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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第1幕 京介の絶望と周囲の勘違い

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第16話 無言の教え

「勉強になりました、マスター!」


 森の中、天才軍師ロジックは、狂戦士キョウが走り去った方角に向かって、深々と頭を下げていた。三度にわたる弟子入り志願を無視されたにもかかわらず、彼の心は不思議な達成感と、師への尽きせぬ尊敬の念で満たされていた。言葉に頼らず、行動で弟子を導く。それがマスター・キョウの流儀なのだと、彼は完全に理解(誤解)していた。

 ロジックが頭を上げた、まさにその時だった。

 カツン、という乾いた音と共に、彼の足元に手のひらほどの大きさの石が転がってきた。見れば、キョウが走り去った道筋から飛んできたもののようだ。おそらく、彼が走る際に蹴飛ばした小石だろう。


(マスターの蹴り上げた石……? これも何かのメッセージか?)


 ロジックが訝しんだ瞬間、その石は彼の足元で小さく跳ねると、近くの苔むした大木に、コトリ、と軽くぶつかった。

 すると、信じられないことが起こった。

 ゴゴゴゴゴ……と、重い音を立てて、その大木の根元がスライドし、暗い洞窟への入り口が姿を現したのだ。


「こ、これは……隠し通路!」


 ロジックは息を呑んだ。ただの偶然か? いや、あり得ない。あのマスター・キョウの行動に、無意味なものなど一つもないのだ。


(そうか! これもマスターが無言で私に与えたもうた、新たな『問い』なのだ! 『お前は、この道を進む覚悟があるか』と……! なんと心憎い論理的な演出だ……! ええ、お答えしましょう。このロジック、どこまでもお供します!)


 ロジックの勘違いは、もはや光速を超えて加速していた。彼は、師の深遠な計らいに打ち震えながら、覚悟を決めてその暗い通路へと足を踏み入れた。



 通路の中は、不気味なモンスターたちの巣窟となっていた。巨大な蝙蝠こうもり、毒を持つ粘菌スライム、硬い甲羅を持つむし。次から次へと襲いかかってくる敵を、ロジックは冷静な分析と的確な魔法で次々と撃破していく。

 戦いながら、彼はあることに気づいていた。


(絶妙な強さだ……)


 出現するモンスターは、決して弱くはない。だが、今のロジックの実力で、ギリギリ倒せるか倒せないか、という絶妙なレベルに調整されていたのだ。まるで、彼のステータスとスキルを完璧に把握した上で、最適な成長を促すために配置されたかのようだった。


(さすがだ、マスター……。私の戦闘データを瞬時に分析し、この私専用の育成シミュレーターをご用意くださるとは……! あなたの論理的なその慧眼けいがん、もはや神の領域だ!)


 激闘の末、ロジックはこの試練を乗り越えることで、自身のレベルが5も上昇していることに気づいた。彼の師への尊敬は、もはや信仰の域に達しようとしていた。



 薄暗い通路を抜けた先は、見覚えのある場所だった。天を突く魔王城の門前。そして、彼の視線の先では、ちょうどキョウが門番のミノタウルスと対峙するところだった。


(間に合ったか……! レベルを上げたこの目で、マスターの戦いを観測し、その真髄を論理的に学ぶのだ!)


 ロジックが息を殺して見守る中、キョウは天に向かって咆哮した。


「ウガァァァァァァァァッ!!」


 すかさず、隣に控えていた妖精猫ポヌルが、ロジックにも聞こえるよう、大声で「翻訳」する。


「『我が無言の問いに、よくぞ応えた、我が弟子ロジックよ! 新たなる力を得たその目で、我がこれから示す『奇跡』の、生き証人となるがいい!』……と、言っているニャ!」


 その言葉に、ロジックは武者震いした。

 しかし、次のキョウの行動は、彼の予想を遥かに超えるものだった。キョウは、ミノタウルスには目もくれず、その傍らに突き立てられた巨大な戦斧へと走り寄ったのだ。そして、あろうことか、その巨大な斧を、自らの手で持ち上げようと試みたのである。


【装備レベルに達していません】

【装備不可】


 キョウの視界(そして京介の視界)に、無慈悲なシステムメッセージが連続で表示される。


(無理に決まってるだろ! レベル1でそんなもん持てるわけないだろ!)


 京介が内心で絶叫する。ロジックもまた、驚愕に目を見開いていた。


「無茶だ! あんな巨大な斧、論理的に考えてレベル1の腕力で持ち上げられるはずが……!」


 しかし、彼はすぐに自らの浅はかな考えを改めた。


「い、いや……。マスターなら、あるいは……」


 ミノタウルスも、自分の武器を持ち上げようとする小さな虫けらを、まるで「できるもんならやってみろ」とでも言いたげな、呆れた目で見下ろしている。

 キョウは、斧の柄に両手をかけると、全身全霊の力を込めて、再び咆哮した。


「ウガァァァァァァァァッ!!!!」


 ポヌルの、神がかったタイミングの同時通訳が響き渡る。


「『持ち上げられるか、ではない! 俺は、持ち上げるんだッ!』……と、その魂が叫んでおりますニャ!」


 その瞬間、ロジックの目には、信じられない光景が映っていた。キョウの力に呼応するように、巨大な戦斧が、ほんの少し、本当にミクロン単位で、地面から浮き上がったように見えたのだ。

もちろん、京介の視界ではビクともしていないし、物理法則的にも動くはずがない。


「ま、まさか……! レベル1のステータスで、システムの装備制限すら覆し、あの斧を本当に持ち上げるとは……! これが、これが『破壊神』……!」


 ロジックが驚愕と感動に打ち震えた、その時。

 自分のオモチャに飽きたミノタウルスの、巨大な拳が、無慈悲にキョウの頭上へ振り下ろされた。

 ゴシャッ!


【GAME OVER】


 あまりにも呆気ない結末。白い光に包まれながら、京介は叫んだ。


(だから無理だって言っただろおおおおおお!!)


 一方、ロジックは、その場に崩れ落ちるように膝をついていた。彼の頬を、一筋の熱い涙が伝う。


「……見事でした、マスター。あなたは、常識やシステムという名の壁を、ただ己の意志の力だけで打ち破れるのだと、その身をもって私に教えてくださった……!」


 彼は、固く拳を握りしめ、天を仰いだ。


「この感動……この福音を、私一人の胸に留めておくことは罪だ! マスター・キョウという『真理』を、この世界の全ての迷えるプレイヤーに、私が伝えなくては!」


 こうして、狂戦士の最も熱心な布教者が、ここに爆誕した。

 もちろん、その布教活動が、さらなる壮大な勘違いを生み出していくことを、まだ誰も知らなかった。


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