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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第5章 伝説への道

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第51話 知恵の森

 キョウの興味は、倒した宿敵にはなかった。彼は、瓦礫がれきと化した城門を一瞥いちべつすると、まるで「道が開けたな」とでも言いたげに、悠然と魔王城の敷地内部へと足を踏み入れた。


「おお! マスターが進まれるぞ!」

「続け! 我々も!」


 信徒たちは、白旗を振るミノタウロスに一瞥いちべつくれると、意気揚々とキョウの後を追った。その顔には、先ほどの併願城攻略での疲労の色は濃いが、それ以上に、神と共に未知の領域へ踏み込む高揚感が浮かんでいた。


 ふと、キョウの近くにいる信徒たちの会話が、京介の耳に届いた。


「魔王城の中間地点には、セーブポイントがあるって話だ」

「そうか。そこまで進んだら一息つけるな」


(セーブポイント……!)


 京介は、その言葉に、砂漠でオアシスを見つけた旅人のような安堵感を覚えた。

 そうだ。セーブさえできれば、もうあの悪夢のレベル1リセットに怯える必要はない。ここまで育てたレベル46。STRカンストまであと少し。希望が見えてきたぞ!


 京介が、STRカンスト後のINT振り分け計画という、あまりにも歪んだ希望に胸をときめかせた、その時だった。眼前に、鬱蒼うっそうとした森が広がっているのが見えた。手入れされている様子は全くなく、まるで原始林のようだ。


「森……? 城の中に森があるのか?」


 いぶかしむ京介の心の声を読んだのか、隣を飛んでいたポヌルが、まるでこの世界の不条理を知り尽くした古参プレイヤーのように、やれやれといった口調で解説を始めた。


「ここは通称『知恵の森』ニャ。ただの森じゃないニャ。この先へ進むには、いくつかの謎解きギミックを突破する必要がある、厄介なエリアだニャ」


「謎解き……?」


 その言葉に、京介は一抹の、いや、かなり濃厚な不安を覚えた。この脳筋アバターと、あの狂信的な信徒たちに、果たして「謎解き」などという知的な行為が可能だろうか。


 京介の背筋を、エベレスト級の不安感が滑り落ちた。そして、その不安を裏付けるかのように、後方から、ある意味最強タッグとも言える二つの声が、自信満々に響き渡った。


「ほう、『知恵』ですか。論理パズルや暗号解読の類ならば、私の得意分野ですよ。マスターの進む道を阻む愚かなギミックなど、このロジックが論理的に瞬時に解き明かしてみせましょう」


 天才軍師(?)ロジックが、いつものように眼鏡をクイと押し上げながら、クールに宣言する。


「おお! 謎解きか! 任せろ! オレ、昔からなぞなぞは得意なんだ!」


 そして、マスター護衛隊長という名の第二の脳筋チョットツが、巨大な胸筋をドン!と叩きながら、全く見当違いの自信を、パーティーメンバー全員の鼓膜が破れそうな大声で見せつける。


(終わった……。完全に終わった……。ロジックは絶対に『我思う、故に壁あり』みたいな斜め上の深読みをして自滅するし、チョットツに至っては、なぞなぞと謎解きの区別すらついてない……。このパーティー、詰んでる……セーブポイント、遠い……)


 京介は、早くもセーブポイントへの道のりが、地球からアンドロメダ星雲くらい絶望的に遠のいたことを悟り、まるで答案用紙に名前しか書けなかった全国模試のように、ただただ虚無の表情で森の奥を見つめることしかできなかった。



 森の中は、予想通りモンスターの巣窟だった。しかし、レベル60越えの精鋭部隊にとっては、もはや敵ではなかった。

 ガンジョーとチョットツ(主にガンジョー)が鉄壁の防御ラインを築き、後衛の魔法使いたちが、相変わらずネーミングセンスの壊滅的な魔法で敵を一掃していく。キョウは、その間、特に何もせず、ただ「ウガウガ」言いながら先頭を歩いているだけだったが、信徒たちは「マスターがいらっしゃるだけで我々の力は何倍にもなる!」「マスターの覇気だけで敵が怯んでいる!」と勝手に士気を高めていた。京介も、ここぞとばかりにレベルアップした尻尾を駆使し、敵の足元に小石を弾き飛ばして転倒させたり、背後から尻尾で殴って注意を逸したりと、涙ぐましいまでに地味なサポートに徹していた。


 そんな、比較的順調な進軍が続いていたが、やがて一行は、開けた場所に出た。そこは、高い生垣に囲まれた「閉ざされた庭園」のような空間で、先に進む道が見当たらない。


「何だここは?」

「行き止まりか?」

「いや、ここまで一本道だったはずだ。どこかに隠し通路が……?」


 信徒たちが困惑の声を上げる中、京介は庭園の中央に設置された、奇妙なオブジェクトに気づいた。

 そこには、三つの石造りの祭壇が、等間隔に並んでいた。左の祭壇には円(◯)の印が、中央の祭壇には三角形(△)の印が、そして右の祭壇には四角形(□)の印が刻まれている。

 それぞれの祭壇の手前には、小さなテーブルが置かれ、その上には、まるで供物のように、粘土細工のようなスライムを模した小さな石像が、数え切れないほど山積みにされていた。

 そして、三つの祭壇のさらに手前、中央の位置には、明らかに「ここに重要なヒントがありますよ」と主張している古びた石碑が一つ、静かに佇んでいた。表面には、びっしりと何やら長文のメッセージが刻まれている。


 ロジックが、まるで古代遺跡を発見した考古学者のように、その石碑に近づき、埃を軽く払うと、刻まれた文字を厳かに読み上げ始めた。


『扉を開きたくば、宇宙の真理、万物の根源たる数列の次に来る数字を読み解き、その数字と同じ数だけ「真なる祭壇」に供物を捧げよ』


『されど注意せよ、偽りの祭壇に捧げし供物は、汝らに破滅をもたらさん』


『数列: 1, 3, 7, 15, 31, □』


『真なる祭壇は、その形が最も「安定」を示し、かつ「完全」なる数と関連するものなり』


 石碑の文面を読み終えたロジックの口元に、「この程度の謎、私にかかれば朝飯前だ」と言わんばかりの、自信に満ちた(そして勘違いに満ちた)不敵な笑みが浮かんだ。


「……ふむ。なるほど。数列の謎と、正しい祭壇の選択か。面白い。実に論理的な問いだ」


 京介も脳内で、受験数学で鍛え上げられた思考回路をフル回転させる。


(数列…1、3、7、15、31……どういう法則だ? 階差数列か? いや、何か別のパターンか……? それより「真なる祭壇」の方も厄介だ。「安定」を示し「完全」なる数……? ヒントが抽象的すぎるだろ……!)


 京介が、ようやく思考のエンジンを温め始めた、まさにその時だった。隣で、チョットツが自信満々に叫んだ。


「分かったぞ! これはなぞなぞだ!」

(だから違うって言ってるだろ! せっかく集中し始めたところを邪魔するな!)


 一方、我らが狂戦士キョウは、そんな知的な議論には1ミリも興味がない様子で、テーブルに山積みにされた粘土細工のようなスライムの石像を一つ手に取ると、「食えるか?」とでも言いたげに首を傾げながら、それを躊躇ちゅうちょなくペロリと舐めていた。そして、まずかったのか、あるいはただの石だったことに気づいたのか、すぐにペッ!と吐き出し、まるで「使えねぇな」とでも言うように、石像をポイと投げ捨てた。


 三者三様、いや、四者四様の思考(と食欲)が交錯する中、静寂だけが、霧深き庭園を支配していた。

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