第139話 最後の一撃の行方
漆黒の炎に包まれた魔剣を構える魔王と、何かを握りしめたキョウ。
対峙する両者が、同時に大地を蹴り、とどめの一撃を放った!
「これで終わりだ! ウガ夫!!!!」
(これでお仕舞いだ、魔王!!)
「ウガアァァァァァッ!!!」
漆黒の炎に包まれた魔王の剣が、キョウに当たるコンマ1秒前。
キョウの腕が鞭のようにしなり、謎の武器が魔王の顔面に叩き込まれた!
スッパアアアアアアアアアアンンンン!!!!!
なんとも締まらない、しかし小気味のよい乾いた破裂音が、玉座前の広間に響き渡った。
それは、キョウが手にしていたハリセンの音だった。
リアリーの付与魔法により、ビチャビチャになって千切れ飛んでいったはずの、あの紙束。
そのハリセンは、魔王が纏っていた漆黒の炎により、瞬時に湿気を奪われて乾燥し、鋼のような硬度を取り戻して復活していたのだった。
魔王が恨み節を呟きながら、光の粒子へと変わって行く。
「グワアァァァァァァッッッッ!!! ウガ夫ぉぉぉ!!! オレだってモテたかったのにぃぃぃ……」
(お前の敗因は、その付与魔法だ! モテないことに癇癪を起こして、炎でハリセンを乾燥させてしまったのが運の尽きだ! もしキョウが素手だったら、先に倒れてたのは僕だったんだ! やったぞぉぉぉぉ!!! これで、これでやっとログアウトできる!)
京介の安堵の言葉を、ポヌルがすかさず信徒達に聞こえるように「翻訳」した。
「マスターは、『愚かなり魔王よ! 貴様が放ったその炎こそが、我が武器に残った湿気を飛ばし、最強の硬度を与える“焼き入れ”となったのだ! 敵の力すら利用する、これぞ我が計算通り!』と申しておりますニャ!」
「「「「おぉ!!! マスター!!」」」」
「素晴らしい戦いでした!」
「敵の炎属性を、紙の乾燥プロセスに利用するとは!? 物理化学を極めた究極の戦術だ!!」
「感動しました!!」
ポヌルの言葉で信徒達が湧き立つ中、魔王の姿が完全に消滅した。
ロジックが、羊皮紙が破れんばかりの勢いでなにかを書き始めた。
「うおぉぉ!! マスターのこの奇跡的な論理的勝利を世界に知らせなければ!! 今すぐ、『破壊神の進撃録 全60巻』を編纂してみせますよ!!」
(やめろ! 60巻は多過ぎる! ある事ない事書くつもりだろ!)
ヒメが駆け寄って来て、キョウに抱きつく。喜びに満ちた彼女の瞳は潤んでいた。
「キョウさぁん! ありがとうございます! これで私もログアウトできますね! 助かりましたぁ!!!」
(か、かわいぃぃぃ!!! やっぱり僕には君しかいない! ラブリーごめん!)
京介が色々と勘違いしていたとき、ポヌルがパンッと前足を叩いた。
「よし! バグチェック終了だニャ! これにて全工程完了、バグも運営に報告済みだニャ!」
(え? ポヌル、何言ってるんだ!?)
ポヌルが、キョトンとした顔で首を捻る。
「あれ? おぬしに言ってなかったっけニャ? キョウは、開発段階のバグチェック用フルオートプレイNPCだニャ。バグを洗い出すために、普通のプレイヤーが取らないような予測不能な行動をするように設計されてるのニャ。 前に戦った狂戦士も同じNPCなのニャ」
(そんなの初めて聞いたんだけど!?)
ポヌルがキョウの肩に、ポスッと前足を置いた。
「そうだったっけニャ? まぁどうでもいいニャ」
(どうでも良くないだろぉ!! じゃあなんで僕がキョウの中に入ってるんだよ!?)
「それは……まぁ、おぬしの名前が……ニャ?」
(待て待て! それじゃあ、僕の名前が、先師京介……略して『戦士キョウ』だから、この『狂戦士キョウ』のアバターに選ばれて閉じ込められたって事かよ!? そんなダジャレみたいな理由で!? もしかしてヒメちゃんも!?)
「まぁ、平たく言えばそういうことなのニャ。ヒメも『守野姫』だから囚われの姫役に選ばれたのニャ」
(つくづくクソゲーじゃねぇかぁぁぁぁ!!!)
京介が絶叫していると、玉座のあたりから轟音が鳴りはじめた。
ゴゴゴゴゴゴゴオォォォォォンンンン!!!
キョウと信徒達が一斉に玉座の方を向く。
玉座が上にせり上がり、通路のようなものが姿を現し始めた。
(なんだ? 魔王城から脱出する抜け道でも現れるのか?)
「吾輩にも分からないのニャ。なんでエンドロールが出ないのニャ?」
(え? お前にも分からないのかよ?)
皆が固唾を呑んで見守るなか、天井からどこかで聞いたような軽快な音楽が聞こえだした。
チャラチャチャッチャッチャッチャァァァ♬
通路の奥から、リズムに合わせてこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。




