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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第41話 尻尾語、第二章~背後の護り~

「グルルルルルルル……」


 けたたましい咆哮と共に、先師京介せんし きょうすけ一行は、完全に包囲されていた。

 壁の崩落によって安眠を妨害された、数十体もの高レベルモンスターたちによって。

 彼らの頭上に表示された名前は、【モメントキヌドラゴン】。


(モメントキヌ……木綿と絹……豆腐ドラゴン!? なんでダンジョンの奥に豆腐の竜がいるんだよ! しかも複数! この世界の食物連鎖はどうなってるんだ!)


 その、あまりにもヘルシーすぎる(?)名前とは裏腹に、竜のような禍々しい姿は、冗談では済まされない脅威を示していた。


「モメントキヌ……」


 最前線に立つチョットツが、その名を反芻し、何かを閃いたように呟いた。


「なるほど、『モメントキヌ=死を忘れるな』……! そういうことか!」


(イコールじゃねえだろ! それはメメントモリだ!)


 京介のツッコミも虚しく、チョットツは勝手に納得した表情で深く頷いている。


「円陣を組め! 後衛を守れ!」


 ギルド『破壊神の信徒』たちは、さすがに手練れのプレイヤー集団。即座に防御陣形を構築し、中央のヒーラーや魔法使いそしてポヌルを守るように壁を作る。そして、その円陣の最前線、まさにキョウを守る盾として、二人のガーディアンが立ちはだかった。

 一人は、古参の頼れるタンク、ガンジョー。

 そしてもう一人は、このギルドに新たな混沌をもたらした男、チョットツ。


(頼むぞ、二人とも……! 特に、そこの猪! 絶対に、絶対に前に出るなよ!)


 京介は、キョウのアバター内部から、祈るような気持ちでチョットツの背中を見つめていた。



「キョウ様! このチョットツ、命に代えてもお守りしますぜ!」


 そのチョットツが、くるりと振り返り、キョウ(の中にいる京介)に向かって、満面の笑みで親指を立て、さらにバチンッ! と力強いウィンクまで飛ばしてきた。


(ウィンクとかしてる場合じゃない! 前を見ろ、前を! 敵は目の前だぞ!)


 京介の脳内に、警報が鳴り響く。この男は、放置しておくと、絶対に何かやらかす。キョウと同じ種類の、制御不能な脳筋だ。今のうちに、何とかして動きを封じなければ。


(そうだ! 尻尾だ! ポヌルの協力は得られないが、簡単な指示なら、あるいは……!)


 京介は、尻尾の先端を器用に動かし、チョットツに向かって「こっちへ来い」と手招きするように、くいっ、くいっ、と動かしてみた。意図としては、「俺の近くへ下がっていろ」というメッセージのつもりだった。

 しかし、その動きを見たチョットツは、京介の意図とは180度違う解釈をした。

 彼は、うんうん、とまるで天啓を得たかのように力強く頷くと、


「承知いたしました! マスターの『我が後に続け!』との合図、しかと受け取りました! このチョットツ、先陣を切ってまいります!」


 そう叫ぶや否や、ガンジョーの「待て! まだ指示は!」という制止を「邪魔だ!」とばかりに振り切り、単身、モメントキヌドラゴンの群れへと突っ込んでいったのだ!


(なんでだよおおおおおおお!! 『こっち来い』が『突撃』になるのかよ!? お前の頭の中はどうなってるんだ!?)


 京介の絶叫も虚しく、チョットツは敵陣の真っ只中に躍り込んだ。そして、一番近くにいたドラゴンの強烈な尻尾薙ぎ払いを、顔面にもろに食らった。


 ゴッシャアアア!


「ぐふっ……! いい!!」


 チョットツは、派手な鼻血を吹き出しながら、数メートル後方に吹き飛ばされた。そして、よろめきながらも立ち上がると、再びキョウの方を向き、血まみれの顔で、なぜか満足げに笑った。


(笑ってる場合か! 死ぬぞ、お前!)


 京介は、パニックになりながら、今度は必死に尻尾を左右にブンブンと振った。これならどうだ! 「待て!」「止まれ!」という、万国共通のジェスチャーのはずだ!

 しかし、その、誰がどう見ても「停止」を意味する尻尾の動きを見たチョットツは、あたかも天啓を得たかのように、カッと目を見開いた。


「……! そうか! そういうことでしたか、マスター!」


 彼は、何かを完全に理解した表情で、深く頷いた。


「マスターは、『止まれ』と言ってるんじゃねえ! 『後ろだ! 後ろを気をつけろ!』と教えてくださっている! 前の敵なんざ雑魚! 本当にヤバいのはマスターの背中! そこをオレに守れと!」


(違う違う違う違う!! 背中は安全だ! 味方しかいない! 危ないのは前! お前の目の前なんだよ!)


 京介の魂の叫びも虚しく、チョットツは、迫りくるモンスターの大群には完全に背を向け、キョウの後方――つまり、円陣の内側――へと猛然と走り込んだ。そして、誰にも攻撃されていない、キョウの背中のすぐ後ろに陣取ると、巨大な盾を構え、「ここから先は一歩も通さん!」と言わんばかりの仁王立ちを始めたのだ。


「何やってるんだ、お前は! そっちは壁だ! 敵は前! 前だ!」


 京介は、もはや意味がないと分かりつつも、必死に尻尾で前方を指し示した。

 その動きを見たチョットツは、うんうん、と満足げに頷き、再び親指をグッと立てて見せた。


「……あ」


 京介の口から、乾いた声が漏れた。


(……この人、ダメだ……。話が、一切、通じない……)


 京介が、チョットツという名の絶望に打ちひしがれた、まさにその時。

 前線で、チョットツが放棄した持ち場を必死に一人で支えていたガンジョーの盾が、ついに限界を迎えた。


「ぐわあああああっ! チョットツ! お前、どこを守っとるんじゃー!!」


 ガンジョーが悲痛な叫びと共に吹き飛ばされ、円陣に致命的な穴が開く。そして、その穴から、待ってましたとばかりにモメントキヌドラゴンの一体が、深紅の炎――おそらく豆乳ベースのブレス攻撃を、陣形の中心部に向かって放った。


「「「ぎゃあああああああああっ!!」」」


 後衛の信徒たちが、悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑う。陣形は完全に崩壊した。



 炎と悲鳴が渦巻く混乱の中、他の前衛たちも次々と押し込まれ、ついにキョウを守る壁はいなくなっていた。

 剥き出しとなった狂戦士の前に、牙を剥くドラゴンの群れ。


(まずい……! チョットツは論外、ガンジョーもやられた! 信徒たちはパニック! このままじゃ全滅、そしてレベルリセットだ……!)


 そして、キョウの暴走が始まる。


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