第80話 神の騎士道
「キシャアアアアアア!!」
二体の仲間を奈落の底に突き落とされ、レッド(仮名)は、明らかにブチ切れていた。
残るは、レッド一体。
対するは我らが狂戦士キョウ。
(一対一。そしてステータスは互角。だが、こっちには、「精密操作用マニュピレーター」と化した、僕の尻尾がある! これなら勝てるぞ!)
アバターの内部で、先師京介の脳は、この絶望的な状況下で、奇跡的に勝利への活路を見出した、まさにその時だった。
「ウガァァッ!」
「キシャアアアッ!」
キョウとレッドは、まるで示し合わせたかのように、ほぼ同時にお互いに向かって突進を開始した。
レッドが振り下ろす巨大な戦斧と、キョウが握りしめた狂戦士のゴリラナックルが交差する!
ガキィィィン!!
凄まじい火花が散り、甲高い金属音がテラスに響き渡る。
力は、やはり互角。両者ともに一歩も引かない。
(これならどうだ!)
京介は、この膠着状態を打破すべく、進化した尻尾を、まるで蛇のように滑らかに動かし、レッドの足元を薙ぎ払った。
シュバ!
レッドが、京介の尻尾による足払いを、高く跳躍して、軽々と回避した。
(くそ! 避けられた!)
しかし、その隙を、キョウの本能が見逃すはずはなかった。
ジャンプ中で、回避行動が取れないレッドの腹部目掛けて、キョウが、STRゴリラの、強烈な拳を放った。
(よくやった! これでおしまいだ!)
京介が、勝利を確信した、その時だった。
ガキィン!
レッドは、空中で、キョウの拳を器用に戦斧の柄で受け止め、その勢いを殺すどころか、逆に利用して、キョウ目掛けて戦斧を振り下ろした。
(しまった!)
京介がそう思った時はもう、時すでに遅しだった。
キョウのパンチの威力が乗った戦斧が、キョウの肩目掛けて落ちてくる。
ジャリィィ!!
戦斧は、キョウの肩をかすめて、地面に深い亀裂を作った。
そして、京介の視界に、絶望的な数字が表示される。
【HP:130/2150】
(うお! 危なかった! ていうか、HP、ほぼ全部持ってかれたじゃないか!)
レッドが、ニヤリと口の端をつり上げたのが見えた。
何とか即死は免れたが、次に少しでも攻撃を受けたらおしまいだ。あの悪夢のレベル1リセットだ。
「マスターに回復魔法を!」
後方で戦況を見守っていた信徒の一人が、慌てて叫んだ。
(そうだ、早く回復してくれ!)
京介が、その声に希望を抱いた瞬間、天才軍師ロジックが、そのヒーラーの前にスッと立ちふさがり、厳かに首を横に振った。
「……いや! マスターは正々堂々と、一対一の勝負をしておられるのだ。いま回復魔法をかけるのは、この神聖なる戦いに水を差す行為となる! マスターの騎士道に反するだろう! マスターがあの敵を倒すまで、回復は待つのだ!」
(なんでだよ! モンスターとの戦いで、騎士道なんて必要ないだろ! すぐに回復して下さい! 僕の人生がかかってるんだよ!)
京介の魂の絶叫も虚しく、キョウが止まることはなかった。
HPが残りわずかになったことなど気にすることもなく、猛々しく咆哮を上げると、再度レッドに向かって突進し始めた。
(ちょっと待て! 一旦仲間に回復してもらうまで距離を取れよ、この脳筋ゴリラァ!)
ガシィ!!
京介が、切実な叫びを上げていると、意外なことにキョウがレッドに掴みかかった。
(そうか! 接近してしまえば、あのデカい斧は使えないもんな! 珍しく頭を使ったぞ、このゴリラ!)
京介が、キョウの意外な知性(?)に感心していると、キョウは、組み合ったまま、おもむろに、レッドの首すじに噛みついた。
(頭使ったんじゃないのかよ! ただの獣の本能だったのかよ!)
京介がツッコミを入れた、まさにその時。
キョウがレッドに噛みついている、そのキョウの体が、ふわり、と淡い緑色の光に包まれた。
(こ、これは! あの時の! 鉄壁狂戦士が使ってたオートヒール!? あのステータスと一緒に、スキルも吸収してたのか!?)
京介の胸に、希望という強い光が灯った。そうだ、これさえあれば!
ポンッ、と軽快な音を立てながら、メッセージが表示された。
【HP1回復】
(なんでだーーーー!!)
京介は、アバターの内部で、天を仰いだ。
INTとMPが最低値のままのキョウにとって、オートヒールは宝の持ち腐れなのであった。




