表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第5章 伝説への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/101

第60話 通路の見つけ方

「…………」


 先師京介せんし きょうすけは、目の前に広がる光景に、もはや言葉を失っていた。

 通路。通路。通路。

 壁一面を埋め尽くすように、等間隔で穿うがたれた、無数の通路。その数、ざっと見積もっても百や二百ではきかない。


(こんなのどうしろって言うんだよ! なんだこの選択肢の数は! 志望校の赤本あかほんの、どの難問よりも悪質だぞ! というか、全部同じに見える! これじゃあ、どの通路が正解か、分かるわけないじゃないか!)


 京介が、あまりの理不尽さに頭を抱えていると、信徒たちも、さすがにこの異常な光景に絶句し、ざわつき始めていた。


「な、なんだこれは……!」

「ど、どの通路が正解なんだ……?」

「まさか、この全てが罠……?」


 絶望的な空気が一行を包み込む。京介は、この状況で唯一、まともな(?)会話ができる相手に、わらにもすがる思いで問いかけた。


(ポヌル! お前、何か知らないのか!? こんな悪趣味な部屋、このクソゲーの仕様に詳しいお前なら、何か知ってるだろ!)


 京介の必死の問いかけに、しかし、隣を飛んでいたポヌルは、困ったように小さな前足で頭をいた。


「うーん……。さすがに、こんな開発者の手抜きが凝縮されたような裏ルートの構造までは、知らないニャ。完全に詰んだニャ、これ」


(詰んだニャ、じゃないんだよ! お前が頼りなんだぞ!)


 京介が、唯一の希望の糸が切れたことに絶望しかけた、まさにその時だった。

 遥か上空、先ほどチョウ・メードの声が響いてきた天井から、ひらり、ひらりと、何か白いものが、ゆっくりと舞い落ちてきた。

 それは、まるで木の葉が風に舞うかのように、不規則な軌道を描きながら、一行の中心へと降下してくる。


「ん? なんだあれは!?」


 信徒の一人が気づき、全員が天をあおぐ。

 その白いものは、重力に従い、ゆっくりと、ゆっくりと……そして、なぜか吸い寄せられるかのように、このパーティーで最も脳筋な男、チョットツの足元に、ふわりと着地した。

 それは、なんの変哲もない、A4サイズの安っぽいコピー用紙だった。


「おおっ!」


 チョットツが、まるで神からの啓示でも受け取ったかのように、その紙をうやうやしく拾い上げた。そして、そこに書かれた文字を一瞥すると、カッと目を見開き、歓喜の声を上げた。


「謎解きだ! ロジック殿! これは謎解きですぜ! 多分この謎を解けば、正解の道が分かるに違いない!」


(また謎解きかよ……! ワンパターンだな、このクソゲーは!)


 京介が、このダンジョンの設計思想の欠如に、不毛なツッコミを入れていると、天才軍師ロジックが、眼鏡をクイッと押し上げながら、チョットツに向けて静かに言った。


「ほう? 『謎解き』ですか。興味深い。……チョットツ君、その紙に書かれている内容を、我々にも聞こえるよう、読み上げてください」


「はい! お任せください!」


 チョットツは、まるで授業中に音読を指名された小学生のように、ピンと背筋を伸ばし、元気のいい返事をした。そして、全員にはっきりと聞こえる、やけに通りの良い大きな声で、手に持ったA4用紙に書かれている内容を、朗々と読み上げた。


「えー……。『バカはバカでも、憎めないバカはだーれだ?』……以上であります!」


(お前だーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!)


 京介は、アバターの内部で、本日最大級のボリュームで絶叫した。なんだその謎解きは! なぞなぞですらない! ただの悪口か!

 京介が、あまりのくだらなさに激しい目眩を覚えていると、ロジックは、腕を組み、心底真剣な表情で、その「謎」について考察を始めていた。


「……なるほど。『バカ』の定義から、論理的に再構築する必要がありそうですね。『憎めない』という属人性の高い形容詞を、いかに客観的な指標に落とし込むか……。例えば、行動原理における『利他性』と『自己満足』の比率、あるいは『失敗』から生じる『周囲への被害』と『意図せぬ利益』の相関関係か……。ふむ……これは、なかなか骨が折れそうだ」


(本気で解こうとすんなよ! 100パーセント、あのチョウ・メードとかっていうエセ四天王の嫌がらせだろ! あいつ、さっき自信作の精神攻撃装置を僕の尻尾で壊されて、まだ根に持ってやがるんだ!)


 京介が、このパーティーの知性担当(ロジック)脳筋担当(チョットツ)の、絶望的なまでの知性のズレに頭を抱えていると、今まで退屈そうにしていたキョウが、ふと「ウガッ」と短く吠えた。

 その一言を、ポヌルが見逃すはずもなかった。彼は、すかさず前に出ると、完璧な同時通訳を開始した。


「『チョットツよ。グズグズしている暇はない。通路は無数にあるが、答えは一つ。とりあえず、正面に見えているあの通路にでも突っ込んでゆくが良い! さすれば道は開かれん!』……と、マスターは申しておられるニャ!」


 その「神託」を聞いたチョットツの顔が、パアッと輝いた。


「おお! 分かりましたぜ、マスター! このチョットツ、マスターの『神撃』の『触媒』となったこの身! 今こそ、先陣を切って道を開いてみせましょう!」


 チョットツは、巨大な盾を構えると、一行の真正面にあった、無数の通路のうちの一つに向かって、猛然と走り出した。


(……なるほど。とりあえず、あっちの脳筋に突入させてみて、様子をみるって作戦か)


 京介は、ポヌルの機転の利いた、そして、あまりにも人柱的な采配に、内心で納得した。


「そうだニャ。こういうときは、考えても無駄ニャ。まずは行動あるのみニャ」


 ポヌルが、片目を閉じて、いたずらっぽくウィンクしてみせた。


 そして、次の瞬間。

 猛然と通路に突入しようとしたチョットツの巨体が、まるで透明な壁にでも激突したかのように、急停止した。


 バチコーン!


 という、あまりにもマンガ的な、乾いた衝突音と共に。

 チョットツは、叩きつけられたハエのように、一瞬だけ壁(?)に張り付いた後、そのまま、パタリ、と仰向あおむけにその場に倒れた。そのひたいには、衝突の衝撃でできた、見事なまでのでっかいたんこぶが、早くも鎮座している。


「(…………え?)」


 京介とポヌルが、同時に間の抜けた声を上げた。

 信徒の一人が、慌てて倒れたチョットツに駆け寄り、彼が突っ込もうとした「通路」の入り口を、恐る恐る手で触ってみた。


「……! こ、これは……!」


 信徒は、信じられないといった表情で振り返り、叫んだ。


「絵です! この通路、壁に描かれた、めちゃくちゃリアルな『絵』です!」


(「絵!?」)


 その報告に、京介とポヌルは、再び完璧なハモりを見せた。

 慌てて信徒たちが手分けをして、壁一面に並んだ、無数の通路を一つ一つ調べ始めた。


「こっちも絵です!」

「ダメだ! これも絵だ!」

「あ、あった! ここだけ本物です! ここだけ、本当に穴が開いてます!」


 どうやら、この悪趣味なトラップは、無数の「だまし絵」の通路に、たった一つだけ「本物の通路」を混ぜておくという、あまりにも古典的で、あまりにも悪質なものだったらしい。


「うう……。いてて……。マスター……オレ、やりましたぜ……。一番槍……務めやした……」


 信徒たちに両脇を支えられながら、チョットツが、額のたんこぶを押さえ、フラフラの状態で立ち上がった。その顔は、なぜか達成感に満ちあふれていた。

 一行は、ようやく見つかった「本物の通路」へと、足を踏み入れる。


(……セーブポイントは、まだか……)


 京介は、脳筋チョットツのたんこぶと、天才ロジックのズレた思考という、非常に厄介な二つの頭痛の種を抱えながら、暗い通路の奥を、ただただ見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ