第74話 ゴッドカリキュレーションアタック
キョウは、拳を握り込み、まるで、「これでおしまいだ!」と言う様に小さく吠えると、相手の狂戦士に向けてその拳を叩き込んだ。
「ウガ」
ドゴォォ!!
京介の目に、今まで見たこともない、鮮烈なダメージの数字が映し出された。
【2003】
(ダメージ無茶苦茶上がった!? 二桁違うぞ!?)
京介は、アバターの内部で絶叫した。
今までの地味な「20」ダメージは、一体何だったのか。STRカンストの拳に、あのイカれたナックルの攻撃力(STR+500)が加わった結果、ついに鉄壁狂戦士の防御力をぶち抜き、まともなダメージが通るようになったらしい。
(これなら……! HP9999だとしても、あと4発! 合計5発でケリがつくぞ!)
京介の脳内に、一瞬にして光明が差し込んだ。
勝利を確信したキョウもまた、獲物を仕留める獣のように、その拳を、休むことなく叩き込み始めた。
ドゴォォ! 【2011】
ドゴォォ! 【2017】
ドゴォォ! 【2027】
(よしっ! 次だ! 長かったこの不毛な殴り合いも、次の一撃で終わる!)
京介が、ようやく訪れた勝利の瞬間に、固唾を飲んだ、まさにその時。
キョウは、なぜか、振り上げた拳をピタリと止めると、まるで、「次が最後ですよ」とでも言う様に、頭上で手をパチン、と叩いたり、意味もなく腕を回したりしながら、タメにタメ始めた。
(何やってんだお前はあああああああ!!!)
京介の絶叫をよそに、通路の入り口で観戦していた信徒たちは、その「タメ」の動作に、熱狂的なエールを送り始めた。
「おお! マスターが、勝利の舞を!」
「見よ! あの神々しいステップを!」
「おら! 早くヤっちまえ! 回復しちまうぞ!」
(そうだ! よく言った! リアリー! あんた今日初めて良いこと言ったぞ!)
リアリーの、もはや隠す気もないヤジ親父のような声援に、京介が激しく同意する。
(早くしろ! このままだと、またオートヒールが発動しちゃうだろ!)
京介が、タイムリミットに焦り始めた、その時。キョウは、まるで「はいはい、分かりましたよ」とでも言う様に、タメにタメた最後の拳を、ようやく振り下ろした。
ポヨ〜ン!
【2029】
(ポヨ音になったーーーー!!! なんでだよ! なんで、このゲーム始まって以来の初めての真剣勝負で一番大事なトドメの一撃が、一番間の抜けたスライムの効果音なんだよ! 僕の緊張感が台無しだ! ふざけんな運営め!)
京介の魂のツッコミも虚しく、ゴリラナックルの一撃を食らった敵の狂戦士は、どこか納得がいっていないような様子で「グガァァァ……」と、最後の断末魔を上げながら、ゆっくりと光の粒子へと変わっていく。
静まり返る通路。
その光景を、お煎餅を齧りながら見ていたロジックが、持っていた煎餅をポトリと床に落とし、わなわなと震え始めた。
「い、今のは……。今のダメージは、全て……」
ロジックは、震える手で羊皮紙を取り出すと、今しがたのダメージログを必死に書き留めていく。
【2003】
【2011】
【2017】
【2027】
【2029】
「……全て、素数ではないか! マスターは、ダメージ量まで、この宇宙の真理たる素数でコントロールされていたというのか! なんと……なんという、神の領域の計算だ……!」
(そんな訳あるか! ただの乱数の偏りだろ! たまたまだよ、たまたま!)
京介が、ロジックの新たなトンデモ理論に、全力でツッコミを入れていると、ロジックから少し離れた位置で、リアリーが、頬を赤らめ、恍惚とした表情で呟いた。
「ああ、ロジック様! 素敵! その、常人にはたどり着けない知性が怖いわ……♡」
(あんたの豹変ぶりの方がよっぽど怖いわ! 本性どっちなんだよ!)
京介が、このパーティーの知性と感性の崩壊に頭を抱えていると、祝福のファンファーレと共に、討伐メッセージが表示された。
【狂戦士を討伐しました。】
【称号:狂戦士を統べるものを獲得】
【狂戦士のステータスの一部が割り振られます】
(ステータスの一部! そんな美味しいシステムだったのか、これ!? よっしゃあ! あの鉄壁の防御力! VITかDEFが大幅アップか!? ……いや、待てよ? もしかしたら、あいつ、あのオートヒール……INTを持ってたんじゃ……!?)
京介の胸に、一筋の、あまりにも淡い希望の光が差し込んだ。
しかし、その光は、次のシステムメッセージによって、無慈悲に吹き消された。
【VITと、DEFに200ポイントを加算します】
(やっぱりINTを持ってなかったのかよおおおおおおおおおおっ!!!!)
京介の最後の希望は、脆くも崩れ去った。
どうやらこの世界は、どこまで行っても、脳筋には脳筋のステータスしか与えられないらしい。
激闘を終えたキョウは、ゆっくりと立ち上がると、敵の狂戦士がやって来た方向、すなわち、先ほど回転扉で分断された、ロジックたちがいた元の通路と逆側へと、ゆっくりと歩き出した。
(待て! そっちは順路じゃない! さっきチョットツが挟まってた方が順路だ!)
京介のツッコミも虚しく、キョウは、まるでそこが正しい道だと知っていたかのように、迷いなく進んでいく。
信徒たちもまた、神が選んだその道を、何の疑いもなく信じ、その後をついて行くのだった。
「おお! マスター!」
「やはり、そちらが真の道だったのですね!」
「ついて行きますぞ!」
京介の、セーブポイントへの道は、またしても、全く予想だにしない方向へと続いていくのであった。




