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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第1幕 京介の絶望と周囲の勘違い

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第11話 考察勢、爆誕す

 自らのインゲーム・ハウスの書斎で、天才軍師ロジックは羽ペンを走らせていた。彼の目の前には、先日観測した「破壊神キョウ」の行動ログが、緻密なデータと共にリストアップされている。常人ならばただの無謀な自殺行為としか思えないその記録から、ロジックは常人(正常な人)には至れない「真理」を導き出していた。


「……なるほど、そういうことか」


 ロジックは、完成した分析レポートを満足げに眺め、一人頷いた。


「ミノタウルスという巨大な壁に対し、彼は正面からの戦闘を意図的に放棄している。彼の目的は『勝利』ではなく、『完全な情報収集』。死に戻りを前提とすることで、リスクを最小限に抑えながらボスの行動パターンを完璧に解析する、極めて高度な論理的戦略だ」


 彼の瞳は、もはや狂信者のそれだった。


「その論理的戦略を最適化するには、デスペナルティによる損失が最も少ない状態、つまりアイテムや所持金がほぼゼロの初期状態、すなわち『レベル1』で実行するのが論理的な最適解。しかし、それは同時に、一切のミスが許されない超絶的なプレイヤースキルを要求される。キョウ……君は一体何者なのだ? このゲームの仕様を、開発者すら想定しないレベルで論理的にしゃぶり尽くそうとしている……。まさか、ライバル企業の開発チームが送り込んだ、特殊任務を帯びた斥候スカウトだというのか……?」


 壮大すぎる勘違いは、もはや彼の頭の中では揺るぎない「事実」となっていた。ロジックは、この驚くべき発見を世に問うべく、公式フォーラムの掲示板を開いた。彼の指が、新たな伝説のページをめくる。


 ◇


【件名:【超絶考察】破壊神キョウの戦術に隠された真意】


1:天才軍師ロジック

 諸君、心して聞きたまえ。私はついに『破壊神』の行動原理を論理的に解明した。我々が『戦闘』と認識している行為は、彼にとっては『学習』のフェーズに過ぎない。彼はレベル1という最小コストの状態を維持し、意図的に『死』を繰り返すことで、敵のAIルーチンを完全にマッピングしているのだ。これは、ボス攻略における新たな聖書バイブルとなるだろう。


2:名無しの剣士

 ≫1 ロジックさんじゃないか! マジかよ……死に戻り前提のデータ収集……?


3:名無しの魔法使い

 レベル1でミノタウルスに挑むとか、正気の沙汰じゃないと思ってたが、そういうことだったのか……。俺たちとは見てる次元が違うんだな。


4:始まりの村民A

 そういや、キョウが掘り当てた温泉って、ユニーク級のレアクエストだったらしいぞ。村長が言ってた。


5:名無しの斥候

 ≫4 マジかよ。あんなの、普通にプレイしてたら絶対に見つけられないだろ……。岩を素手で殴り壊すとか、発想がヤバい。


6:名無しの商人

 トッププレイヤーのサブアカウントって説が濃厚だな。じゃないと説明がつかん。


7:通りすがりの斧使い

 そういえば、あのキョウって奴、始まりの村の民家で、片っ端から壺を割りまくってるらしいぞ?


8:名無しの弓兵

 ≫7 壺? 壺なんて、ほとんどゴミアイテムしか出ないだろ。時間効率悪すぎないか?


9:始まりの村民B

 この間、例のおばあさんの家に入ってみたら、ガチで全ての壺が割られてて、もぬけの殻だったぞ。なんか、おばあさんが遠い目をしてた。


10:心優しきヒーラー

 あのおばあさんって、壺を割ろうとすると、泣きながら止めてくるから良心が痛んで、俺は割れなかったんだけど……。


11:名無しの剣士

 ≫10 キョウは、その悲痛な叫びを乗り越えてまで、全ての壺を意味もなく割り続けてるってことか……?


12:天才軍師ロジック

 ≫11 短絡的だな。彼の論理的な行動に無意味なものなど一つもない。おそらく、それはサーバー全体に影響を及ぼす『環境パラメータ』への論理的干渉だろう。特定のNPCの好感度を意図的に下げることでしか解放されない隠しルート……あるいは、村の『治安』数値を下げることで、特殊なレイドボスを出現させるためのトリガー……。我々にはまだ見えていない、さらに深い世界がそこにはある。


13:名無しの斥候

 な、なるほど……。深い……。


14:猪突猛進の戦士

 よし! 俺も破壊神に倣って、素手で岩に挑んでみるぜ!


15:猪突猛進の戦士

 ≫14 やめとけ。さっきやってみたけど、自分のHPが削れて死んだだけだったわ。何も出てこねえ。


16:名無しの魔法使い

 やはり、選ばれた人間にしかできない芸当なのか……。『破壊神』……その名、伊達じゃないな。


 スレッドは、キョウを目撃した者、噂を聞いた者たちを巻き込み、壮絶な勘違いを燃料にして、どこまでも燃え上がっていった。


 ◇


 もちろん、そんなネット上の狂騒を知る由もない先師京介は、今この瞬間も、現実の地獄を生きていた。


 場所は、始まりの村のおばあさんの家。もはや彼の第二の実家と言っても過言ではない、デスペナルティ後のリスタート地点である。


 パリーン!


 キョウが、本日13個目となる壺を、無慈悲な拳で粉砕する。


「ウガァァァァァァッ!!」


 いつも通りの、意味のない雄叫び。しかし、その声を聞きつけたポヌルが、待ってましたとばかりに大げさな翻訳を始めた。


「『見よ! 富とは、一箇所に留まることで淀み、経済は停滞する! この破壊という名の再分配の先にこそ、真の繁栄は生まれるのだ!』……と、このゲームの静的な経済システムに対する、アンチテーゼを唱えておりますニャ!」


 家の外では、噂を聞きつけて集まったプレイヤーたちが、固唾を飲んでその光景を覗き見ていた。そして、ポヌルの高尚な(ように聞こえる)通訳に、深く感心したように頷いている。


「なるほど……。彼の壺割りは、この世界の経済システムに対するアンチテーゼだったのか……」


「深い……。あまりにも深遠すぎる……」


 そのあまりにもシュールな光景を、アバターの内部から強制的に見せつけられている京介は、もはや涙目だった。


(経済へのアンチテーゼじゃなくて、ただの器物損壊です! お願いだから、ただの迷惑行為を、そんな高尚なものとして分析しないでくれえええええええええ!)


 彼の魂の叫びは、もちろん誰にも届かない。


 こうして、「破壊神キョウ」の伝説は、本人の意図とは全く無関係な場所で、熱狂的な考察勢を生み出しながら、さらに加速していくのだった。

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