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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第6章 神の実力

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第72話 神vs〇〇

 キョウのこめかみに向かって、敵の左拳迫ってくる!


(しまった!)


 先師京介せんし きょうすけの脳内に、警報が鳴り響く。

 防御が、間に合わない。

 VIT(たいりょく)DEF(かたさ)カンストの敵が放つ、狂戦士専用装備のナックルをまとった、渾身こんしんの一撃。

 対するこちらは、STR(きんにく)SPD(はやさ)カンスト。しかし、防御力はレベル1のままの紙装甲。


 即死だ。

 あれだけ苦労して、あの悪夢の豆腐シャワーまで浴びて、ようやくたどり着いたのに。

 また、レベル1に戻るのか。

 もう、あの忌まわしきミノタウロスと、始まりの村のおばあさんの家の壺を、延々と往復する日々に戻るのは、絶対に嫌だ!


(やめろおおおおおおっ!)


 京介が、アバターの内部で絶望的な叫びを上げ、固く目をつぶった、まさにその瞬間。


 ズオッ!


 重い風切り音だけが、キョウの頭上を通り過ぎていった。


(…………あれ?)


 予想していた【GAME OVER】の無機質な文字も、強制送還の白い光も訪れない。

 恐る恐る目を開けると、相手の狂戦士が、「グオ?」と、獲物を仕留め損ねたことに戸惑うかのような声を上げていた。

 敵の拳は、キョウの頭上で空を切っていたのだ。


(な、何が起きたんだ!? 避けた? キョウは回避なんかしないはずだぞ!?)


 混乱した京介が状況を確認すると、キョウの巨体は、まるで「今だ」とでも言いたげに、低く沈み込んでいた。

 そう。キョウは、敵の拳が振り下ろされる直前に、そのSPD(はやさ)カンストの脚力で、タックルの姿勢に入っていたのだ!

 そして、偶然相手の攻撃を潜り抜けたキョウは、その低い体勢のまま、ゼロ距離で相手の懐に突撃した。


(これは!? マウントポジションってやつじゃないか!)


 京介が、格闘技の教科書で見たことのある体勢を認識したのと、通路の隅から、やけにリラックスした声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。

「なかなかやるニャ。本格的なMMA(そうごうかくとうぎ)の試合みたいだニャ」


 見れば、安全圏に避難していたポヌルが、どこから持ってきたのか、美味しそうに煮干しをかじりながら、二体の狂戦士の戦いを観戦していた。


(見てないでサポートしろよ! この役立たず猫!)


 京介の魂のツッコミも虚しく、マウントポジションを取ったキョウは、水を得た魚のように、その本能を解放した。


 馬乗りになり、相手の動きを封じ、「ウガァァ」と言いながら、やけに楽しそうに首をコキコキと鳴らした。

 そして、ただひたすらに殴る。


 ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!


 STR(きんにく)カンストの鉄拳は、相手の顔面に叩き込まれ続ける。

 だが、京介の視界に表示されるのは、絶望的な数字だけだった。


【0】

【0】

【0】


(やっぱりだ! 殴るだけじゃ、ダメージを与えられないんだよ!)


 VIT(たいりょく)DEF(かたさ)カンストの鉄壁は、マウントポジションという有利な状況でさえ、一切のダメージを許容しない。

 これでは、埒が明かない!

 京介が焦った、その時。

 マウントを取られながらも、相手の狂戦士が、そのトゲ付きのナックルを装着した拳を、キョウの顔面めがけて突き上げてきた!


(危なっ!)


 京介は、精密操作用マニュピレーターと化した尻尾を、鞭のようしならせ、その拳を横から叩き落とした!

 だが、その行動が、奇跡の化学反応を引き起こす。

 京介に叩き落とされた敵の拳と、まさに今、キョウが振り下ろそうとしていた拳が、空中で交差し、相手の顔面の上で、激突したのだ!


 ドゴォォ!!!


 京介が叩き落とした、敵自身のトゲ付きの拳。

 その上から、キョウのSTR(きんにく)カンストの拳が叩き込まれ、結果として、敵のナックルのトゲが、敵自身の顔面にめり込む形となった!


【20】


(ダメージが入った!? なんで!?)


 京介が、そのありえない光景に目を見開いていると、観戦していたポヌルが、食べていた煮干しをポロリと落とし、興奮した様子で叫んだ。


「トゲ付きナックルのおかげニャ!」


(え? ナックル?)


 京介が、その言葉の意味を理解した時だった。

 キョウもまた、本能で気づいたらしい。

 この「ポヨポヨ」しない、確かな手応え。ダメージが入る、この感覚。


 キョウは、真上から殴るのをやめた。

 そして、相手の顔面のすぐ横にある、相手自身の「拳」、そのトゲ付きのナックルに狙いを定めると、再び、その拳の上から殴り始めたのだ。


 相手の武器を、逆に利用する。

 相手の拳を、ハンマーで叩く釘のように、相手自身の顔面に、何度も、何度も、叩きつける!


 ドガガガガガガガガッ!!


【20】

【23】

【21】

【22】

【18】


(ダメージは入ってるけど……地道すぎるぞ! このペースじゃ、夜が明けてしまう!)


 京介が、そのあまりにも効率の悪い、しかし唯一のダメージソースに、新たな頭痛を覚え始めた、その時だった。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 先ほど、京介たちを分断した、あの回転扉が、再び音を立てて開き始めたのだ。

 そして、壁の向こうから、ようやく、ロジックやチョットツ、リアリーたち、残りの信徒たちが、なだれ込んできた。


「おおー! マスターが戦っておられる!!」

「なんと壮絶な殴り合いだ!!」

「この様な戦いが見られるなんて!」


 信徒たちは、通路の入り口で足を止めると、まるで世紀の一戦を観戦するボクシングファンのように、固唾を飲んでキョウの戦いを見守り始めた。

 いや、ただ見ているだけではなかった。

 彼らは、どこからか取り出したお煎餅せんべいを、ポリポリとかじり始めたのだ。


(見てないで手伝えよおおおおおおおおっ!!!)


 京介の魂の絶叫が、暗い通路に木霊する。

 その時、お煎餅を齧りながら戦況を見つめていたロジックが、ふと、ある重大な事実に気づいた。

 彼は、キョウと、キョウに殴られ続けている相手の狂戦士の姿を、何度も、何度も見比べると、まるで天啓を得たかのように、震える声で呟いた。


「似ている……。あの相手は、マスターと、あまりにも似すぎている……! まさか!」


 ロジックは、全ての謎が解けた、という表情で、高らかに宣言した。


「そうか! あれは、マスターが過去に、強さを求めるあまりに生み出してしまい、そして分離した、『悪しき心』そのものなのだ! 今、マスターは、自らの過去と決着をつけるために、己自身と戦っておられるのだ!」


(そんな、ドラゴンボー◯の神◯とピッコ◯みたいな関係な訳あるかーーーーー!!!)


 京介の、あまりにも真っ当なツッコミが炸裂する。

 だが、信徒たちは、ロジックのその壮大すぎる解釈に、

「「「おおおおお……! なんと深遠な戦いを……!」」」

 と、涙ながらに感動し、さらにお煎餅を食べる手を速めるのであった。

 京介の孤独な戦いは、まだ終わらない。


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