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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第4章 尻尾は友達

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第37話 破壊衝動の壁殴り

 奇跡の跳弾によって不動の鉄巨人が光の粒子と消えた後、広間に響き渡っていた信徒たちの熱狂的な歓声は、まだ鳴り止むことを知らなかった。


「10億ダメージ……! 我が神の拳は、ついに物理法則すら超越された!」


「あのカエルの風呂桶は、神の奇跡を呼ぶ聖遺物だったのだ!」


(違う、あれはただの偶然とバグと運営の怠慢が重なっただけの事故だ……)


 先師京介せんし きょうすけのツッコミも虚しく、信徒たちは感動のあまり、あのプラスチック製の風呂桶を「聖なる湯船」としてギルドハウスに持ち帰ろうと、数人がかりで運び出し始めている。もはや、カオスである。


 そんな狂騒の中、鉄巨人が守っていた(ように見えた)奥の扉が、重い音を立ててゆっくりと開いた。どうやら、あの中ボスを倒したことで、先への道が開かれたらしい。

 一行は、教祖キョウを先頭に(というより、信徒たちが彼を神輿のように担ぎ上げ)、その暗い通路へと足を踏み入れた。



 通路を抜けた先は、今までのダンジョンとは打って変わって、豪華な装飾が施された小部屋だった。そして、その中央には、誰もが「それ」と分かるものが鎮座していた。

 宝箱だ。

 それも、金銀宝石がふんだんに使われた、見るからに「豪華絢爛」な宝箱。


「おお……! ついに宝物庫か!」


「鉄巨人が守っていたお宝だ、きっととんでもないレアアイテムが……!」


 信徒たちが色めき立つ。しかし、京介は、その宝箱を見て、強烈な違和感に襲われていた。

 まず、宝箱の蓋が、ほんの少しだけ、まるで「中を覗いてごらん?」と誘うかのように開いており、そこから金色の鎖(よく見ると安っぽいメッキ)のようなものが、だらしなくはみ出している。

 そして、何よりも決定的なのは、宝箱の蓋に、まるで開発者がテストプレイ中に酔っ払って書いたかのように、震える文字の雑なフォントでこう書かれていたことだった。


【(罠じゃないよ!) 中に 財宝が 入っていますよ。 開けてください(マジで)】


「雑すぎるだろおおおおおおお!!」


 京介の魂のツッコミが、脳内に木霊した。こんなの、共通テストの、明らかに「選んではいけない」と書いてあるようなダミー選択肢より雑だぞ! しかも括弧書きで自己フォローまで入れてる! 逆に怪しすぎるだろ! ひっかけか!? これが噂に聞く「逆張り」のひっかけ問題なのか!? 「絶対に押すな」と書かれた起爆スイッチと同じ匂いがプンプンする!


 その時、一行の中から、天才軍師ロジックが、眼鏡をくいと押し上げながら、冷静に一歩前に出た。


「……待て、諸君。これは、あまりにも露骨すぎる」


 彼は、キョウではなく、宝箱(と、そこに書かれた手書き文字)をじっと睨みつけ、分析を開始した。


「蓋の隙間、安っぽい鎖のはみ出し方、そしてあの幼稚な誘い文句……。全てが『私は罠です』と雄弁に語っている。論理的に考えれば、これが本物の宝箱である確率は限りなくゼロに近い。いや、ゼロだ。これは、九分九厘……いや、十割、宝箱に擬態したモンスター――ミミックに違いない」


 その、あまりにも的確で冷静な分析に、信徒たちが「おお……」と感嘆の声を漏らす。


「さすがはロジック様!」


「我々は、目先の欲に目がくらむところだった……!」


(お……!)


 京介もまた、ロジックのその言葉に、密かに感動していた。


(珍しく、まともなことを言ってるじゃないか! そうだ、その通りだ! これは「誤った選択肢をまず消去法で消す」という、受験のセオリー通りの行動だ! 僕でも、あれが罠だってことくらい分かる!)


 京介が、このギルドにもまだ常識人が残っていた(実際は一番ヤバいヤツ)ことに、ほんの少し安堵した、その瞬間だった。

 狂戦士キョウは、その豪華な宝箱(ミミック疑惑)には一切目もくれず、おもむろに部屋の隅へと歩み寄った。

 そして、そこにある、ただの湿った、何の変哲もない「壁」を。


 ゴッ!


 無言で、殴り始めた。


(壁……? ミミックという『虚像』を無視し、あえて『現実』の壁と向き合う……。これは、目に見えるものだけに囚われるなという、マスターからの無言の『禅』か……!?)


 ロジックが内心で戦慄している間にも、キョウは壁を殴り続けている。


「僕のアバター、ついに壁と会話を始めたんだが!? 誰か! 誰かコイツの奇行を止めてくれええええええ!」


 京介の絶望が、再び頂点に達する。隣を飛んでいたポヌルも、心底呆れ返ったように、やれやれと首を振った。


「あーあ。また壊れたニャ。ダンジョンの壁を殴ってどうするニャ。……いや待てよ、この壁、ちょっとテクスチャがズレてるニャ? ……京介、お主、何とかしろニャ」


(どうにかなるなら、とっくになってるよ!)


 ゴッ! ゴッ!


 キョウは、周囲の困惑など一切意に介さず、ただひたすらに、湿った壁の一点を殴り続ける。

 信徒たちも、さすがにこれには困惑していた。


「マ、マスター……? 壁に何か……?」


 ロジックも、自らの論理体系を超えた行動に、必死で思考を巡らせていた。


(壁……? いや、待て。あの壁の一点だけ、苔の生え方が違う……? まさか!)


 ロジックが何かを閃いたのと、壁が轟音と共に崩れ落ちたのは、ほぼ同時だった。


 ガラガラガラッ!


 壁の奥には、新たな空間が広がっていた。先ほどの部屋よりも遥かに巨大な、本物の「大宝物庫」と呼ぶにふさわしい広間。そして、その中央に、先ほどの豪華な宝箱とは対照的な、質素だが、いかにも「本物」らしい、古びた木製の宝箱が、一つだけポツンと置かれていた。


「こ、これは隠し部屋……!」


「マスターは、あの宝箱が罠であることを見抜き、さらにこの壁の先に『真の宝物庫』があることまで、全てお見通しだったというのか!」


「おお……! さすがは我らが神!」


 信徒たちが、再び熱狂的な賞賛の声を上げる。

 ロジックも、自らの浅はかさを恥じるように、深く頷いた。


「そうか……。これが、本当の宝箱だったか。さすがはマスターだ」


 一行は、キョウを先頭に、その質素な宝箱へと近づいていく。

 そして、キョウは、その「本物」の宝箱の前に立つと、次の瞬間。


 ゴッ!


 あろうことか、その質素な宝箱を、思い切り殴りつけた。


「なんでだよおおおおおおお!!」


 京介は、もはやツッコむ気力も失せかけていた。

 ロジックも信徒たちも、「え?」という顔で硬直している。部屋に、しばしの静寂が訪れた。誰もが、キョウの意図を図りかねていた。


(……いや、待て。これもマスターの深遠な考えがあってのことのはずだ。この質素な宝箱にも、何か我々には見えない『罠』が……?)


 ロジックが必死に新たな可能性を探り始めた、その時。殴られた質素な宝箱が、ギチギチと音を立てて変形を始めた。


「ギシャアアアアアアアアアッ!」


 宝箱から、巨大な目玉と牙が飛び出し、それもまたミミックであったことが判明した。


「こっちもミミックだったか!」


 ロジックが、驚愕の声を上げる。


「両方罠だったとは!」

「マスターはそれすらお見通しで!?」


 信徒たちが、慌ててミミック(質素)との戦闘を開始する。

 しかし、キョウは、そんな彼らの戦闘には一切興味を示さなかった。

 彼は、信徒たちが戦っているのを尻目に、その場を離れると、再び、最初の部屋へと戻っていく。

 そして、あの、誰がどう見ても罠で、手書きの文字まで書かれていた、「豪華な宝箱」の前に、再び仁王立ちした。

 そして。


 ゴッ!


 殴り始めた。


(やめろ! それ絶対ミミックだろ! 今度は周りに仲間はいないぞ! タンクもヒーラーもいないんだぞ! またレベル1に戻る! 食われて死ぬぞ!)


 京介が、本日何度目かの絶望的な叫びを上げた、その時。


 パカッ。


(……死んだあああああ!!!)


 豪華な宝箱は、あっさりと、その蓋を開いた。

 中には、まばゆいばかりの財宝と、強力なレア装備がぎっしりと詰まっていた。

 ……本物だった。



「罠だと見せかけて、本物だったのかよ! しかも、隠し部屋の、どう見ても本物っぽい方が、ミミックだったのかよ! なんだこの二重ひっかけ問題は! こんなの入試に出したら炎上するぞ! 性格が悪すぎるだろ、このダンジョンの設計者バイト!」


 ちょうどその時、ミミック(質素)を倒し終えた信徒たちが、慌ててキョウの元へと駆け寄ってきた。

 そして、彼らは、全ての真実を理解した(と、勘違いした)。


「ま、まさか……!」


「最初の宝箱こそが、本物だったというのか……!」


「我々は……我々は、目先の欲に囚われ、『いかにも怪しい宝箱』を罠だと決めつけ、さらに『いかにも本物らしい宝箱』に飛びついてしまった……!」


 一人の信徒が、その場に崩れ落ち、涙ながらに叫んだ。


「マスターは、全てお見通しだったのだ! あの怪しい宝箱(本物)をあえて無視し、壁を破壊して隠し部屋(罠)へと我々を導き、そして、いかにも本物らしい宝箱(罠)を殴り壊すことで、『見かけに騙されるな』という教訓を、その身をもって示されたのだ! そして最後に、最初の宝箱(本物)を開けることで、『疑う心と信じる心のバランスこそが重要である』と、我々に無言で語りかけておられる……! おお……! なんという深遠なる人生哲学! 我々は、ただのゲーム攻略ではなく、生き方そのものを学んでいるのだ!」


 信徒たちは、自らの浅はかさを恥じ、神の、あまりにも深すぎる知恵に、ただただ感涙するばかりであった。


(違う! 深遠なお考えでも何でもない! コイツのはただの無差別な破壊行動バイオレンスなんだよおおおおお!)

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