表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第8章 魔王城攻略のリスタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/106

第103話 竜と最強の週刊誌

 ドスッ!!


 鈍く、しかし確かな手応えが、先師京介せんし きょうすけの操作する尻尾を通して伝わってきた。

 狂戦士キョウが振り下ろした巨大な戦斧バトルアックスの刃は、京介の絶妙な軌道修正により、装甲竜アーマード・ドラゴンの鉄壁のうろこと鱗の隙間に、見事に吸い込まれたのだ。


(入ったぞ! やっぱりここが急所だ!)


 京介が、勝利への活路を見出した、その時。

 刃を突き立てられたはずの装甲竜は、痛がる素振りすら見せず、キョウの方を向いて「グル?」と、不思議そうに小首を傾げた。

 まるで、「背中、かゆいんだけど?」とでも言いたげな反応だ。


(……は? 効いてない?)


 京介が困惑していると、天井のスピーカーから、あの甲高い勝ち誇った声が響き渡った。


『ウワハハハハ!! かかったな、この脳筋どもめ!』


 自称・知将、チョウ・メードだ。


『鱗の隙間を狙うことなど、この知将が想定していないはずがないだろう! そこは、あえて隙間を作っておいた「誘い受け」のポイントなのだよ! バーカバーカ!』


あおり文句がいちいち小学生レベルなんだよ! でも、確かに刺さった手応えはあったぞ!)


 京介の疑問に答えるかのように、キョウが「ウガッ?」と不満げな声を上げながら、突き刺さった戦斧を引き抜いた。


 ズルリ……。


 斧の刃先には、何かが突き刺さっていた。

 分厚く、再生紙特有のざらついた質感。

 表紙には、元気な少年のイラストと、派手な煽り文句。


『週刊少年ノウキン 合併特大号(付録付き)』


(少年誌じゃねーかあああああああああああああっ!!!!)


 京介の絶叫が、ダンジョンに木霊こだまする。※しません


(なんでドラゴンの鱗の下に、分厚い少年漫画雑誌が仕込んであるんだよ! しかも合併特大号!? 一番分厚いやつじゃないか! 生活の知恵か! 腹巻き代わりにしてるおっさんかよ!)


 京介が、この世界のあまりの不条理さに目眩めまいを覚えていると、少し離れた場所から、香ばしい匂いが漂ってきた。

 見れば、ポヌルが、装甲竜が先ほど吐いたブレスで焼け焦げた地面の残り火を利用し、器用にスルメをあぶっていた。


「……仕方ないニャ。そういう仕様だと思って諦めるのニャ。分厚い雑誌は、時に電話帳よりも硬い最強の盾になるのニャ。常識だニャ」


(どこの常識だよ! ていうか、お前はなんでそんな状況で晩酌の準備を始めてるんだ!)


 ポヌルがスルメをかじり出した一方で、我らが狂戦士キョウは、もちろん、こんな小細工で止まるはずがなかった。

 彼は、刃先に刺さった雑誌を「邪魔だ」とばかりに振り払うと、


「ウガァァァッ!」


 と、「読ませろ!」ではなく、「次は雑誌ごと叩き斬る!」と言わんばかりに、再び大きく息を吸い込んだ。


 第2ラウンドの開始だ。

 京介も、覚悟を決める。


(雑誌だろうが何だろうが、物理で突破するしかない! 行くぞ!)


 キョウが踏み出そうとした、その瞬間。


 カァーーーーーーーンッ!!


 場違いなほどに澄み渡った、甲高い金属音が、再び鳴り響いた。

 お約束のように、キョウも、装甲竜も、そして京介も、ビクッとして音の鳴る方を振り返る。

 そこには、ゴングの前でハンマーを構え、汗だくになったマスター護衛隊長、チョットツの姿があった。


「マスター! 第1ラウンド終了ですぜ! 一旦、赤コーナーに戻って水分補給を!」


(そんなシステムあるかああああああっ!!!)


 京介のツッコミが炸裂する。

 だが、悲しいことに、キョウのAIには「ゴングが鳴ったら一旦止まる」という、謎のスポーツマンシップ(あるいはバグ)が組み込まれていたらしい。

 キョウは、振り上げた斧を、素直に下ろしてしまった。


(馬鹿! 気を抜くな! 相手はモンスターだぞ!)


 京介の危惧は的中する。

 装甲竜は、ゴングの音など意に介さず、キョウが動きを止めたその隙を見逃さなかった。

 その巨大な口が、ガバリと開かれる。

 喉の奥で、赤黒い炎が渦を巻く。


「グルルルルル…………ッ!」


 至近距離からのブレス。

 キョウは、棒立ちのままで地面を見つめている。


(まずい! 間に合わない!)


 京介が、迫りくる死の熱波に目をつむりかけた、その時。


 ヒュンッ!


 どこからともなく、一本の矢が飛んできて、装甲竜の鼻先に当たった。


 カンッ。


 あまりにも軽い、乾いた音。

 ダメージはゼロ。しかし、その小さな衝撃は、ブレスを吐こうとしていた装甲竜の注意を逸らすには十分だった。

 装甲竜が、鬱陶うっとうしそうに、矢が飛んできた方向を見る。

 そこには、震える手で弓を構えた少女――ヒメが立っていた。


「キ、キョウさん! 今のうちに!」


 彼女は、涙目になりながらも、必死に弓を引き絞り、次々と矢を放った。


「えいっ! えいっ! えいっ!」


 ヒュン、ヒュン、ヒュン。


 放たれた矢は、吸い込まれるように装甲竜に命中するが――。


 カンッ。 カンッ。 カンッ。


 その全てが、鋼鉄の鱗に弾かれ、虚しく地面に転がっていく。

 レベル1の初期装備の弓では、装甲竜に傷一つつけることなど不可能だ。


(もういい! やめるんだヒメちゃん! 気持ちは嬉しいけど、それ以上やると……!)


 京介の脳裏に、最悪の予想が走る。

 MMORPGの鉄則。

 前衛キョウが攻撃の手を止め、後衛ヒメが攻撃を続ければ、敵の敵対心ヘイトは、当然そちらに向く。


「えいっ! 当たれぇ!」

 カンッ。


 最後の一矢が、装甲竜の眉間に当たり、ポトリと落ちた。

 その瞬間。

 装甲竜の、爬虫類特有の縦に割れた瞳孔が、キョウから外れ、完全にヒメを捉えた。


「グルァァァァァァァァァッ!!!」


 怒りの咆哮。

 ターゲット変更。

 装甲竜は、キョウに背を向け、無防備な少女に向かって、その巨体を躍らせた。


「ひっ……!?」


 ヒメが、腰を抜かしてその場にへたり込む。


(しまった! ヘイトが向いた!)


 本当の第2ラウンドは、最悪の形で幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ