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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第8章 魔王城攻略のリスタート

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第96話 ミノタウロスvsレベル1

 これで何度目だろうか。

 先師京介せんし きょうすけは、アバターの内部で虚無の空を見上げていた。

 レベルは1。しかし、その中身ステータスは、数多の死線とバグと豆腐を乗り越えてきた、化け物じみた数値を維持している。


 我らが狂戦士キョウは、そんな事情など露知らず、いつものように自信満々の足取りで、因縁の相手――ミノタウロスの元へと歩みを進めていた。


「待ってくださいませ、キョウ様ぁ!」


 背後から、地響きのような足音と共に、ピンク色の巨星が迫ってくる。

 魔法少女(物理中年男性)、ラブリーだ。


「レベル1のままミノタウロス様に挑むなんて、さすがに無謀が過ぎますわ! ここは、僭越せんえつながら、私がキョウ様を援護して差し上げますわね☆」


 ラブリーは、バチコーン! と音がしそうなウインクを飛ばすと、慌てて魔法のステッキを構え、詠唱を始めた。


「夜空を流れるお星さま☆ 乙女の願いを叶えて下さいな♪」


(なんだ!? 何を始めたんだ!? そのステッキ、鈍器じゃなくて魔法の発動体としても機能するのか!? ていうか、ロクでもないことになる予感しかしない!)


 京介の警戒アラートが鳴り響く中、ラブリーが叫んだ。


「ラブリー魔法! 『初デートの緊張カッチコチ』!」


(ネーミングセンス!! どんな魔法だよ!!)


 ピンク色の光がキョウを包み込む。


【キョウのDEF(かたさ)が1000上がりました】


(防御力強化魔法かよ! って、上がりすぎだろ! 初期値の何百倍だよ!)


 京介が驚愕していると、ラブリーは「うふふっ」と満足げに微笑んだ。


「防御はこれで大丈夫ですわね☆ 次は……攻撃ですわ!」


 ラブリーは、うっとりと目を閉じ、次の魔法の詠唱に入る。

 その表情は真剣そのものだが、髭面ひげづらである。


「トゥインクル トゥインクル、お月様のうさぎさん――」


(トゥインクルなら星だろ!! 月関係ないだろ!)


 背後で繰り広げられるメルヘン地獄を完全に無視し、キョウはついにミノタウロスの目の前に到着した。

 かつて、何度も京介を絶望の底に叩き落とした、巨大な牛頭の門番。

 しかし、今日の彼は様子が違った。


「……スピ〜……」


 巨大な鼻の穴から、風船のように巨大な鼻提灯を膨らませ、気持ちよさそうに居眠りをしていたのだ。


(寝てる……。チャンスだ!)


 キョウが、その場で深く、大きく息を吸い込む。


(やめろ馬鹿! 起こすな! 寝てる間に殴れよ! 不意打ちすれば、多少はダメージを与えられるだろ!)


 京介の必死の制止も虚しく、キョウは腹の底から、魂の咆哮を轟かせた。


「ウガガガァァァ!!!」


 パチンッ!


 キョウの声圧で鼻提灯が弾け飛び、ミノタウロスがビクッとして目を覚ました。

 寝ぼけまなこの巨大な牛と、やる気満々の狂戦士。

 二人の視線が交差する。


「ブモッ!?」


 ミノタウロスが、キョウの顔を認識した、その瞬間だった。

 その巨体が、あからさまに「ヒイッ!」と震え上がった。

 そして、脱兎のごとく後ずさりし、ひしゃげた門の陰に身を隠すと、どこからか取り出した白い布を、棒の先に結んで必死に振り始めたのだ。


(まだ引きずってるのかよ! 前回のワンパンKOのトラウマ、効果絶大だな!)


 戦意喪失した門番。

 しかし、キョウの闘争本能は収まらない。彼は、ミノタウロスが慌てて逃げる際に落としていった、巨大なバトルアックスに目をつけた。

 自分の身長よりも遥かに巨大な、鉄の塊。

 キョウは、その柄に手をかける。


【装備レベルに達していません】

【装備不可】


(知ってた。レベル1だからな。そんな重い武器、持てるわけ……)


 京介が呆れてため息をついた時、視界のシステムメッセージが、バグったように明滅した。


【装備出来ません。装備出来ません。装備できまerror. ……ピピッ。判定修正。対象のSTR値を参照……規格外です。仕方ないので装備を許可……不本意ですが、ATK(攻撃力)に2000加算しま……す……】


 ズンッ!


 キョウは、いともたやすくその巨斧を持ち上げ、ブンと振り回した。


(えっ! 装備出来たぞ!? どんなガバガバ判定だよ!)


「レベル1にしては異常な程にSTRが上がってるからニャ。システムが『こいつレベル1詐欺だろ』って折れたのニャ」


 ポヌルが冷静に解説する。

 防御力はラブリーの魔法で+1000。攻撃力はバグ装備で+2000。

 もはやレベル1という概念が崩壊している。

 その時だった。

 後方で詠唱を続けていたラブリーの声色が、急に変わった。

 先ほどまでのメルヘンチックな声ではない。低く、重く、大地の底から響くような、本格的な詠唱の声だ。


「母なる大地よ……その無尽蔵なる活力を、愛する王子の足元へ注ぎたまえ!」


(……ん? なんだ、急に雰囲気が変わったぞ?)


「貧弱なるその肉体に、岩盤の如き硬度と、山をも砕く剛力を宿してっ!」


(貧弱って失礼な! ……でも、『剛力を宿す』? これは、まさか攻撃力アップのバフか!?)


 ラブリーの周囲に、ピンク色の、しかしどこか禍々しいオーラが渦巻き始める。


「燃え上がる乙女の愛を力の源泉へと変えて。今こそ覚醒の時よ♪――受け取って、万物を粉砕する絶対的なる愛の形を☆」


(まだ詠唱してる! 長い! でも、もう攻撃力補助はいらないんだよ。ATKも上がったし……バフは一時的だろ?)


 キョウは、斧を構えたまま、ミノタウロス(降伏中)に向かって踏み出そうとしていた。

 その背中に向かって、ラブリーがカッと目を見開き、叫んだ!


地殻穿つ巨神の拳タイタン・グランド・スマッシャー!!!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!


 地響きと共に、キョウの足元の地面が隆起した。


(……え? 足元?)


 京介が違和感を覚えた瞬間。

 キョウが立っていた地面(元々ミノタウロスが立っていた場所)が爆発し、そこから、巨大な岩石でできた「拳」が、アッパーカットを放つように突き上げられた!


 ドガアアアアアアアアン!!!


「ウガァッ!?」

「ニャアアアアアアアッ!?」


 キョウとポヌルの体が、巨神の拳によって、空高く、遥か彼方へと打ち上げられた。


(補助じゃなくて攻撃魔法かよォォォォォォォッ!!!)


 京介の絶叫が、空の彼方へ遠ざかっていく。

 地面に残されたラブリーは、ポカーンと口を開けて上空を見上げていたが、すぐにハッとして、可愛らしく(?)自分の頭をコツンと叩いた。


「あらやだ! ミノタウロスがいなくなって、キョウ様に当たっちゃいましたわ! やっちゃった! てへっ☆」


 舌をペロリと出す髭面の巨漢。

 空の彼方、キョウのアバター内部で、京介は急速に小さくなっていくその姿を見下ろしながら、強烈な風圧の中で思った。


(死ぬかと思った……。でも……これで、あの変人から離れられる……!)


 どこまで飛ばされるのかわからない不安。

 落下ダメージで死ぬかもしれない恐怖。

 そして、「ラブリーの愛」から物理的に距離を取れたという安堵感。

京介は、そんな様々な想いが入り混じった複雑な感情に包まれていた。


 魔法少女(?)ラブリーは飛ばされて行くキョウを見つめながら、「待っていてください! またキョウ様に会いに行きますわ☆」と言うと、魔王城の内部に走り込んで行くのであった。



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