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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第40話 神の啓示

 ギルド『破壊神の信徒』に、チョットツという名の、キョウと寸分違わぬ「脳筋」という名の爆弾が加わった。

 先師京介せんし きょうすけの胃痛は、もはや慢性的なものから、いつ穿孔せんこうしてもおかしくない末期的な段階へと移行していたが、彼の「最短ログアウト計画」は、そんなことにお構いなしで進めなければならない。


 ポヌルを介した神託(という名の京介の指示)により、一行が次なるレベル上げの舞台として選んだのは、始まりの村からほど近い、鬱蒼とした森の奥にある遺跡だった。

 その名も、【オカラウォール遺跡】。


「……オカラウォール」


 ダンジョンの入り口に刻まれたその名前を見た瞬間、京介は、この先に待ち受けるであろう、運営の悪意(あるいは怠慢)に満ちた展開を予期し、早くも帰りたくなっていた。


(オカラウォール……。まさかとは思うけど、本当に壁がおからで出来てるのか……? 運営の予算削減か? それとも、ただの悪ふざけか? どっちにしろ、耐久性に期待できないことだけは確かだ……!)


「ふむ。オカラウォールとは、なかなかヘルシー志向だニャ。栄養価も高いし、壁材としてもエコだニャ。きっと、壁を殴れば大豆イソフラボンがドロップする仕様に違いないニャ。……まあ、どうせゴミアイテムだろうけどニャ」


「そんなわけあるか!」


 ポヌルのボケに、京介が鋭くツッコミを入れる。

 その背後では、信徒たちが「おお、ここが次なる試練の地か!」と意気込んでいた。そして、その先頭には、誰よりも目を輝かせている男、チョットツがいた。


「ここが、キョウ様と共に戦う、オレの初陣……! 腕が鳴るぜ!」


(頼むから、何も鳴らさないで、静かに盾を構えていてくれ……)


 京介の切実な願いも虚しく、一行は、この世で最も脆そうな名前のダンジョンへと、足を踏み入れた。



 ダンジョン内部は、その名の通り、まるで豆腐の製造過程で出た「おから」を、無理やり固めて作ったかのような、白く、ポロポロと崩れやすい材質の壁で構成されていた。


「こりゃあ、戦闘で下手に範囲魔法を使ったら、ダンジョンごと崩落するんじゃないか……?」


 京介が、構造上の欠陥に冷や汗をかいている、まさにその時だった。

 先頭を歩いていた狂戦士キョウが、ピタリ、と足を止めた。

 そして、おもむろに、目の前の「おからの壁」に向き直ると、


 ゴッ!


 何の前触れもなく、その壁を殴り始めた。


「またかあああああああああ!!」


 京介の絶叫が、アバターの内部で木霊する。もはや見慣れた光景。ダンジョンだろうが、民家だろうが、このアバターのやることは、ただ一つ。「目の前に壊せそうなものがあれば、壊す」。


 (もうやめてくれ! お前が壁殴ってる間にも、僕の貴重な受験勉強の時間が失われてるんだぞ!)


 京介が、頭を抱えて絶望していると、その後方から、一人の男の、歓喜に満ちた声が響き渡った。


「おおおおおおおっ!!」


 声の主は、もちろん、チョットツだ。

 彼は、壁を殴り続けるキョウの姿を、まるで神の奇跡でも見るかのように、恍惚とした表情で見つめていた。


「見たかお前ら! キョウ様が拳で示してる! 『考えるな、この壁をぶち破れ!』ってことだ! オレに続けえええ!」


(違う! あれはただの癖! 何の意図もない、ただの破壊衝動だ!)


 京介が必死に否定するが、その声は誰にも届かない。

 チョットツは、キョウの脳筋行動を、自らの脳筋理論で完璧に(誤)解釈すると、手に持った巨大な盾を、高々と掲げた。


「マスターの御意志は、このオレが継ぐ! うおおおおおおおおおっ!」


「ちょ、待て! お前も殴る気か!?」


 京介の制止も虚しく、チョットツは、その巨体を丸め、キョウが殴っている壁に向かって、猛然と突撃チャージを開始した。


 ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 ドガアアアアアアアン!


 一人は、壁を無心で殴り続け、一人は、その壁に、盾ごとタックルを繰り返す。

 あまりにもカオスで、あまりにも知性のカケラもない、二人の脳筋による共同作業。

 その光景を見て、ポヌルが、心底うんざりしたように呟いた。


「……バカが、一人増えたニャ。しかも、タチの悪いことに、同じ種類のバカだニャ」


(本当にどうしてくれるんだ、これ……)


 京介が、このダンジョンの未来を(物理的な意味で)本気で憂いていると、その背後で、ロジックが、その光景を真剣な眼差しで分析していた。


「……なるほど。マスターの『啓示』は、尻尾言語テイル・ラングエッジだけではなかったのか。マスターの『存在』そのものが神託であり、その『行動(破壊)』を見た者が、自らの役割を悟り、思考すら介さず『実行』する……! これこそが、神と使徒による『奇跡の顕現』! マスターとチョットツ君という、二つの特異点が引き起こした、必然の共鳴……!」


(違う! あれはただの脳筋の共鳴! 思考を介さないんじゃなくて、思考が存在してないだけだ!)


 京介のツッコミも虚しく、二人の脳筋の、無慈悲なまでの同時攻撃によって、「オカラウォール遺跡」の壁は、その名の通り、おからのようにポロポロと崩れ始めた。

 そして、ついに。


 ドガアアアアアアアアン!!!


 壁が、完全に崩落した。



 壁の向こう側には、巨大な空間が広がっていた。

 砂埃が晴れると、その空間の奥に、無数の「何か」が横たわっているのが見えた。


「おお……! やはり、隠し部屋だったか!」


「宝物庫だ! マスターとチョットツ殿のお手柄だ!」


 信徒たちが、色めき立ち、松明たいまつの光で、その空間の先を照らし出した。

 そして、彼らは見た。

 そこに転がっていたのは、宝箱などではなかった。

 無数の、巨大な……それこそ、ティラノブースト級の、恐るべき高レベルモンスターたち。

 彼らは、気持ちよさそうに、その場で「うたた寝」をしていたのだ。


 壁が崩落した、けたたましい物音。

 そして、信徒たちが放った、松明の光。

 それらは、安眠を妨害されたモンスターたちを目覚めさせるには、十分すぎる刺激だった。


「……グルルルルルルル」


 一斉に、何十もの巨大なモンスターが、その血走った目を開き、けたたましい咆哮を上げた。

 その咆哮は、ダンジョン全体を揺るがし、彼らの獲物――京介たち一行が、完全に包囲されているという、絶望的な事実を突きつけていた。


(……だから、壁なんか殴るなって言ったんだ……)


 京介は、もはやツッコむ気力もなく、目の前に広がる、自らが招いた(ことになっている)地獄絵図――数十体の高レベルモンスターによる、絶望的な包囲網――を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。


 次回、壮絶な(一方的な)戦いが、始まる。

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