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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第8章 魔王城攻略のリスタート

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第97話 落下

 ヒュオオオオオオオオオッ!!


 耳元で風が唸りを上げている。

 視界には、どんよりとした空と、急速に小さくなっていく地上の景色。

 我らが狂戦士キョウは、魔法少女(物理中年)ラブリーの放った『地殻穿つ巨神の拳』とかいう、アッパーカットによって、成層圏に届かんばかりの勢いで打ち上げられていた。


(……高い。めちゃくちゃ高いな)


 アバターの内部で、先師京介せんし きょうすけは、恐怖で縮み上がりそうになりながらも、どこか他人事のように感心していた。

 眼下には、巨大な魔王城の全貌が見えている。遊園地の観覧車どころの騒ぎではない。


(怖いけど……ちょっと楽しいかも! なあポヌル! この高さから地面に叩きつけられたら、確実にゲームオーバーだよな!?)


 京介が、風圧に耐えながら隣を見ると、妖精猫ポヌルが、器用に翼を畳んで空気抵抗を減らしながら並走(並飛?)していた。


「どうかニャ? キョウには、いま強力な防御力強化魔法『初デートの緊張カッチコチ』がかけられているからニャ。魔法の効果中なら、物理ダメージを極限までカットしてくれるはずだニャ。理論上は、隕石になっても耐えられる可能性があるニャ」


(う、その名前は思い出したくない……。でも確かにそうだな。防御力が上がってるなら助かるかも……。ってお前はいいよな。どうせ落ちる直前に、その翼でふわっと飛べば良いと思ってるんだろ?)


 京介がそう言うと、ポヌルは悪びれもせずにヒゲを揺らした。


「そうだニャ。お主もようやく、このパーティにおける『自分の立ち位置』と『吾輩の立ち位置』が分かってきたみたいだニャ。成長したニャ」


(褒めてないだろそれ!)


 そんな軽口を叩いている間に、上昇の勢いが衰えてきた。

 風切り音が止む。

 無重力の浮遊感。

 それは、もうすぐ放物線の頂点に到達する事、すなわち――これから地獄の落下が始まる事を意味していた。


(……そろそろ、落ち始めるぞ)


 一瞬の静寂の中、京介は努めて冷静に思考した。


(実は僕、昔からバンジージャンプに憧れてたんだよね。一度やってみたかったんだ)


「ゴムはないけどニャ」


 ポヌルの容赦ないツッコミと共に。

 内臓が浮き上がるような感覚が襲ってきた。


 ヒュンッ……ゴオオオオオオオオオッ!!!


 落下開始。


(うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!)

「ニャアアアアアアアァァァッ!!!」


 キョウの巨体が、重力加速度に従って、猛烈なスピードで地上へ向かって落ちていく。

 軌道から推測すると、着地点は魔王城の敷地内。

 おそらく、城の中庭に見える、尖った塔のあたりだ。


(よし、このまま行けば城の中に着地できる! あとはこの強化魔法が仕事をしてくれれば……!)


 京介が、恥ずかしい名前のバフに祈りを捧げた、その時だった。

 視界の端に、無機質なシステムメッセージがポップアップした。


【防御力強化バフの効果終了まで、残り10秒】


(10秒!?)


 京介の思考が凍りついた。

 地面に激突する瞬間に、バフが切れる可能性がある。


【9】


「ギリギリアウトだニャ」


 ポヌルが、落下しながら冷静に計算結果を告げる。

【8】


(他人事みたいに言うな! なんとかならないのか!? お前が持って飛ぶとか!)


【7】


「吾輩がキョウみたいな筋肉ダルマを掴んで飛べるわけないニャ! 物理法則を舐めてはいけないニャ! 翼がもげるニャ!」


(くそっ! じゃあどうすれば……!)


 京介は必死に周囲を見回した。

 このまま落ちれば、バフが切れた瞬間に、生身で地面とキスをすることになる。即死だ。


(何か、何かないか!?)


 京介の視線が、落下地点より少し手前にそびえ立つ、一本の「塔」を捉えた。


【6】


(あそこだ!)


 京介の脳内で、閃きが走る。


(地面まで落ちるから時間がかかるんだ! 地面じゃなくて、あの空中に突き出ている塔にぶつかれば、落下時間を短縮できる! バフが切れる前に衝突できるはずだ!)


 交通事故を回避するために、別の壁に自ら突っ込むようなイカれた発想。

 だが、今の京介にはそれしか道がない。


【5】


(飛行機も尾翼で軌道修正できるんだ! 尻尾でもできる可能性はある! 曲がれ! そっちに行け!)


 京介は、唯一自由になる「尻尾」に全神経を集中させた。

 尻尾なんかで軌道を修正できるか分からないが、これしか手段がないのである。


 高速で流れる空気抵抗を感じながら、尻尾を上に突き上げて微妙に角度調整する。


【4】


(右だ! もっと右!)


 空気の流れを読み、尻尾で風を掴む。

 以前の京介なら不可能だった芸当だが、今の彼にはできる。

 キョウの落下軌道が、物理法則に逆らうように、ググッ、と少しずつ塔の方向へカーブし始めた。


【3】


(よし! 曲がり始めた!)


 ポヌルが、高度計でも見ているかのような目で地面を確認し、言った。


「そろそろ限界ニャ。吾輩は離脱するニャ。幸運を祈るニャ!」


 言うが早いか、ポヌルはふわりと翼を広げ、空気抵抗を利用して減速し、キョウから離れていった。


(うん! 見てろよ!)


【2】


 塔の外壁が、目の前に迫る。

 黒い石造りの頑丈そうな壁だ。

 普通なら激突死確定の壁だが、今のキョウは魔法の効果でダイヤモンド並みの硬度を誇っている!


(いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!)


【1】


 ドガアアアアアアアアアアン!!!!


 凄まじい轟音と共に、キョウの体が塔の外壁にミサイルのように突き刺さった。

 石壁が粉々に砕け散り、土煙が舞い上がる。


【0】


 システムメッセージが、無情にも、しかしタイミングよく表示された。


【防御力強化バフの効果が切れました】


(あ、危なかった……!)


 京介は、瓦礫に埋もれながら、安堵のため息をついた。

 コンマ1秒の差で、防御力が戻るところだった。


(ふぅ……。なんとか魔王城内部への侵入、成功だな……)


 京介が、瓦礫の中で一息つこうとした、その時だった。

 すぐ目の前の、土煙の向こうから。

 甲高い、女性の悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあああああああっ!?」


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