第79話 チョットツの活躍?
「もっ……と……ぶっ……て……え……え……え!! こ……の……かん……かく……たま……ら……ん……!」
先師京介は、アバターの内部で、目の前で繰り広げられる地獄絵図に、かつて経験したことのないレベルの、強烈な目眩を覚えていた。
(なんだ、この空間は!)
目の前では、三体の悪趣味な戦隊ヒーロー(悪魔)が、醜い3つ巴の仲間割れを演じている。
キョウは、握りしめた拳を、天に突き上げ、「ウガァァァァァァァァッ!!!」と高らかに咆哮を上げている。
天井のスピーカーからは、四天王(笑)のチョウ・メードが「やめろ! 仲間割れするな!」と、完全に素に戻った情けない絶叫を響かせている。
そして、僕の足元では、同じくスローモーションになったマスター護衛隊長チョットツが、床を転がりながら、恍惚とした表情で悶え続けている。
(ダメだ……! 情報量が多すぎる! ツッコミが、ツッコミが追いつかない! ていうか、なんで、せっかく僕の「焼きそばパン作戦」で同士討ちさせて、高みの見物を決め込もうとしていたのに、当の本人が、わざわざその3つ巴に参戦しようとするんだよ!)
京介の絶望的なツッコミも虚しく、キョウは、目の前のわちゃわちゃした光景に、ついに我慢の限界が来たらしい。
彼は、再度、腹の底から魂の咆哮を上げた。
「ウガァァァァァ!!」
その、あまりにも勇ましい(ように聞こえる)雄叫びを聞きつけ、それまで隅の方で煮干しを齧りながら鳴りを潜めていたポヌルが、慌てて「仕事だニャ」とばかりに前に出た。
そして、完璧なタイミングで「神」通訳を開始する。
「『強敵を無視して先へ進むなど、真の強者のすることではない! もう一度、全員のヘイトを我に集めたうえで、3体まとめて殲滅してくれるわ!!』と言っているニャ」
(違う! 絶対に違う! こいつはただ、『オレも混ぜろ!』って言ってるだけだ! こっちの緻密な作戦を台無しにしようとしてるんだよ!)
京介の魂の否定は、もちろん誰にも届かない。
ポヌルの捏造された神託に、後方で見守っていた信徒たちが、一斉に熱狂した。
「おおおおおっ!」
「さ、さすがマスター!」
「全てを真正面から受け止めるということか!」
その熱狂の輪の中で、天才軍師ロジックが、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、羊皮紙に新たな分析を書き殴っている。
「……なるほど。あえて敵を同士討ちさせ、油断したところを、マスターご自身が『真の脅威』として再認識させる……! 敵の戦意を一度『分散』させ、再び『収束』させることで、戦場の主導権を完全に掌握する……! なんと深遠なる心理戦術だ!」
その隣で、リアリーが、頬を真っ赤に染め、ロジックのその真剣な横顔に、うっとりとした視線を送っている。
「はぅ……♡ ロジック様……♡ その、常人にはたどり着けない知性が、今日も素敵……♡ その分析で、私を丸裸に……♡」
(もうダメだ、このパーティー! 誰も戦況を見てないじゃないか! ロジックは深読み! リアリーは妄想! そして……!)
京介の視線が、足元で、いまだにスローモーションで悶え続けるチョットツへと向けられる。
「ま……す……た……ぁ……♡ ま……とめ……て……せん……めつ……♡ あ……あ……ん……!」
(こいつに至っては、論外だ!)
魔王城の中間地点にあるテラスは、未だかつてないほどのカオスに包まれていた。
そして、そのカオスの元凶たる狂戦士キョウが、ついに動いた。
ポヌルの通訳など知ったことか、と言わんばかりに、わちゃわちゃと醜い争いを続ける三体のゴリラコピーに向かって、突進を開始した!
(あ、こいつ、本当に突っ込みやがった! しかもデバフがかかってるから、神速じゃなくて、ただの『ちょっと足の速いゴリラ』だ! 危険すぎる!)
京介が、アバターの内部で悲鳴を上げた、まさにその時。
キョウの突進軌道の先に、スローモーションで悶えながら床を転がっていたチョットツが、まるで運命のイタズラのように、完璧なタイミングで滑り込んできた。
「ウガッ!?」
キョウは、足元の巨大な障害物に気づくことなく、見事に、その巨体に蹴躓いた。
(なんでだよ! なんで、このパーティーで一番デカい障害物が、一番絶妙なタイミングで足元に転がってくるんだよ!)
京介が、この世の理不尽を呪った、その瞬間。
キョウに蹴躓かれたチョットツの目が、スローモーションの中で、カッと見開かれた。
彼の脳筋ドM回路が、この足裏からの衝撃を、マスターからの新たなる「神撃」であり、「ご褒美」であると、瞬時に(スローで)誤変換したのだ。
「こ……の……しょう……げき……! マスター……から……の……ご……ほう……び……!」
チョットツは、スローモーションの中で、本能的に、あの忌まわしきスキルを発動させた。
マスター専用シールドバッシュ。
彼が構えていた巨大な盾が、キョウの足裏を、完璧な射出台として捉える!
「喰らえ……(スロー)……! 我が……渾身の……! マスター……キャノン……ボール……!!」
(またそれかあああああ! しかもスローで! いや、発射速度はスローじゃない!?)
京介のツッコミも虚しく、キョウの巨体は、チョットツの盾を踏み台にし、デバフによる速度低下など微塵も感じさせない、本来の神速を取り戻して、3体のゴリラコピーが密集する中心部へと、文字通り「射出」された!
「うわああああああ! 飛ばされてるううううう! なんで僕が人間大砲にならなきゃいけないんだよ!」
京介の絶叫と共に、STRゴリラ・SPDカンストの「砲弾」が、醜い争いを続ける3体のゴリラコピーのど真ん中に、完璧に着弾した。
ドガッシャァァァァァンン!!!
凄まじい衝撃音と爆風が、テラス全体を揺るがす。
キョウという名の神速ゴリラ砲弾は、3体の中央にいたマモルンジャー(ブルー)に直撃。その衝撃で、ブルーがレッドとイエローを派手に巻き込み、三体まとめて、まるでボーリングのピンのように弾け飛んだ。
(ストライク決まってるーーーー!!!)
マモルンジャー(イエロー)と(ブルー)は、そのままの勢いで、テラスの柵を突き破り、遥か眼下の暗闇――あの紅蓮に輝くセーブポイントがある吹き抜けへと、綺麗な放物線を描きながら、吸い込まれていった。
「あーーーーーっ! オレの! オレのマモルンジャーZ (ブルーとイエロー)がぁぁぁ!」
天井のスピーカーから、チョウ・メードの悲痛な叫びが響き渡る。
砂埃が晴れると、そこには、射出の反動でどうにか着地したキョウと、同じく衝撃で吹き飛ばされながらも、かろうじてテラスの端に踏みとどまった、マモルンジャー(レッド)の姿だけが残されていた。
(2体は……落ちた? 残るは、レッド一体!)
キョウとレッド。
二体のデバフ鈍足ゴリラが、互いに距離を取り、静かに睨み合う。
京介の脳裏に、確かな勝利の二文字が浮かんだ。
(……一対一。しかも、お互いデバフでスロー状態。……これなら! これなら、僕の進化した尻尾でも、完璧にサポートできる! 勝てるぞ!)
ついに、この理不尽な戦隊ヒーロー(悪魔)との、正々堂々としたサシの勝負が始まろうとしていた。




