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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第48話 尻尾の進化(?)

 ミニタオルスという、あまりにもふざけた名前の門番を(主に信徒たちの力で)退けた一行は、ついに『魔王城の併願城』の内部へと足を踏み入れた。

 外観同様、内部も黒曜石のような光沢を持つ壁で覆われ、不気味な紫色の松明が通路を照らしている。魔王城本家と比べると、やや小ぢんまりとしてはいるが、それでも高レベルダンジョン特有の重苦しい雰囲気が漂っていた。


「気を引き締めろ! ここからが本番だ!」


 ギルドマスター代理のロジックが、冷静に指示を飛ばす。信徒たちは、先ほどの門番戦でのマスター・キョウの活躍とレベルアップを目の当たりにし、士気は最高潮に達していた。

 その先頭には、相変わらず神輿のように担がれたキョウと、そのすぐ後ろを意気揚々と歩くポヌル、そして「マスター護衛隊長」のチョットツ、古参タンクのガンジョーが続く。


(レベル40か……。STR全振りのおかげで、攻撃力だけなら、そこらのレベル60プレイヤーより高いかもしれない。だが、防御力は紙同然……。油断はできないな)


 先師京介せんし きょうすけは、アバターの内部で冷静に状況を分析していた。ログアウトという最終目標のためには、無駄な死に戻りは避けたい。尻尾によるサポートも、より精度を上げていく必要がある。

 一行が、最初の広間のような場所に出た、その時だった。

 前方の通路から、カサカサという不気味な音と共に、何かが大量に押し寄せてくる気配がした。


「敵影多数! 接近してきます!」


 斥候役の信徒が叫ぶ。

 松明の光に照らし出されたのは、薔薇ばらのような深紅の花を咲かせた、しかし全身が鋭いトゲで覆われた、不気味な植物型モンスターの群れだった。

【ローズアーミー】

 その名の通り、まるで軍隊のように統率された動きで、広間を埋め尽くさんと迫ってくる。



「全軍、戦闘態勢!」


 ロジックの号令と共に、信徒たちが一斉に武器を構える。


「植物タイプだ! おそらく火属性が弱点だろう!」


 誰かが叫ぶと、後方に陣取った数人の魔法使いが、即座に詠唱を開始した。杖の先端に、炎の魔力が収束していく。

 その間にも、ローズアーミーの群れは、距離を詰めてくる。そして、一定の距離に達すると、一斉にその身を震わせ、トゲのようにも見える硬質な「種」を、マシンガンのように撃ち出してきた!


 シュシュシュシュシュッ!


 無数の種が、雨のように降り注ぐ。


(うわっ!)


 京介は、キョウが全く避けようとしないのを見て、咄嗟に尻尾を高速で振り回し、飛来する種を叩き落とし始めた。ペシペシと小気味よい音が響く。


「マスターをお守りしろ!」


 ガンジョーとチョットツは、巨大な盾を構え、キョウの前に立ちはだかる。盾に種が当たる、カンカンカン! という硬質な音が響き渡った。

 しかし、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 盾に当たった種が、まるでエイリアンの幼体のようにうごめき始め、次の瞬間、プレイヤーのHPを養分にするかのように爆発的な速度で発芽、成長! あっという間に、鋭いトゲを持つつたとなって、盾を持つ腕に絡みついてきたのだ!


「ぐわっ!?」


「い、痛え!」


 ガンジョーとチョットツは、予想外の攻撃に、思わず盾から手を離してしまう。

 そして、それは京介の尻尾も例外ではなかった。種を叩き落とした尻尾の表面に、いつの間にか数粒の種が付着していたらしく、そこから瞬く間にトゲだけの蔦が伸び、尻尾全体に絡みついてしまったのだ。


(いっ……! いや、痛くない……!?)


 京介は、鋭いトゲが皮膚に食い込む感覚を覚悟したが、なぜかキョウのアバターは全くダメージを受けていない。それどころか、蔦はまるで装飾品のように、上手い具合に尻尾に巻き付き、妙な一体感を生み出していた。


(……なんだこれ? トゲ付きの尻尾……? まるで悪魔の武器みたいだ……。いや、中二病全開で、ちょっとカッコいい……かも?)


 京介が、己の尻尾の新たな可能性(?)に困惑していると、後方で詠唱を続けていた魔法使いたちの呪文が、ついに完成した。


「炎よ集え! 敵を焼き尽くせ!」


「燃えろよ! 燃えろ!」


 二人の魔法使いが、杖を高々と掲げ、叫んだ。


「ヒダルマーン!!!」


「タキビーーーーム!!」


 ゴオオオオオオオオッ!!

 凄まじい火炎放射と、巨大な火球が、ローズアーミーの群れに叩き込まれる。


(……ヒダルマーン? ……タキビーム?)


 京介は、そのあまりにも緊張感のない魔法の名前に、思わず思考が停止した。


(なんだそのネーミングセンスは……! 小学生の放課後のノリかよ! もうちょっとこう、あるだろ!? 『インフェルノ』とか! 『ファイアストーム』とか! 運営の語彙力はどうなってるんだ!)


 京介のツッコミを察したかのように、隣でポヌルが、やれやれといった様子で解説を始めた。


「……ああ、それニャ? あれは、このゲームの開発会社の社長が、酔った勢いで悪ふざけで考えた魔法名らしいニャ。誰も逆らえなくて、そのまま実装されたのニャ……前にも『イナズマーン』っていう魔法があったの忘れたニャ?」


(社長……! そういえばそんな魔法があったな。あの時はロケットパンチに集中してて聞き逃してたよ)


 京介は、この世界の理不尽さの一端に触れた気がした。


 名前はアレだが、魔法の効果は絶大だった。

 植物タイプのモンスターにとって、炎はまさに天敵。ヒダルマーンとタキビームの直撃を受けたローズアーミーたちは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして燃え上がり、灰と化していった。



 ファンファーレが鳴り響き、キョウのレベルアップを告げる。


【キョウのレベルが 42 に上がった!】

【ステータスポイントを割り振ってください】

【STRに全ポイントを割り振りました】


(しかし……魔法か。いいなぁ、魔法使いは)


 敵を一掃する派手なエフェクト。遠距離から安全に攻撃できる利便性。京介は、素手で殴ることしかできない(しかも操作不能)自分のアバターと比べて、少しだけ羨ましく思った。


(なんで僕のアバターは、スキルの一つも覚えないんだろうな……? レベル42にもなったのに)


 その呟きに、ポヌルが、まるで心を読んだかのように答えた。


「スキルを覚えたところで、どうせ任意で発動できないニャ。宝の持ち腐れになるだけだニャ」


「……あ。……それも、そうか」


 京介は、あまりにも正論すぎて、反論の余地が1ミリもなかった。操作不能という根本的な問題がある限り、どんな強力なスキルも、ただの「飾り」でしかない。


(結局、僕にできることは……)


 彼は、自虐的な笑みを浮かべながら、ふと自分の尻尾に目をやった。

 そこには、先ほどの戦闘で絡みついた、トゲだけの蔦が、まるで「俺を使え」とでも言いたげに、奇妙な一体感を保ったまま、巻き付いていた。


(……まあ、スキルはなくても、この『トゲ付きの鞭』があるか)


 京介は、少しだけ器用に動かせるようになった尻尾を、軽く振ってみせた。トゲ付きの尻尾。これは、運営が意図しなかった、僕だけの専用武器かもしれない。

 そんな、ささやかな希望を胸に、一行は、煙が立ち上る広間を後にし、ダンジョンのさらに奥へと進むのだった。

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