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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第7章 セーブポイントの攻防戦

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第83話 ゴリラと魔法2

(ヤバい!)


『オモラシーン』。京介は、その絶望的なまでにいい加減な魔法のネーミングに、ツッコミを入れるのも忘れ、反射的に動いた。

 キョウは突進の勢いを殺せない。このままでは、水の刃に胴体を両断される!

 京介は、進化した尻尾「精密操作用マニュピレーター」を、限界まで伸ばした。

 狙うは、右側のテラスの柵!


 ガシィッ!


 尻尾の先端が、鉄製の柵をガッチリと掴む。

 京介は、渾身の力で尻尾を収縮させ、キョウの巨体を、無理やり右方向へ、テラスの外側へと引っ張った!


「ウガッ!?」


 キョウが、尻尾に引かれバランスを崩す。

 次の瞬間、水の刃が、キョウが先ほどまで存在していた空間を、恐ろしい速度で通過した。


 ジョバアァァァァァン!!!


 水の刃は、キョウが立っていた床の黒大理石タイルを、まるで温かいナイフでチーズを切るかのように、深く切り裂き、そのまま後方の壁まで達して、壁に一直線の亀裂を走らせた。


(切れ味良すぎるだろおおお!!! なんだそのウォーターカッターは! 産業用か! 名前のニュアンスと威力が釣り合ってないんだよ!)


 京介は戦慄した。もし当たっていたら、上下真っ二つになっていた。

 しかし、安堵する暇はない。

 京介がキョウを引っ張った先は、テラスの外側。

 つまり。


(……あっ)


 キョウの足元には、床がなかった。

 あるのは、遥か下に見える、紅蓮に輝くセーブポイントと、吸い込まれそうな奈落の闇だけ。

 キョウの体が、宙に浮く。


(やば。早く戻らないと……落ちたらシャレにならない!)


 キョウが重力に従って落下を始める寸前、京介は、柵を掴んでいた尻尾に、火事場の馬鹿力を込めた。

 尻尾一本で、ゴリラの体重を支え、懸垂のように引き上げる!


 ギギギギ……ッ!


 尻尾が悲鳴を上げるが、なんとか耐えた。

 京介は、振り子の要領でキョウの体を振ると、勢いをつけてテラスの内側へと放り投げた。


 ドサッ。


 キョウが、無様に床に転がる。


「ふぅ……危なかった……」


 京介が、アバターの内部で冷や汗を拭った、その時だった。

 床に転がったキョウは、すぐにむくりと起き上がると、何事もなかったかのように、再びレッドの方を向いた。

 その目には、恐怖の色など微塵もなく、あるのはただ、獲物を狩る獣の闘争心のみ。


「ウガァッ!」


 キョウは、懲りもせず、再びレッドに向かって突進を開始した。


(待て! 待てってば! もう少し作戦とか……!)


 京介の制止も虚しく、脳筋ゴリラは直進する。

 レッドもまた、即座に反応し、バックステップで距離を取りながら、再び詠唱に入った。

 さっきと同じパターンだ。


(学習しろよ! INTが無いってこういうことか! 同じ攻撃を何度も喰らいに行くな!)


 だが、今度は距離が近い。


(このタイミングなら、詠唱完了前に懐に入れるか……? いや、レッドの詠唱速度も速い! さすがはINT補正済み!)


 キョウが、レッドまであと2メートルという距離に迫った、その瞬間。

 レッドの口が動いた。


「オモラシーン!!」


(またその魔法かよ! ……って、待てよ!?)


 至近距離で放たれる魔法の名前が、京介の脳内で不吉な連想を引き起こした。


(オモラシーン……お漏らし……股間!? まさか、股間を狙う魔法なのか!? 名前的に!)


 そんなわけはない。ただのウォーターカッターだ。

 だが、極限状態の京介の思考は、その最低なネーミングに誘導され、致命的な勘違いを起こしていた。

 レッドの手のひらから、死の水の刃が放たれる。


(守らなきゃ! 男としての尊厳を!)


 京介の視界の端に、瓦礫の陰に転がる「聖遺物」が映った。

 あのプラスチック製の、黄色いアイツ。


(あれだ……!)


 京介は、一か八かの賭けに出た。

 尻尾を、限界まで伸ばす。

 狙うは、黄色いカエルの風呂桶。


(カエルの風呂桶ぇぇぇぇぇぇッ!!!!)


 京介の尻尾が、風呂桶を掴む。

 そして、迫りくる水の刃と、キョウの身体の間に、コンマ1秒のタイミングで割り込ませた!

 顔面ではない。

 京介が本能的な恐怖に従って守った場所、それは――

 股間だ。


 ビシュッ!


 高圧の水流が、なぜかキョウの股間……にセットされた風呂桶の底に直撃する。

 普通のプラスチックなら、一瞬で両断されていただろう。

 だが。

 この風呂桶は、ただの風呂桶ではなかった。

 あの「不動の鉄巨人」戦において、超高速の小石の跳弾を受け止め、なおかつ無傷だった、奇跡の強度を持つ、謎のオーパーツ(あるいはバグアイテム)だったのだ!


 カポォォォォーン!!


 水流が、股間の風呂桶に当たり、銭湯で響くような小気味よく、そしてどこか情けない音を立てて、四方八方へと激しく飛散した。

 まるで、股間から放たれた何かが弾け飛んだかのように、水が拡散し、その威力が霧散する。


 ザバァァァ……。


 水しぶきが晴れる。

 キョウは、びしょ濡れになりながらも、無傷でその場に立っていた。

 足を開き、胸を張り、堂々たる仁王立ちで。

 ただ一点。

 その股間に、尻尾で器用に黄色いカエルの桶を押し当て、大事なところを隠しているという、銭湯から飛び出してきた変質者のような姿を除けば。


「…………」


 一瞬の静寂。

 レッドが、信じられないものを見る目で、股間に桶を当てたゴリラを見つめている。

 その視線は、明らかに困惑していた。「え、今、隠した?」と言いたげだ。


 後方では、ロジックが眼鏡をずり落としながら、震える声で叫んだ。


「ま、まさか! あれは東方の島国に伝わる、入浴時の礼儀作法『隠し湯』の構え!? 敵の攻撃オモラシーンに対し、あえて『入浴』という無防備な姿を晒すことで、『今までのことは全て水に流してやろう』という精神的余裕を見せつけたというのか!? これぞ神の煽りゴッド・プロボケーション!!」


(違う! ただの変態だ! というかあんたもその東方の島国在住だろ! なんで股間守っちゃったんだ僕は!)


 京介の魂のツッコミと、ロジックの深読み解説が響く中、神速の狂戦士(へんたい)はその隙を見逃さなかった。


「ウガァァァァァッ!!!」


 キョウは、股間の桶をポイッとかなぐり捨てる(ちゃんと腰布があります)と、驚愕とドン引きで硬直するレッドの懐に、深く、鋭く、踏み込んだ。

 右の拳が、唸りを上げる。

 魔法使いに転職した元ゴリラの、薄い防御を貫く、必殺の一撃が放たれた。


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