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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第5章 伝説への道

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第55話 第二の四天王の策略

 魔王城内部は、外観の禍々《まがまが》しさを裏切らない、ジメッとした陰鬱いんうつな空気に満ちていた。

 黒曜石のような壁には厨二病心をくすぐる不気味な紋様が刻まれ、通路の隅々にはほこりと、カビ臭いような、なにか青春の汗とは違う種類の酸っぱい匂いが漂っている。

 先ほどキョウが扉越しにワンパンKOした四天王(最弱)バートラの痕跡は、光の粒子となって綺麗サッパリ消え去り、もはやどこにも見当たらない。


(レベル50……。STR(きんにく)カンスト……。そして、SPD(すばやさ)全振り……ああ、文字にするだけで頭痛が……)


 先頭で、相変わらず脳内お花畑な狂戦士キョウの中で、先師京介せんし きょうすけだけが、先ほどのレベルアップの衝撃から未だ立ち直れずにいた。

 知力(INT)への淡い期待は粉々に打ち砕かれ、このアバターは、より高速で予測不能な脳筋ゴリラへと退化してしまったのだ。


(いや……今は絶望しんえんに浸っている場合じゃない。セーブポイントだ。あの蜘蛛の糸より細い噂が本当なら、この城の中間地点にセーブポイントがあるはず……! そこまで、この高速ゴリラを何とか操って辿り着くんだ!)


 京介が内心で固く決意を固めた一行が、最初の広間のような場所に出た、まさにその時だった。どこからともなく、妙にエコーがかかっているが、明らかに安物のマイクを使っているようなノイズ混じりの、冷たく響く声が聞こえてきた。


「……フッフッフ……よくぞ来たな、愚かな侵入者ども」


 声は、広間の天井付近から響いてくるようだ。


(スピーカーでも仕込んであるのか?)


 しかし、姿は見えない。


「私は魔王軍が誇る偉大なる四天王の一人! チョウ・メード! 引き返すなら今のうちだ。このまま進むと、貴様ら、確実に後悔することになるぞ!」


 尊大そんだいだが、いかんせん声に張りがない小物臭こものしゅうの漂う声。京介は、バートラの「私は四天王の中でも最弱……!」という衝撃の自己申告を思い出し、早くもこのチョウ・メードも大したことないのでは、とかなり高い確度で推測していた。

 その声を聞いた熱血マスター護衛隊長チョットツが、カッと目を見開き、天に向かって叫んだ。


「どこのどいつだ! コソコソ隠れてんじゃねえ! 後悔するのはお前らの方だ! 我らがマスター・キョウ様と、このオレがいる限り、貴様らなんかに負けるかあっ!」


(いや、だから、さっき堂々と『四天王の一人 チョウ・メード』って名乗ってたろ! 聞いてやれよ! 少しは人の話を!)


 京介が、そろそろコンビ結成の兆しを見せる味方の脳筋にツッコミを入れていると、キョウが面倒くさそうに「ウガッ」と短く吠えた。その野生のオーラを感知したのか、天井の声がわずかに狼狽うろたえたように聞こえた。


「む……!? な、なんだその威圧感は……! まさか、貴様は……例の『壁殴り代行』の……!?」


 何か知っているような口ぶりだ。


(壁殴り代行ってなんだよ!)


 声の主はすぐにゴホンゴホンとわざとらしく咳払いをして、尊大な態度を取り繕った。


「ふん……まあ誰でも良い! この先へ進もうというのなら、我が配下の精鋭たちが容赦はせんぞ!」


 一行は、そんなもはや清々しいほどの虚勢きょせいなど意にも介せず、広間の奥へと続く通路へと進もうとした。


(だって配下とかどこにもいないし)


 その瞬間、声が完全に素に戻って慌てたように叫んだ。


「ま、待てって! ホントに待て! それ以上奥へ入るな! 威力業務妨害及び建造物侵入罪で警察を呼ぶぞ! あと器物損壊もだ!」


(け、警察だとお!? ゲームの世界で!? なんだその禁断のメタ発言は! 世界観どこいった! 設定はどうなってるんだ、このクソゲーは! ていうか、魔王軍がどの管轄の警察に通報するんだよ!)


 京介が、あまりの不条理さにリアルで貧血を起こしそうになっていると、意外な人物が、その言葉に過剰反応した。

 先頭を歩いていたチョットツが、ピタリ、と足を止めたのだ。顔面蒼白になりながら、その巨体が、カタカタと小刻みに震えている。


「け、けけけ、警察は……マズイであります……! 非常にマズイ状況であります……!」


(なんでだよ!? そこ本気にするとこ!? ゲームだぞ!? てか、焦りすぎて口調も変わってるじゃないか! というか、お前、現実リアルで一体何をしでかしたんだよ! むしろそっちの方が気になって夜も眠れんわ!)


 チョットツの完全に想定外すぎる反応に、パーティー全員の足が止まる。その一瞬の隙を、してやったり! とばかりに天井の声が見逃すはずもなかった。


「フッフッフ……見事にかかったな、愚か者め! 喰え! 我が、とっておきの、一子相伝いっしそうでん門外不出もんがいふしゅつ、(昨日思いついて3分で作った)この城に仕掛けられし伝説の秘技!」


 声は、これでもかと勿体もったいぶるように一度タメを作り、そして、自信満々に叫んだ。


「くらえっ! 伝統と信頼の! 落・と・し・穴ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その言葉と同時に、京介たちの足元の床が、まるで昭和のギャグマンガのように、効果音まで聞こえてきそうな勢いでパカッと音を立てて開いた。


「「「うわあああああああああああっ!!」」」(キョウ以外)


 重力に従い、一行は奈落ならくへと落下していく。そしてキョウは落下中も特に表情を変えず真顔だった。

 京介の脳裏を、一つの絶望的な事実が稲妻のようにぎった。


(セーブポインツがああああ! 僕のレベルがああああ! またレベル1に戻るのかよおおおおお! あの豆腐シャワーの日々は何だったんだ! 返せ! 僕のレベルと受験を返せえええええええ!)


 真っ暗な闇の中を無様に手足をばたつかせながら落下し、京介は(主に精神的なダメージで)意識を手放しかけた。

 しかし、予想していた【GAME OVER】の表示と地面への激突の衝撃は、いつまで経っても訪れなかった。代わりに、体が何か、天国のお迎えかと思うほど非常に柔らかく、トランポリンもかくやという弾力のあるものに包み込まれる感覚があった。


 ボフンッ。


「……あれ? 痛くない……?」


 京介が恐る恐る目を開けると、そこは巨大なクッション材の上だった。床一面が、まるで高級ホテルのスイートルームのベッドのような、ふかふかのクッション材で覆われ、落下の衝撃を完璧に吸収してくれていたのだ。周囲を見渡せば、ロジックや、なぜか大の字で幸せそうに寝ているチョットツ、他の信徒たちも、同じようにクッションの上に落下し、ポカーンと口を開けて呆然ぼうぜんとしている。


(助かった……のか? いや、それより、なんで落とし穴の底にこんな過剰なまでに ご丁寧なクッションが……? 罠としての意味を根本から問い直したくなる親切設計だな! もてなされてるのか、俺たちは!?)


 京介が、運営の優しさという名の雑さ(あるいは狂気)にツッコミを入れていると、ふと、目の前に山のような巨大な影が立ちはだかっていることに気づいた。


(嫌な予感しかしない……)


 ゆっくりと顔を上げる。

 そこには、首が痛くなるくらい見上げるほど巨大なモンスターが、微動だにせず鎮座していた。

 その姿は、まるで「散歩中に『絶対に帰らない』と心に決めた柴犬」のように、この世の全てを拒絶するかのように、ただ静かに、そこに在った。


(こ、こいつは……! まさか、そんな……!)


 京介の脳裏に、できれば永遠に忘れておきたかった記憶が蘇る。

 目の前に立つ、その見覚えのある巨大なモンスターの姿に、京介は目眩を覚えていた。


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