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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第6章 神の実力

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第73話 さらなる高みへ

 ドガガガガガガガガッ!!


【20】

【23】

【21】

【22】

【18】


(地味だ……! 地味すぎるぞ、この絵面!)


 先師京介せんし きょうすけは、アバターの内部で頭を抱えていた。

 目の前で繰り広げられているのは、レベル??の鉄壁狂戦士と、レベル99の神速狂戦士による、世紀の死闘のはずだった。


 だというのに、現実はどうだ。

 キョウが、自分とそっくりな敵に馬乗りになり、その顔面に、相手が装備していたトゲ付きナックルを押し付け、その上から、ひたすら地味なパウンドを「ポコポコポコポコ」と叩き込み続けている。

 一発あたりのダメージは、平均「20」。


(平均20ダメージで、相手はVITカンストだから、HPは多分9999……いや、キリが悪いから10000か? まあいい、仮に9999だとして……暗算開始! 9999÷20=499.95……約500発!? キョウの今の連打速度が、1分で100回殴ると仮定して……500÷100で……え? 5分? 5分間、ずっとこのマウントポジションのまま、地味に殴り続けるの、僕たち? 地獄かよ!?)


 しかも、その地獄絵図を、通路の入り口では、ロジックを筆頭とする信徒たちが、どこから取り出したのか、お煎餅をポリポリとかじりながら、固唾を飲んで観戦しているのだ。

 あまりにもシュールすぎる。


(せめて、もっと派手なエフェクトとか無いのか! あと、観戦してるあんた達も、もうちょっと緊張感持ってくれよ! こっちは紙装甲で即死の恐怖と戦ってるんだぞ!)


 京介が、そんなしょうもない計算とツッコミに脳のリソースを割いていた、まさにその時だった。

 キョウに殴られ続けていた敵の狂戦士の体が、ふわり、と淡い緑色の光に包まれた。

 そして、京介の目の前に、ポンッ、と軽快な音を立てながら、絶望的なメッセージが表示された。


【HP900回復】


(ちょっと待てええええええええええいっ!!!)


 京介は、アバターの内部で、本日最大級のボリュームで絶叫した。


(こいつ、オートヒールまで持ってやがるのか! 最強の盾にして、最強の回復役! なんだそのチート性能は! ウチの脳筋ゴリラにも見習わせたい! 羨ましい!)


 京介は、そのあまりにも高性能な敵のスペックに、本気で羨望の眼差しを向けたが、すぐに我に返った。


(いや、羨ましがっている場合じゃない! 計算、再開! えーっと、今の回復が、大体30秒に一回発動すると仮定して、1分で1800回復。こっちの1分あたりのダメージが、さっきの計算だと2000だから……2000−1800で……1分あたりの実質ダメージが、たったの『200』!?)


 京介は、自ら導き出した数字に戦慄した。


(HP9999÷実質ダメージ200=49.995……。約50分!? 冗談だろ!? 50分間、ずっとこの地味な絵面を見せ続けられるのか!? そんなの、期末テスト並じゃないか! 観戦中の信徒たちも、さすがに飽きて鉛筆を転がしだすぞ!)


 京介が、あまりの長期戦の予感に絶望していると、その信徒たちから、熱狂的な応援のエールが飛び始めた。


「マスター頑張れー!!」

「そこだ! 左の脇がガラ空きですよ!!」

「今なら膝十字固め、行けますよ!!」

「いいぞ、もっと殴れ! もう諦めてタップしろよオラッ!!!」


(なんか一人だけ、めちゃくちゃガラの悪い人が混じってる!?)


 京介が、慌てて声の主を確認する。

 そこにいたのは、目を血走らせ、お煎餅を握りしめたこぶしを、興奮気味に振り上げている、あの腐女子プレイヤー、リアリーの姿だった。


(キャラが! キャラが変わりすぎだろ! さっきまでの、『ロジック様……』とか言ってた乙女[腐女子]はどこに行ったんだよ! 完全に、格闘技観戦に熱狂してるヤジ親父のそれじゃないか! 色々ヤバいな、あの人!)


 京介が、リアリーの豹変ぶりにドン引きしていると、マウントを取られていた敵の狂戦士が、最後の抵抗とばかりに、キョウの腕を掴もうと暴れ始めた。


「ウガッ!」


 キョウが、鬱陶しそうにその腕を振り払った、その瞬間。

 敵の手に装備されていた、あのトゲ付きのナックルが、スポンッ、と。

 手からすっぽ抜けて、宙へと舞い上がった。


(ああっ!?)


 京介は、血の気が引くのを感じた。


(まずい! あれがないと、またダメージ【0】の地獄に逆戻りだぞ!)


 京介は、咄嗟に、進化した尻尾を、まるでカメレオンの舌のように、正確無比な軌道で伸ばした。

 宙を舞うナックルを、尻尾の先端で、見事にキャッチする!


(よしっ! ナイスキャッチ、僕の尻尾!)


 京介が安堵した、その時。

 キョウの目が、くれないに光った。

 彼は、自分が殴るのをやめたことで、敵の狂戦士が「グオ?」と不思議そうな顔をしているのも構わず、京介がナックルをキャッチした尻尾を、ギロリと睨みつけた。


「ウガァァァァァァッ!!!」


 獣の咆哮。

 キョウは、京介の尻尾から、獲物を奪い取るかのように、ナックルを乱暴に掴み取ると、それを、自らの拳に、無理やり握り込んだ。


(えっ!? お前が装備するの!?)


 京介が、そのあまりにも強欲な行動に驚愕していると、ポヌルが、通路の隅から、すかさず完璧な同時通訳を入れた。


「『フン! 作戦通り、このナックルを奪い取ってやったわ! これで終わりだ!』……と、マスターは高らかに勝利を宣言しておられるニャ!」


 その言葉に、観戦していた信徒たちが、一斉に熱狂する。


「おおおおおっ!」

「さすがマスター!」

「敵の武器を奪い取るタイミングまで、全て計算済みだったというのか!」

「これで、マスターの攻撃力がさらに……!」


 信徒たちの熱狂を裏付けるかのように、京介の視界に、新たなメッセージが表示された。


【狂戦士のナックルを装備しました。STRが500上がりました】


(500も上がるの!? ただでさえカンストしてるのに、このゲームのステータス上限はどうなってるんだよ!)


 京介が、慌てて自らのステータス画面を脳内で確認する。

 そこには、彼の絶望を具現化したかのような、恐るべき文字列が表示されていた。


【STR:⚆•̫͡•⚆ウホ】


(文字化けしてるううううううううううっ!!! 数字ですらない! もはや絵文字! しかもゴリラ! 知ってたよ! こいつがゴリラだってことは、初めから知ってたけども! 運営も公認のゴリラってことかよ!)


 京介の魂のツッコミが炸裂する。

 そして、目の前では、最強の武器を手に入れた、最強の狂戦士ゴリラが、その戦いの終わりを告げるべく、静かに構え始めていた。


 キョウは、マウントポジションのまま、左手を自らの右肩に、ポン、と置いた。

 そして、「フシュウゥー……」と、まるで蒸気機関車が蒸気を噴き出すかのような、荒々しい呼吸音を吐き出しながら、ナックルを装備した右腕を、ぐるり、と。

 大きく、大きく、肩を回し、首をコキコキと鳴らしながら、その拳を、固く、固く、握り込んだ。


 その一撃に、このダンジョン、いや、この世界の物理法則すら超越した、全ての「ゴリラ」が込められようとしていた。

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