだろうか。先ほどから何度も殴られてばかりで、不思議と痛みは徐々に薄まっていくかのように感じた。

 まるで霞がかかるような思考で、ただこの時間が終わることを切に願っていた。

「私の子どもはッ!みんな優秀なのにッ!お前たち親子はッ!どこまで私にッ!恥をかかせれば気が済むのッ!」

 ドカッ、バキッと一発一発に赤黒い感情を込めながら殴り続ける老婆。壁に抑えられながら、頬や頭、鳩尾と肌が青くなるまで攻撃は止まなかった。

 抵抗する力はおろか、陽出にはもう考える力すら残っていなかった。なんで殴られるのかなんてどうでもいい。とにかく楽になりたい、消えてなくなりたかった。

 ゆっくりと目を瞑ったその時、急に周囲の音が消え、攻撃がぴたりと止んだ。


 ――


 ずしりと重たい体を起こし、恐る恐る目を開ける。老婆は消え、揺らぐ視界が徐々にはっきりとした輪郭を描き始める。

「は……は……はくしょんっっ!」

 身を凍らせるほどの寒さに大きなくしゃみをする。飛び出た息は白く、あっという間に冷たくなってしまった。

 今度は周囲が真っ白な雪景色に覆われ、木枯らしが吹き荒れる街路に移り変わっていた。

「さ……むぅ……っ。」

 震える体を必死で覆いながら、小さな吐息を漏らす。降り積もる雪が皮膚を縮こませ、全身の傷口がキリキリと蝕まれるようで痛い。

 震える体を一生懸命擦りながら、霞む白い世界の中を観察する。

「こ…こ……って……。」

 大きな道路に立ち並ぶガラス張りの店舗と車道を走る車の群れ。どことなく見覚えのある風景に息が詰まりそうになる。

「……知ってる。知ってるよ、僕……っ。」

 頭の奥底にしまい込んでいた記憶が一気に溢れ出す。


 …真冬のあの日、陽出は確かにこの通りを歩いていた。あの時も陽出は全身ボロボロで、誰がみてもみすぼらしい外見をしていた。それなのに周りを通る人々は気にも止めず、まるで世界が陽出を除け者にするかのように忘れられていた。

 溢れてくる記憶を抱えながら、よろよろと信号待ちの交差点へと歩き出す。あと数秒で変わる赤信号、周りが静止している中、陽出は飛び込むように駆け出す。

「……僕、は。このあと…確か……っ。」

 そうだ、僕は……あの時“君”を見つけて……っ!


 ピピィィーーーーーッ!!!


 鳴り響く強烈なクラクションと、巨大なトラック。全身を襲う壊れそうな衝撃に、宙を浮く己の体。

 劈く悲鳴といまさら当たる無数のスポットライトに揺れる視界の中、頭の中に広がり続ける赤黒い記憶の中身。

 

 あぁ、そうか。僕は……。


 走馬灯のように溢れ出す幸せじゃない記憶が、陽出の頭の中を支配する。誰にも愛されない、誰も求めてくれない。

 一粒の雫と共に意識がずるりと抜け落ちていった。


 ――


 目を開けば再び無機質な真っ暗闇。見渡す限りの深淵に、陽出はぐったりと跪く。

「……やっぱり、夢じゃない。」

 自分の頭の中に溢れる幸せじゃない記憶がゆっくりと、泥水のように溜まっていく。踠いても踠いても、氷のように冷たい現実が、逃げ道を塞いでくるかのように。


「オまエ、なンのたメにイキてルの?」


 振り返ると、冷たい泥の毛皮を身に纏った化け猫の姿。よほど見慣れてしまったのだろう、不意に現れるその異形に陽出はただ呆然と見上げていた。

 魔物はあの日と同じ、金色の目玉を満月よりも丸く飛び出させ、まっすぐこちらを見つめていた。まるで、銃口を突きつけるかのように。

「……僕って、なんで生きてるの?」

 ポツリと呟く陽出の声に、魔物はさらに目を丸くする。不思議と恐怖心はなかった。むしろこの状況が他人事のように思えて、コマ送りでホームビデオを眺めているかのような気分だった。

「…やっぱりなんでもいいよ。……なんかもう、疲れちゃった。」

 そう吐き捨てて、陽出はそっと両手を広げて目を瞑る。ぐちゃぐちゃに頭を駆け巡る冷たい記憶も、泥のように重たいこの空気も全部忘れ去りたい。必要とされない自分を棄ててしまいたかったのだ。

「なンで……?」

 魔物は無防備な獲物を前に、飛びかかることもなくその場へ座り込む。

 その一瞬の間に全身を逆立てて、金属を引っ掻くような声で叫ぶ。

「なンでッ、なンデッ!ナンデッッ!!」

 陽出を襲うわけでもなく、ただ一心不乱に己の毛を掻きむしりのたうち回る。辺りに泥を撒き散らし、その度に巨体はみるみる縮んでいく。

 その悍ましくも惨めな姿に、陽出はただ呆然と立ち尽くすほかなかった。

「君は、いったい……。」

 思わず駆け寄ろうとしたその時。


「ヒノッッッ!!!」

 

 再び、己を呼ぶ声が聞こえてくる。先ほどとは違い、鮮明に鼓膜の中をこだまし、一筋の光が天高く漏れ出す。

 コツ、コツと硬い靴の音が響き、冷気に包まれた空間にほんのりと懐かしい茶葉の香りが漂う。

「……リンゴ。」

 振り返ると幼馴染、木剣倫吾(きつるぎりんご)の姿。苦しむ魔物を一瞥し、そっと陽出の手を握る。

「無事でよかったよ。……アイツはもう時期に消える。帰ろう、ヒノ。」

 悶え苦しむ獣を横目に、倫吾は優しく微笑みかける。泥と血が滲む彼の手はどことなく震えているようだった。

「……ねぇ、倫吾。僕、何のために生きてるのかな。」

 陽出は倫吾の手を振り解き、暴れ苦しむ魔物を見つめる。辺りには真っ黒な泥が飛び散り、辺りをより闇に染めていた。

 ゆっくりと陽出は魔物に近寄る。すっかり小さくなった魔物は今も尚苦しそうに踠いていた。

「ねぇ、君はなんで僕に昔の記憶を思い出させたの?」

 金色の瞳は黒く濁り、光がくすんでいた。大粒の泥を垂らしながら魔物は消え入りそうに吐息を漏らす。

「チが…ウ……、ほンとう………は……。」

 そこまで言いかけて、魔物はフッとチリになって消えてしまった。残されたのは泥まみれの真っ暗な空間と自分たちだけ。

「あはは、結局わからないままだったね。……なにもかも。」

 力なく笑い振り返る陽出。幼馴染に見せるその顔は精一杯の虚勢が表れていた。肩は頼りなく震え、目からは光の粒が溢れ落ちそうだった。耐えきれず陽出は再び背を向け座り込む。

 倫吾はゆっくりと駆け寄り、背中合わせに座る。

「なぁ、ヒノ。……俺は君がいないと寂しいよ。」

 冷たい空気がほんの少しだけ、張り詰めた温度を柔らかくする。

「昔の君のことを、俺は全て知っているわけじゃない。だけど、今の君のことはよく知っている。」

 背を向けたまま話す倫吾の尻尾は毛が逆立ち、低く地べたを擦っていた。それでも、背中越しに伝わる彼の温もりは力強かった。

「君は……、俺の隣で笑っていてくれればそれでいいんだよ。」

 空気は変わらず冷たく場を支配しているが、重苦しさは消えてかすかに光が滲み出す。

「倫吾……。」

 最後の冷たさを忘れさせるように、倫吾は柔らかい笑みを浮かべながら振り返る。

「……帰ろう、ヒノ。」

 そっと手を差し出す彼の目は、採れたての林檎のように鮮やかに紅く輝いていた。

 その瞬間、辺りは眩い光に包まれ黒いモヤが次々と消え去っていく。陽出は目を強く瞑り顔を覆う。

 徐々に意識が光に包まれる中、倫吾の笑顔がどこか切なげな気がした。


 ――


「ぐガぁぁぁぁぁああああ!!!」


 場面が変わって木漏れ日の森、落雷のような閃光と火花が広場に溢れていた。

 敵を捕獲する光の壁がひび割れる中、浩宇は必死で魔物を押さえつけていた。

「……ッ!だめだ、破られる…ッ!」


 パリィィーーーーーンッッ!!!


 鋭い悲鳴を上げながら光の壁が崩れ落ちる。

「ぐぅぅぁ……ッ!!」

 割れた衝撃が浩宇の体を貫き、その場に膝を立てる。

「はぁっ……はぁっ……!」

 息を切らしながら魔物を睨みつける。土煙を上げながらゆらゆらと魔物がこちらに近づいてくる。憎しみと解放感の混じった金色の瞳を怪しく光らせながら。

「オまエ、コろス……!」

 無数の泥の刃を宙に浮かせ、一斉に射撃する。


「……ッ、“プロテクトルーム”!」


 咄嗟に光の壁を自身の周りに展開するが、雨のように降り注ぐ刃を防ぎきれずあっという間に破られてしまう。

「ぐはァァ……ッ!!」

 刃が次々と浩宇を突き刺していく。血飛沫が飛び交い、浩宇の白銀に輝くコートを赤黒く染めてゆく。

「シねェェェェェェェェェ!!!!」

 魔物の雄叫びと共に更なる泥氷柱の追撃に目を瞑ったその時。


「グ……ァ……?ァ……ッ」


 突如魔物が苦しみだし、魔物はその場にうずくまる。降り注いでいた泥の刃はたちまち崩れて落下する。

「も、もしかして……!」

 浩宇はボロボロの体を奮い立たせ、魔物にロッドを向ける。


「“シルバーウィザートレイル”!!」


 扉が映し出された魔法陣が現れ、中から真っ白な光が溢れ出す。


「お……っと…。か、帰ってきたの、か?」

 中から陽出を抱きかかえた倫吾が飛び出してきた。陽出も意識はないが命に別状はないようだ。

「よ……よかった、無事で……。」

 傷だらけの脚を引き摺りながら浩宇は二人の元へ駆け寄る。

「じ、じいさん血だらけじゃねぇか!」

「……話は後だ、来るぞ。」

 倫吾を遮り、浩宇の背後へ隠すよう前に出る。


「ウガァァァァァァァァ!!!!!」


 陽出と完全に分離した魔物は、今までとは違い真っ黒なモヤが全身を包んでいた。瓜二つだった陽出の顔は暗闇に変わりこちらを睨んでいる。


「最大の人質がなくなった今、思う存分君を殴れるよ……!」


 浩宇は己に突き刺さった泥の刃を引き抜き、血飛沫を上げながら魔物に突進する。

「じ、じいさん!何を……っ!」

 手を伸ばすも倫吾の声は届かず、魔物も勢いよく浩宇に突っ込んでくる。

「グガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 獲物が自ら懐に飛び込んできて嬉しいのだろう。咆哮を上げながら泥の刃を振り回している。

「これで終わりだぁぁぁッ!!」

 浩宇はロッドを逆手に持ち魔物の腹目掛けて突き刺す。


 グサッッッ!!

 

 魔物の腹からは黒くドロドロとした液体が流れ出す。

「ソれ、キかナイ。」

 魔物はニタニタと笑いながら浩宇の背中を切り裂く。真っ白なコートは完全に赤黒く染まり、大きく引き裂いた傷口が露出していた。

「じいさん!!」

 

「来るなッ!!」


 駆け寄ろうとした倫吾に叫ぶ。

「なぁ、君は僕に勝ったつもりみたいだけど。馬鹿正直に突っ込んできたと思ったかい?」

 浩宇はニヤリと笑い、ダイヤモンドをかざす。

 その刹那、カッと強烈な光を放ち、魔物を貫くロッドが共鳴するかのように輝き始める。

「グニャ……ッ!?」

 異変に気づいた魔物はロッドを引き抜こうとしたが、光が巻き付くように魔物を縛り上げ逃してくれない。


「“【ダイヤモンド】シルバーハレーション”ッッ!!!」


 強烈な眩い光がロッドから溢れ出し、ドッと太い柱のように天まで魔物を貫く。


「グニャァァァァァァァァァァァ!!!!」


 魔物の断末魔と共に辺りの泥がみるみるうちに浄化されていく。

「ぐわぁっっ!」

 離れて見ていた倫吾たちにも衝撃が襲い掛かり、陽出を抱えながら必死で近くの木にしがみつく。


「ニ……ィ…………ま………………ッ」


 浄化の光で吹き飛ぶ寸前、魔物は陽出を一瞥し空の彼方へと消えてしまった。

 最後までその様子を見届けた後、浩宇は膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。

「じいさん!!!!」

 衝撃の余韻でふらつく足取りの中、倫吾が駆け寄る。浩宇は肩で息をしながら顔を青くしていた。

「いや……大丈夫、これくらい……、魔力が回復すればどうにでもなる。それより陽出を……。」

 カラカラと笑いながらも、力が入っておらず瀕死寸前の状態であった。

 意識の戻らない陽出に手を伸ばし、そっと頭を撫でる。

「じいさんが死んだら……、陽出が泣くぞ。」

 倫吾は陽出を抱きかかえたまま、更に浩宇を背負う。震える膝に力を入れ、枯れ果てた森の中を歩き出す。

「帰るんだよ、みんなで。」


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