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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第7章 セーブポイントの攻防戦

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第93話 前門の猪、後門の魔女っ子

 ズシン、ズシン、ズシン……!


 背後から迫りくる、地響きのような足音。

 それは、巨大な岩石が転がってくる音ではない。一人の「魔法少女(自称)」が、スキップしている音だ。


「待って〜☆ うふふふふっ」


 野太い、しかし愛嬌をたっぷり込めた声が、風に乗って鼓膜を震わせる。


(来るな! 来ないでくれえええええ!!)


 狂戦士キョウのアバター内部で、先師京介せんし きょうすけは、魂の絶叫を上げていた。

 現在のキョウは、SPD(はやさ)が初期値に戻っている。つまり、ただの足の速い人間レベルだ。

 対する追跡者、ラブリーは、その巨体に似合わぬ重戦車級の脚力で、着実に距離を詰めてきている。


(捕まったら終わる! 生理的にも、物理的にも!)


 京介が必死に尻尾を振ってキョウを急かしている、その時だった。

 前方の茂みが、ガサガサと激しく揺れた。


「ブモオオオオオオオッ!!」


 飛び出してきたのは、真紅の剛毛に覆われた、巨大な猪。

 三つの角を持つ猛獣、【クリムゾントライボア】だ。


(うげっ! ここでモンスターかよ!)


 かつて、レベル1の時に遭遇し、他のプレイヤーたちと共闘(という名の横取り)をした因縁の相手。

 だが、今は状況が違う。


 前には、突進してくる巨大猪。

 後ろには、突進してくる筋肉魔法少女。


(まずい! 挟まれた! 前門の猪、後門の魔女っ子だ!)


 絶体絶命のピンチ。

 しかし、背後のラブリーは、この状況を見て、なぜか瞳をキラキラと輝かせた。


「あら! あれはクリムゾントライボア!? ……まぁ! そういうことね☆」


 ラブリーは、頬を赤らめ、極太の指を組んで祈るポーズをとった。


「私と一緒に倒そうってことね☆ 初めての共同作業……じゃなくて、共闘を誘ってくださったのね! うれしい☆」


(違う! 断じて違う! ただ挟撃されてるだけだ!)


 京介の否定も虚しく、ラブリーは勝手に愛の共同作業モードに入ってしまった。


 一方、我らが狂戦士キョウは、背後のピンク色の化け物よりも、目の前の「敵」に反応した。

 彼は、速度を緩めることなく、真っ直ぐに猪に向かって走っていく。


「ウガァァァァッ!」


 クリムゾントライボアもまた、縄張りを荒らす侵入者に対し、怒りの突進を開始する。


「ブモォォォォッ!!」


 激突寸前。

 背後から、ラブリーの甘ったるい声が響いた。


「キョウ様! 私のオリジナル魔法を見せてあげるわ☆」


(魔法!?)


 京介の耳がピクリと反応する。

 あの筋肉ダルマ、魔法少女の格好をしているだけあって、魔法が使えるのか?

 もし強力な攻撃魔法なら、この状況を打開できるかもしれない!


 ラブリーが、ステッキを掲げ、詠唱を始めた。


「キラキラ光る、お星様……☆ 悪しき獣に、お仕置きよっ……☆」


(詠唱が痛々しい! けど、背に腹は代えられない! 頼むぞ!)


 その間にも、キョウと猪の距離はゼロになる。


 ドガァァァァァッ!!!


 正面衝突。

 レベル1(ステータス異常)のキョウと、フィールドボスクラスの猪が、真正面からぶつかり合った。


「ウガガガァァァ!!」

「ブホォォォ!!!」


 バキィン!!!


 互いに弾き飛ばされ、地面を削りながら後退する。

 キョウのHPバーが、ガクリと減った。


(ぐっ……! やっぱりレベル1だと痛い! 危なかった! 一歩間違えたら、またゲームオーバーになるところだった!!)


 キョウが体勢を立て直そうとした、その時。

 ラブリーの詠唱が完了した。


「いっくわよ〜☆ 必殺! ラブリーシューティングスター!!!」


(来た! 流星群メテオ系の魔法か!?)


 京介が期待を込めて見守る中、ラブリーは地面を強く踏みしめた。

 石畳が砕ける音と共に、その巨体がロケットのように射出される。


 そして。


 ドカァァァァァァァァッ!!!


「ブホオオオオオオオオッ!!!」


 ラブリーは、手に持った魔法のステッキの「星の部分(物理的に尖っている)」で、クリムゾントライボアの脳天を、フルスイングで殴りつけたのだ。


 凄まじい衝撃音が響き渡り、哀れな猪は、断末魔の声を上げながら、一瞬にして光の粒子となって霧散した。


(物理攻撃じゃねーかぁぁぁぁ!!!)


 京介のツッコミが、虚しく響く。


(なんなんだよ! キョウの魔法陣殴りといい、こいつのステッキ殴りといい!! この世界の「魔法」は、鈍器の別名なのか!? まともな魔法はどこ行った!!)


 残されたのは、地面にめり込んだステッキと、「やっちゃった☆」とテヘペロをする、髭面の大男だけだった。


「ハァ……ハァ……」


 衝突のダメージで、キョウはその場に膝をついていた。

 それを見たラブリーが、血相を変えて駆け寄ってくる。


「大変! キョウ様がお怪我を! 早く回復魔法をかけなきゃ!!」


(おぉ!!)


 京介は、警戒しつつも、背に腹は代えられない状況に、わずかな希望を見出した。


(回復魔法! それだ! この際、見た目とか物理とかどうでもいい! HPを回復させてくれ! 死んだら元も子もないんだ!)


「待っていてくださいね☆ とっておきの癒やしを……」


 ラブリーはステッキを放り出すと、両手を広げた。


「ラブリー魔法! 愛の抱擁(ラブ・ハグ)!」


(……え?)


 ガシィッ!!!


 ラブリーの丸太のような腕が、キョウの体をガッチリとホールドした。

 そして、大胸筋と大胸筋の間に、キョウの顔が埋められる。


 ミシミシミシ……。


「ウ、ウガ……ッ!?」


 キョウが、苦悶の声を漏らす。

 京介の視界が、ピンク色(肌色)に染まる。


(ぐえええええっ!? 苦しい! 折れる! 背骨が折れる!)


 だが、驚くべきことに。

 キョウのHPバーは、その締め付けに反比例して、ギュンギュンと回復していた。


【HPが回復しています】


(か、回復してるけど! 回復してるけどやめてくれえええええ!!!!)


 物理的な回復と引き換えに、精神的なHP(MP)がゴリゴリと削られていく。

 濃厚な筋肉の感触と、耳元で囁かれる「よしよし☆」という野太い声。


(意識が……遠のく……)


 全身の毛を逆立てたポヌルが、ガクガクと震えながら見つめるなか、京介は、HPが回復するのと同時に、あまりのショックと酸素不足で、白目を剥いて失神しそうになるのであった。

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