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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第7章 セーブポイントの攻防戦

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第86話 魔法陣

 謎の詠唱を続けるキョウの周囲で、空気が震えていた。

 迫りくるマモルンジャーZ (ブルー・イエロー)との距離、20メートル。

 その時、キョウの足元が、カッと黄金色に輝き始めた。床に、複雑な幾何学模様を描く、巨大な光の魔法陣が浮かび上がる!


(出た! 魔法陣だ! やっぱり魔法だ!)


 京介が歓喜する。

 その光は、今まで見たどの魔法よりも神々しく、そして力強い。


「来るぞ……! 来るぞ……!」


 チョットツが、最前線で涎を垂らしながら身を乗り出す。

 リアリーが、手を組んで祈るように見つめる。


 距離、10メートル。

 敵の刃が届く寸前。

 キョウは、詠唱を続けながら、ゆっくりと、その場にしゃがみ込んだ。

 そして、光り輝く魔法陣の上に、両手をピタリと付けた。


(地面に手を……? これは、召喚魔法の構えか!?)


 京介の脳裏に、RPGのオープニングムービーでよく見る、地面から巨大な召喚獣を呼び出すシーンがよぎる。

 そうだ。レベル100の狂戦士が呼び出す召喚獣。

 それはきっと、バハムートか、オーディンか、あるいは魔神か。

 敵を一瞬で消し炭にする、圧倒的な暴力の化身に違いない!


 敵は、目の前だ。

 ブルーの戦斧が振り上げられる。イエローの爪が迫る。


(間に合うのかこれ!! 早く! 早く呼び出してくれ!)


 京介の焦りが頂点に達した、その瞬間。

 キョウが、地面に付けた両手の指に、ググッ、と力を込めた。

 まるで、地面そのものを、鷲掴みにするかのように。


「ウ……ガッ!!」


 キョウが、気合一閃。

 両腕を、力任せに振り上げた。


 ベリベリベリベリッ!!!!


 耳を疑うような音が、魔王城に響き渡った。

 召喚獣が現れる光の効果音ではない。

 それは、強力な粘着テープを、段ボールから無理やり引き剥がすような、あるいは、古びた壁紙を力任せに剥ぎ取るような、あまりにも物理的で、即物的な破壊音だった。


(……は?)


 京介の視界の中で、信じられない現象が起きていた。

 キョウの手には、召喚獣ではなく。

 先ほどまで地面で輝いていたはずの「魔法陣」そのものが、まるで巨大な発光するビニールシートのように、ペラリと握られていたのだ。

 地面からは、魔法陣が綺麗さっぱり消滅し、ただの石床が露出している。


(え? 剥がした? 魔法陣って、光の投影とかじゃなくて、そういうシート状の物質だったの!?)


 京介が、事態を理解するよりも早く。

 キョウは、剥ぎ取った「黄金に輝く魔法陣シート(粘着力強め)」を、眼前に迫っていたブルーとイエローに向かって、布団叩きのようにフルスイングした!


「ウガァァァァァァァッ!!!」


 ビタァァァァァァァァァン!!!!!!


 乾いた、そしてあまりにも重い破裂音。

 魔法陣シートの一撃を顔面に食らったブルーとイエローは、魔法的なダメージではなく、純粋な物理的衝撃によって、同時に吹き飛ばされた。

 いや、吹き飛ばされたのではない。

 魔法陣の、地面に張り付いていた裏面の強力な粘着力によって、二体の顔面がシートに「ペタリ」とくっつき、そのままキョウの腕の振りに合わせて、遠心力で地面に叩きつけられたのだ!


 ドゴォォン!!


「キシャッ……!?」


 哀れマモルンジャーの残党は、魔法陣シートにハエ取り紙のように捕獲されたまま、白目を剥いて気絶した。

 そして、そのまま光の粒子となって消滅していく。

 後に残ったのは、役目を終えてクシャクシャになった、光るビニールゴミのような魔法陣を握りしめた、キョウの姿だけだった。


「…………」


 シン、と静まり返る魔王城。

 数秒の沈黙の後。

 京介の魂のツッコミが、アバターの内部で爆発した。


(ふざけんなー! 物理攻撃じゃねーかあ!!!!!)


 魔法ですらない。キョウは魔法陣を「武器(鈍器)」として使っただけ。


(しかも、剥がすってなんだよ! テクスチャ剥がれか!? バグか!? INT21の使い道が、「魔法陣をきれいに剥がす技術」だったってか!?)


 京介が、あまりの脱力感に膝から崩れ落ちそうになっていると、背後から、カッカッカッ……と、羽ペンを走らせる音が聞こえてきた。

 振り返れば、そこには、恍惚とした表情で羊皮紙に向かう、ロジックの姿があった。


「……素晴らしい。あまりにも素晴らしい発想だ……!」


 ロジックは、眼鏡を光らせながら、早口で独り言を呟く。


「魔法陣とは、魔力を集束させるための『回路』に過ぎない。常人は、その回路を通して発動する『現象』のみに目を奪われる。だが、マスターは違った! マスターは、魔法陣そのものが持つ『質量』と『魔力密度』に着目し、あえて発動させずに『物質化』させて引き剥がすことで、高密度の魔力質量兵器として転用されたのだ!」


(違う! ただのハエ叩きだったんだよ!)


「これは……魔法学の根底を覆す大発見だ! 『魔法陣の物理的運用における質量保存の法則と、打撃兵器としての有用性について』……。この論文を発表すれば、学会がひっくり返るぞ……!」


 ロジックは、完全に自分の世界に入り込み、新たな論文の執筆に没頭し始めた。

 その隣では、チョットツが「オレも! オレもあんな風に、魔法陣でビタンビタンされたいです!」と、またしても危険な発言をしている。


(なんの学会だよ……もういい。もう何も言うまい)


 京介は、深く、深くため息をついた。

 とりあえず、敵は倒した。

 そして、目の前には、待ちに待った紅蓮の光――セーブポイントがある。


(セーブだ……。とにかく、セーブさえできれば、この悪夢のような出来事も、全て笑って許せる……はずだ)


 京介は、信徒たちの狂乱を背に、キョウの体を借りて(というか勝手に進むキョウに乗って)、ゆっくりと、しかし確実に、セーブポイントへと歩みを進めるのであった。

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