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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第1幕 京介の絶望と周囲の勘違い

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第10話 新たなボスの攻略法(?)

「それではお手並み拝見と行こう」


 天才軍師ロジックの静かな宣言と共に、狂戦士キョウの、もはや恒例行事となったミノタウロスへの特攻が始まった。その後ろでは、腕を組んだロジックが、分析するように鋭い視線を戦場に注いでいる。


(ああ、もうやだ……。公開処刑じゃないか、これ……)


 先師京介せんし きょうすけの精神は、羞恥と絶望で飽和状態にあった。自分の意図しない行動を、赤の他人に、それも「天才軍師」などという大層な二つ名を持つプレイヤーに、一挙手一投足観察される。それは、テスト中に珍回答を連発している答案用紙を、クラス全員に回覧されるような屈辱だった。

 キョウは一直線にミノタウロスの足元へと歩み寄る。しかし、迎え撃つミノタウルスの様子が、いつもと少し違っていた。度重なるレベル1の挑戦者(?)の来訪に、さすがの門番も飽き飽きしているらしい。その血のように赤い瞳には、もはや敵意はなく、退屈と面倒くさそうな色が浮かんでいた。巨大な体で、ふぁあ、と大きなあくびまでしている。

 キョウが渾身の拳をスネに叩き込む。だが、ミノタウルスはキョウの拳を、巨大な人差し指一本で、まるで蝶々でも止めるかのように優しく受け止めた。


「ほう……」


 その光景を見て、後ろで観戦していたロジックが、感心したように息を漏らした。


「……なんだと? ミノタウルスの質量を乗せた一撃を、最小限の接触で……攻撃の運動エネルギーを完全にゼロ化したというのか。達人……いや、もはや『武神』の所業だ」


(違う! ただ遊ばれてるだけだ! 完全にナメられてるだけなんだよ!)


 京介の心の叫びも虚しく、ミノタウルスはキョウを弄び始めた。キョウのパンチをひらりひらりとかわし、時には手のひらの上で転がしてみたり、巨大な腕を滑り台のようにして滑らせてみたり。どう見ても、巨大な牛の化け物が、米粒ほどのオモチャで遊んでいるとしか思えない光景だった。

 しかし、天才軍師の目には、その光景が全く別のものとして映っていた。


「ご、互角だと!?……いや違う! これは互角などという次元ではない! 相手の攻撃を全て誘い出し、その上で完璧に対応することで、敵の戦意そのものを削いでいる! もはや赤子の手をひねるが如く、完全に戦場を支配している! これが『破壊神』の実力か……!」


(どこをどう見たら互角なんだ!? あんたのその銀縁眼鏡は伊達なのか!?)


 京介のツッコミは、もはや悲鳴に近い。

 ミノタウルスは、いよいよ遊びに飽きてきたのか、キョウをつまみ上げると、自らの腕の上に乗せた。そして、その腕をまるで道のように、自身の頭部へと繋げた。

 キョウは、もちろんその挑発(?)に乗った。彼はミノタウルスの剛毛に覆われた腕を駆け上がり、一直線にその巨大な顔面へと突進していく。

 その常軌を逸した光景に、ロジックは興奮を隠せない様子だった。


「敵の身体そのものを、自身の攻撃ルートとして利用しただと!? 巨体を持つ敵との高低差という『不利』を、敵自身に埋めさせることで『有利』へと強制的に変換する……! なんという常識外の発想……! これが彼の戦術……!」


 ついにミノタウルスの額にたどり着いたキョウは、そこを絶好の攻撃ポイントと定めたのか、無意味な拳を何度も何度も叩きつけ始めた。


「ウガァァァァァァァァッ!!」


 渾身の雄叫びが、魔王城の門前に響き渡る。すかさず、戦況を見守っていたポヌルが、ロジックにも聞こえるよう、大声で「翻訳」を開始した。


「『見つけたぞ、貴様の弱点! その巨大な体の全てを司る、中枢神経核は、その眉間にある!』と看破しておりますニャ!」


「弱点を的確に見抜いたというのか! 実に論理的だ!」


 ロジックの目が、眼鏡の奥でカッと見開かれる。彼はもはや、キョウの一挙手一投足が、神の啓示にすら見えていた。

 しかし、神の時間は、唐突に終わりを告げる。

 額で虫が暴れているかのような鬱陶しさに、ついにミノタウルスの堪忍袋の緒が切れた。


「……ッ!」


 ミノタウルスは、巨大な手のひらで、自らの額を――そこにいるキョウごと、まるで鬱陶しい蚊を叩き潰すかのように、躊躇なく一閃した。


 パァン!


 乾いた音と共に、キョウの体は紙切れのように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。そして、起き上がる間もなく、ミノタウルスは今まで地面に突き立てていた巨大な戦斧バトルアックスを、ゆっくりと、しかし無悲に振り上げた。


(ああ……終わった……)


 京介が目を閉じた瞬間、轟音と共にキョウの視界は光に包まれた。


【GAME OVER】


 あまりにも呆気ない、いつもの結末。

 一瞬の静寂の後、京介の意識が始まりの村へと転送される、その直前。彼は聞いてしまった。

 背後で静かに戦況を見つめていた天才軍師が、震える声で、真理を発見したかのように呟くのを。


「そうか……! 理解したぞ! あれは囮! 自らのレベル1の身体を『死』というリスクすら厭わぬ究極の餌として、あのミノタウルスの攻撃パターン、AIの思考ルーチンを完璧に読み切るための、捨て身の論理的データ収集だったのだ!」


 ロジックは、まるで天啓を得た預言者のように、興奮に体を震わせながら続けた。


「我々凡人が装備とレベルという物質的なアドバンテージで戦う中、彼は死ぬことすら計算に入れた、究極の論理的情報戦を仕掛けているのだ! これが……これが『破壊神』の本当の戦術か!」


 その壮大すぎる勘違いを耳にしながら、京介の意識は遠のいていく。

 最後に彼の口から絞り出されたのは、もはや誰にも届かない、魂からの絶叫だった。


「その究極の情報戦、ただの事故なんですけどおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 そして、このあまりにも壮大な勘違いから生まれた「究極の情報戦」という仮説は、さらに詳しく分析されていくことになるのであった。

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