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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第45話 ドラゴンのボーナスタイム

(……終わった……)


 ボス【カゴモリキング】が光の粒子となって消滅し、祝福のファンファーレが鳴り響いたボス部屋。先師京介せんし きょうすけは、満身創痍の信徒達に囲まれたアバターの内部で、深い、深ーい溜息をついていた。

 目の前では、チョットツがボロボロと涙を流しながら感極まっている。

 彼は、先ほどのロジックの解説(という名の妄想)を聞き、自分がキョウの壮大な計画の「触媒」として使われたことに、この上ない喜びを感じているらしかった。


「マスターが、このオレを……このオレの『一点突破』の力を信じてくれたから……! うっ、ううっ!」


(いや、信じてないし、そもそもお前の力は『一点突破』じゃなくて『背中絶対守るマン』だろ! さっきまで敵に背中向けてたの忘れたのか!)


 京介が、その暑苦しい信仰心に若干引き気味になった、その時だった。

 キョウたちが開けた上階の穴から、何かがこちらに向かって落下してくる気配がした。


「……ん?」


 チョットツが、涙まみれの顔で、天井を見上げた。

 そして、その巨大な「何か」が彼の頭上に、寸分の狂いもなく着弾した。


 ドチャァァァァァァァァッ!!!!

「ぎゃああああああああああああっ!?」


 チョットツの、先ほどの感動が全て吹き飛ぶような、素の絶叫が響き渡る。

 何の前触れもなく、純白の「何か」に押し潰された彼の姿は、あまりにも無様だった。

 そして、京介の視界には、無慈悲なシステムメッセージがポップアップする。


【モメントキヌドラゴンを討伐しました!】

【経験値を獲得しました!】

【キョウのレベルが 29 に上がった!】


(えええええええええええ!?)


 京介は、混乱の極みにあった。


(今、何が起きた!? ていうか、何でレベル上がったの!? 殴ってないよ!?)


 ポヌルは、チョットツを押し潰した「何か」を触って確かめる。


「なるほどニャ……」


 いち早く状況を理解したポヌルが、冷静に呟いた。


「キョウたちが開けた穴のせいで、上階の床の崩壊が進んでるニャ。で、運悪く穴のそばにいたドラゴンが、そのまま落ちてきたんだニャ」


 ポヌルは、豆腐と化したドラゴンを、前足でツンツンとつついた。

 その、あまりにも非現実的な光景を目の当たりにし、知性派のロジックが、カッと目を見開いた。


「……まさか。まさか、これも……!」


 彼は、わなわなと震えながら、天を仰いだ。


「マスターは、ボスを倒すことだけが目的ではなかった! 床を破壊することで、上階に残った敵戦力を、このボス部屋に『落下』させ、一網打尽にすることまで、計算されていたというのか……!」


(そんなわけないだろ! 事故だよ! ただの豆腐製造事故だよ!)


 京介の魂のツッコミも虚しく、ロジックの妄想は、現実のものとなっていく。

 彼の言葉に呼応するかのように、天井の穴から、次々と白い影が降り注ぎ始めた。


 ドチャッ!

「ぎゃっ!」(ガンジョーにヒット)

【モメントキヌドラゴンを討伐しました!】

【経験値を獲得しました!】


 ドチャッ!

「うわっ!」(ロジックの頭上にヒット)

【モメントキヌドラゴンを討伐しました!】

【経験値を獲得しました!】


 ドチャッ! ドチャッ! ドチャチャチャチャチャチャチャッ!!!!

「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」」」


 それは、もはや戦闘ではなかった。

 ただの、ボーナスタイムだった。

 上階から落下してくるモメントキヌドラゴン(豆腐形状)が、ボス部屋にいた信徒たちの上に、無差別に降り注ぐ。

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、京介の視界だけが、レベルアップのファンファーレで天国だった。


【キョウのレベルが 30 に上がった!】

【キョウのレベルが 31 に上がった!】

【キョウのレベルが 32 に上がった!】

 ・

 ・

 ・

【キョウのレベルが 37 に上がった!】


(レベルが、レベルが9も上がったあああああああああああ!!!)


 あまりの経験値効率に、京介が、アバターの内部で狂喜乱舞する。

 レベル20でこのダンジョンに入り、ボスを倒して28になり、そして今、豆腐シャワーを浴びただけで37。


 これが……これが狂戦士の力なのか……!(絶対に違う)


 やがて、豆腐の雨は止んだ。

 どうやら、上階にいたドラゴンは、全て落ちてきたらしい。

 ボス部屋は、静まり返っていた。

 そこにあったのは、先ほどまでの激戦の痕跡ではなく、おびただしい量の木綿豆腐ドラゴンだったもの絹ごし豆腐ドラゴンだったもの、そしてダンジョンの床材だった「おから」が混ざり合い、積み上がった、巨大な「豆腐マウンテン」だった。


(なに、これ……地獄の豆腐ビュッフェ会場……?)


 京介が、目の前の光景に絶句していると、豆腐の山の中から、むくりと一人の男が起き上がった。

 チョットツだ。

 彼は、顔面にこびりついた豆腐ドラゴンを、犬のようにブルブルっと振りはらうと、何を思ったか、その巨大な盾をスプーンのように構え、目の前の豆腐の山を、ガバッと掬い取った。

 そして、それを、何の躊躇もなく、口いっぱいに頬張った。


(……え?)


 京介の思考が、一瞬、停止する。

 モグモグと、何かを咀嚼するチョットツ。

 やがて彼は、その目をカッと見開くと、歓喜の声を上げた。


「うまーーーーーいッ!! なんだこれ! めちゃくちゃ美味いぞ! 誰か! 誰か醤油を持ってないか!」


(食べるなあああああああああああああっ!!!)


 それは敵だ! さっきまで君を殺そうとしていた高レベルモンスターだぞ! 食用じゃないんだよ! そもそも味覚があるって、どうなってるんだよこのヘッドセットは!?

 京介のツッコミも虚しく、チョットツは、さらに一口、豆腐(元ドラゴン)を頬張る。

 すると、彼のHPゲージが、僅かだが、ピコンと回復した。


「おお! 回復した! マスター! この豆腐、HPが回復しますぜ!」


 その時、キョウが偶然「ウガッ」と吠えた。

 すかさず、ポヌルが、待ってましたとばかりに翻訳する。


「『フン。何を驚いている。この豆腐に回復効果があることなど、全て計画通りだ』……と、申しておりますニャ」


(絶対言ってない! どうせ『豆腐うめぇ』くらいにしか思ってないだろ、こいつは!)


 だが、その一言が、決定打だった。


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」

「さすがマスター!」

「このための豆腐!」

「醤油はないが、岩塩ならあるぞ!」


 阿鼻叫喚の地獄から一転、信徒たちは、我先にと豆腐マウンテンに群がり、手や盾で、貪るように食べ始めた。

 その中で、ロジックだけが、腕を組み、真剣な表情でブツブツと呟いていた。


「ふむ……確かに美味だが、この大豆(?)の風味を最大限に活かすなら、岩塩よりも、ゆず塩が最適解ではないか? いや、待て。このダンジョンの特性を考えるなら、あえてワサビ醤油で……」


(もうグルメレポートになってるじゃないか!)


 京介は、アバターの中で、天を仰いだ。

 ドラゴンの死骸(豆腐)を、皆で美味しくいただくパーティ。

 なんだこれは!


「まぁ、ラッキーだったニャ。HPも回復するし、腹も膨れる。一石二鳥だニャ」


 ポヌルが、京介の心情を察したのか、肩をすくめてみせた。


(……ああ、そう……。ラッキー、ね……)


 京介は、遠い目(のような雰囲気)をしながら、このカオスな食事風景を眺めていた。

 もう、ツッコむ気力も湧いてこない。


(……さて。腹も膨れたみたいだし……帰るか)


 京介が、心の中で、完全に「オフ」のスイッチを入れた。

 豆腐をたらふく食べ、ご満悦の一行は、ぞろぞろとゴンドラに乗り込む。


「よし、全員乗ったな」


 ロジックが、指差し確認をすると、ゴンドラの起動レバーの横にあった、謎のボタンを押した。


「それでは、皆様。凱旋であります。……スモーク、焚きます」


 ブシュウウウウウウウウウウッ!!!!


(そんな余計な演出は要らないんだよおおおおおおおおっ!)


 京介の最後のツッコミは、派手に焚かれたスモークの音にかき消された。

 こうして、レベルだけが爆上がりし、心に深い疲労を刻み込んだ一行は、謎の豆腐ダンジョンを後にするのであった。

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