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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第7章 セーブポイントの攻防戦

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第92話 狂戦士の追っかけ

「キ…………ゥ…………さ…………ぁ…………」


(……なんか聞こえるぞ?)


 敵意はない。殺気もない。

 あるのは、熱烈な、そしてどこか危険な香りのする「好意」を感じる声だった。


(信徒か? いや、ロジックやチョットツたちの声じゃない。もっとこう、粘着質で、ドスの効いた……)


 京介は、嫌な予感を抱きつつも、キョウの視界を利用して、恐る恐る後ろを振り返った。

 そこには、街道の向こうから、猛烈な砂煙を上げて爆走してくる「ピンク色の何か」が映っていた。


「キョウ様ーーーーーーーっ!!!」


 距離が縮まるにつれ、その姿が鮮明になっていく。

 そして、その全貌を認識した瞬間、京介の思考はフリーズし、オーバークロックしていたはずの脳細胞が、理解を拒絶して悲鳴を上げた。


(な、なんだあれはあああああああああああッ!?)


 そこには、このファンタジー世界の世界観を、物理的にも視覚的にも粉砕する、あまりにも強烈なキャラクターが存在していた。

 まず目に飛び込んできたのは、全身を包むショッキングピンクの衣装だ。

 フリル。レース。リボン。

 パステルカラーのふわふわとした装飾が、これでもかと施された、王道にして典型的な「魔法少女」のコスチューム。

 手には、先端に大きな星のモチーフが付いた、可愛らしい魔法のステッキが握られている。背中には、妖精のような小さな羽根の飾りまでついている徹底ぶりだ。


 だが。

 問題は、その衣装を身にまとっている「本体」だった。


 身長は優に2メートルを超えている。

 丸太のように太い首。

 岩石を詰め込んだかのように隆起した大胸筋と上腕二頭筋。

 そして、その精悍せいかんな顔には、綺麗に整えられた立派な「カイゼル髭」が蓄えられていた。


(おっさんじゃないかあああああああああ!!!)


 京介の絶叫が、脳内を駆け巡る。

 魔法少女ではない。魔法中年だ。いや、魔法戦士か? いや、そんな生易しい言葉では表現できない。

 そして何より恐ろしいのは、そのサイズ感の不一致だ。

 明らかに少女サイズで設計されたであろうフリフリの衣装は、2メートルの巨体にはあまりにも小さすぎた。

 パッツンパッツンである。

 はち切れんばかりに膨れ上がった筋肉が、可憐な布地を極限まで引っ張り、縫い目からは悲鳴のような音が聞こえてきそうだ。太ももの絶対領域からは、剛毛に覆われたハムストリングスが主張している。


(衣装が! 衣装が死にかけてる! 物理演算エンジンの悲鳴が聞こえるぞ! なんだあのピンク色の筋肉ダルマは!)


 その「魔女っ子(?)」は、キョウと同じ速度、いや、それ以上の速度で、地響きを立てながら迫ってくる。

 その瞳は、乙女のようにキラキラと輝き、頬を赤らめ、両手を広げて、こちらに突進してきているのだ。


「ああっ♡ やっと会えましたわ、私の王子様ぁっ!!」


(王子様ってキョウのことか!? やめろ! 来るな! その巨体で抱きつかれたら、こっちは圧死する!)


 京介は、直感した。

 これは、ミノタウロスよりも、鉄壁の狂戦士よりも、ある意味で「危険」な存在だと。

 関わってはいけない。関わったら最後、ログアウトはおろか、人としての尊厳すら失う気がする。


(ポヌル! なんだあいつは! 新手のボスか!? それとも運営の刺客か!?)


 京介が助けを求めると、隣を飛んでいたポヌルは、顔面蒼白になりながら、ブルブルと震えていた。全身の毛が逆立っている。


「し、知らんニャ……。あんなデータ、吾輩のデータベースにはないニャ……。あれは、この世界のバグとかそういう次元じゃないニャ……。プレイヤーの『ごう』そのものだニャ……!」


(お前が引くレベルなのかよ!)


「キョウ様ぁ~♡ ラブリーの愛のタックル、受け止めてくださぁ~い☆」


 自称ラブリーと名乗る筋肉の塊が、さらに加速する。

 その手には、魔法のステッキが握られているが、どう見てもそれは「鈍器」としての使用法を想定した構えだった。


(やばい! 追いつかれる! 今のキョウはSPDが初期値に戻ってるんだ! いくら僕の脳内処理が速くても、アバターの足が遅ければ逃げ切れない!)


 京介は、必死に尻尾を振って、キョウに「全力ダッシュ」の指示を送る。

 キョウもまた、背後から迫る異様なプレッシャーに、野生の勘で「関わってはいけない」と悟ったのか、何も言わずに加速した。

 しかし、ラブリーの脚力は凄まじかった。

 一歩踏み出すたびに地面が揺れ、石畳が砕ける。

 その走りは、魔法少女のスキップではなく、完全に重戦車の進撃だった。


「待ってぇ~♡ 恥ずかしがり屋さんなんだからぁ☆」


(恥ずかしがってるんじゃない! 全力で拒絶してるんだ! ていうか速い! あの空気抵抗の塊みたいなフリフリ衣装で、なんでそんなに速いんだよ!)


 このままでは、捕まる。

 捕まったら、あの剛腕で抱きしめられ、背骨をへし折られる未来しか見えない。

 京介は、覚悟を決めた。


(無視だ! 徹底的に無視するんだ! 気づかないフリをして、このまま魔王城まで逃げ切る! あんなのとエンカウントしたら、精神的ダメージで僕の受験勉強に支障が出る!)


 京介は、キョウの視線を強引に前方へと固定した。

 後ろなど見るな。振り返れば奴がいる。

 ただ前だけを見て、この悪夢から逃走するのだ。


「ウガッ! ウガガッ!」(訳:なんかヤバいのが来る! 逃げるぞ!)


 キョウもまた、珍しく京介と意見が一致したようで、必死の形相で腕を振り、足を回転させた。

 村人たちが、猛スピードで駆け抜ける野獣と、それを追うピンク色の巨人を、呆然と見送る中。

 京介の「最短クリア計画」に、また一つ、とてつもなく厄介で、濃厚すぎる障害が追加されたのであった。


(神様……僕が何をしたって言うんですか……。ただ、受験勉強の息抜きをしたかっただけなのに……!)


 京介の心の叫びは、ラブリーの放つ「ウフフ♡」という野太い笑い声にかき消され、平原の彼方へと消えていった。


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