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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第39話 猪は猪を呼ぶ

 ダンジョン攻略の(意図せぬ)大成功により、レベル20という中堅プレイヤーの領域に足を踏み入れたキョウ。

 彼が凱旋した始まりの村は、もはや村としての機能を停止し、一つの巨大な聖地と化していた。


「我らが神、キョウ様の凱旋だ!」


「樹海ダンジョンをノーダメージでクリアされたぞ!」


「神の指揮ゴッド・タクト、生で拝見できて最高でした!」


 信徒たちの熱狂的な喝采を浴びながら、キョウは、そんな騒ぎなどどこ吹く風と、村の広場で堂々と仁王立ちしている。

 そのアバターの内部で、先師京介せんし きょうすけは、自らの淡い希望を、確かな決意へと変えようとしていた。


(もしかしたら……。この狂ったアバターと、狂った信者たちと、狂った世界のシステム……その全てを利用し尽くせば……。本当に、このクソゲー……クリア、できるかもしれない……)


 京介が、ログアウトへのロードマップを描き始めた、その時。

 熱狂する群衆の外れで、一人、まるで電撃に打たれたかのように硬直し、キョウの姿を熱を帯びた目で見つめている男がいた。



「あ……。あ……。ほ、本物だ……。本物の、キョウ様が……目の前に、いらっしゃられらりるれろ……」


 オレは「チョットツ」。

 職業は、ガーディアンだ。

 ガーディアンっつったら、パーティの盾! 一番前で、誰よりも先に敵に突っ込んで、仲間を守る! それがオレのジャスティスだ!

 なのに、だ。

 オレは、つい2週間前に、所属していた固定パーティから追放された。


「チョットツ君、頼むから突撃しないでくれって言ったよね? ヒーラーの詠唱が終わるまで待ってって」


「君の猪突猛進なプレイスタイルは、我々の戦術を根本から破壊するんだ」


 ……意味が、分からなかった。

 戦術? 詠唱? 敵が目の前にいるのに、なんで待つ必要があるんだ? タンクが前に出なくて、誰が前に出るってんだよ!

 まるで売れないロックバンドの解散理由みてえな、「音楽性の不一致(=お前が突っ込みすぎるから合わせられない)」とかいう、オレには全く理解不能な理由で追放され、途方に暮れていた。盾役とドラムは前に出てナンボだろうが!


 そんな時だった。

 ゲーム内の掲示板で、オレは、運命の出会いを果たした。


『【超絶考察】破壊神キョウの戦術に隠された真意』


 レベル1で魔王城に無限突撃?

 素手で岩を殴り壊して、温泉を掘り当てる?

 ティラノブーストをノーダメージで撃破?

 デコピンだけでモンスターを倒す!?


 ……電撃が走ったぜ。

 これだ。これこそが、オレが心の底から求めていた、本物の「戦い」だ!

 小難しい戦術だの、連携だの、そんなケチなモンじゃねえ。ただ、己の信念と、圧倒的なチカラで、常識そのものをブチ壊していく!

 この人となら! このキョウ様と一緒なら、オレが思い描いていた、真の『猪突猛進ガーディアン・ロード』が実現できる!

 そう思って、オレはキョウ様の「聖地」である、始まりの村で情報を集めようとしていた。そしたら、だ。

 ダンジョン攻略を終えたキョウ様ご本人が、村に凱旋されてきたじゃねえか! なんという奇跡!

 ……そして今、神は、オレの目の前にいる。

 この機を逃したら、次にいつ会えるか分からねえ。

 仲間……いや、信徒に入れてもらうなら、今しかねえ!

 オレは、気がついたら、本能のままに走り出していた。


「キョウ様あああああああああああああっ!!」


 オレは、邪魔な信徒たちを「神の御前に失礼であるぞ!」と、なぎ倒す勢いでかき分けた。盾役のオレにとって、人混みをかき分けるなんざ、序盤の雑魚モンスターを蹴散らすより簡単だ。むしろ得意技だ。

 そして、ついに、神の御前――キョウ様の、その背後数メートルの位置までたどり着いた。

 その時、キョウ様が、ゆっくりと振り返り、短く、しかし威厳に満ちた声を発せられた。


「ウガッ!」


「な、なんという……! なんという、凛々しいお声だ……!」


 オレが、その神々しさに打ち震えた、次の瞬間。

 キョウ様の、丸太のように太い腕が、まるで挨拶でもするかのように自然にしなり、その拳が、オレの頬骨に、めり込むように突き刺さった。


 ゴッ!


「ぐ……おお……! なんという、重く、そして一切の迷いがない拳だ……! これが、数多の伝説を生み出してきた、神の鉄槌……! ああ……痛い! だが、それがいい! この一撃に込められた『覚悟』が、魂に響く……重い……!」


 オレが、神の一撃の余韻に浸っていると、キョウ様の隣にいた、あの偉そうなケットシーが、呆れたように言った。


「『ふむ、なかなか骨のあるヤツだニャ。だが、我が背後を取るとは、少しばかり調子に乗りすぎたのではないかニャ?』と、(たぶんそんな感じで)言っているニャ」


「素晴らしい……!」


 オレは、心の底から感動していた。

 背後に立っただけで、この無慈悲な、条件反射の一撃! まるで、血の修羅場をくぐり抜けてきた、歴戦の殺し屋みてえだ! レベル20になった今も、その野生の本能は、一切衰えていなかったんだ!

 オレ、ますます惚れ込みやした!

 オレは、その場に膝から崩れ落ちると、始まりの村の石畳に、ゴンゴンと額をこすりつけた。


「私を! いえ! このチョットツを! どうか、あなたの仲間……いえ、あなたの『盾』として、お使いください! キョウ様!」



(うわあああああああああっ!? なんか、キョウと全く同じ匂いがする、純度100%のヤバいのが来たあああああ! しかも盾役!? こいつがキョウの前に立ったら、もう誰にも止められないじゃないか!)


 京介は、アバターの内部で、本日最大級の絶叫を上げていた。

 突然、訳の分からない大男が走り寄ってきたかと思えば、キョウの(おそらく無意識の)迎撃パンチを、なぜか恍惚とした表情で受け止め、そのまま土下座を始めたのだ。

 京介が、そのあまりにも濃すぎるキャラクターの登場に戦慄していると、信徒たちをまとめていたロジックが、その男――チョットツに、冷静な視線を送っていた。

 彼は、そのあまりにも純粋すぎる信仰心と、キョウへの異常なまでの傾倒ぶりに、ほんの一瞬、論理では説明できない「不安」のようなものを覚えた。 


(……しかし、待て)


 ロジックの脳が、即座にポジティブな分析を再開する。眼鏡をクイと押し上げ、彼は周囲の信徒にも聞こえるように、確信に満ちた声で言った。


「そうか、マスター! あの男こそが、あなたの『神の聖鞭(ゴッド・ウィップ)』を完成させるための、最後のピース! 誰よりも先に突撃し、敵のヘイトと攻撃を一手に引き受けることで、マスターご自身が安全に『情報収集』を行うための、まさに『生ける伝説の盾リビング・レジェンド・シールド』だというのですね!」


(絶対に違う! あれはただのアホだ! 脳筋に脳筋を掛け合わせたら、もう収拾がつかなくなるだろ! 僕の貴重なレベル上げ計画が、台無しになる! やめてくれええええ!)


 京介の悲痛な叫びも虚しく、ギルド『破壊神の信徒』は、この日、マスターの『究極の盾』という名の、第二の暴走機関車を手に入れてしまった。

 京介の緻密なゲームクリア計画が、早くも根底から覆されようとしていることに気づく者は、まだ彼自身(と読者)しかいなかった。


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