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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第8章 魔王城攻略のリスタート

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第102話 相性

 我らが狂戦士キョウに、「相性」などという高等な概念は存在しない。

 彼は、身の丈以上の巨大なミノタウロスの戦斧バトルアックスを軽々と担ぎながら、散歩にでも行くような気楽さで、ボスに向かって歩き出した。


(……ああ、やっぱり行くのね。知ってたよ)


 アバターの内部で、先師京介せんし きょうすけは、諦めと共に腹をくくった。

 止めても無駄だ。この暴走機関車は、壁にぶつかっても、ぶち破るまで止まらないのだ。


(こうなったら、もうやるしかない! 物理が無効なら、物理で貫通するまで殴るだけだ!)


 京介がヤケクソ気味な覚悟を決めた、その時。

 装甲竜が、近づいてくる小さな影を見下ろし、鼻を鳴らした。


「グル……?」


 その目は、明らかにキョウをあなどっていた。「なんだお前? やんのかコラ?」とでも言いたげだ。

 キョウが、装甲竜の鼻先、射程圏内へと足を踏み入れた。

 その刹那せつな

 二体の怪物が、同時に威嚇いかく咆哮ほうこうを上げた。


「グルァァァッ!!!」

「ウガァァァァァッ!!!」


 空気がビリビリと震える。

 開戦の合図だ。

 誰もがそう思った、その瞬間だった。


 カァーーーーンッ!!


 場違いなほど澄み渡った、甲高い金属音が、ダンジョン全体に響き渡った。


「「「!?」」」


 装甲竜も、キョウも、そして京介も、全員がビクッとして音の鳴る方を振り返る。

 そこには。

 どこから持ってきたのか、プロレス会場にあるような立派なゴングの前に立ち、小さな木製ハンマーを構えた、マスター護衛隊長チョットツの姿があった。


「マスター! 第1ラウンド、試合開始ですぜ! 脇見してないで、相手の方を見て戦って下さい!!」


(お前のせいだよ!!!)


 京介の魂のツッコミが炸裂さくれつする。


(なんだそのゴングは! そしてなんで審判面しんぱんヅラしてるんだ! 緊張感が台無しだろ!)


 しかも、チョットツは注意を促した直後、ハンマーの痛さを確かめるために、手に持ったハンマーで自らの脳天をゴチン! と強打した。


「ぐふぅっ……! お! これもなかなか……しびれる痛み……!」


 白目をいてよろめく護衛隊長。


(……もういい。あいつは放っておこう。視界に入れるだけでMP〈メンタルポイント〉が削られる)


 京介が意識を強制的に切り替えると、水を差された装甲竜が、憤怒の形相で大きく息を吸い込み始めた。

 その口元に、赤黒い炎が渦巻く。


「グルァァァァ……ッ!」


(ブレスが来るぞ!)


 京介が身構える。

 ドラゴンのブレスをまともに食らえばただでは済まない。

 だが、キョウは避けない。

 彼は、迫りくる灼熱しゃくねつの波動を前にして、ニヤリと笑うと、巨大な戦斧を、まるでバットのように構えた。


「ウガッ!」


 装甲竜がブレスを吐き出すのと同時に、キョウが歴戦のメジャーリーガーよろしく、戦斧をフルスイングした。


 ブォンッ!!


 レベル1にしては異常なSTR(きんにく)の腕力によって生み出された、物理的な暴風。

 それが、前方から迫る炎の波と正面衝突した。


 ゴオオオオッ……フッ。


 炎は、戦斧が巻き起こした理不尽な風圧によって、まるでロウソクの火を吹き消すように、あっけなくかき消された。


(マジかよ……! ホームランか!)


 あまりの脳筋解決法に、京介が戦慄している間に、キョウはそのフォロースルーの勢いを利用して、一気に懐へと飛び込んだ。

 狙うは、装甲竜の左側頭部!


「ウガァァァァッ!」


 ガキィィィン!!!


 凄まじい衝撃音が響く。

 しかし。

 戦斧の刃は、装甲竜の銀色の鱗に阻まれ、火花を散らして弾き返された。


【ダメージ 0】


(硬っ!? ミノタウロスの斧でも通らないのか!)


 キョウは止まらない。

 弾かれた反動を、回転力に変える。

 体を独楽こまのように回転させ、遠心力を乗せた「返し」の一撃を、今度は右側頭部に叩き込む!


 ガキィィィン!!!


【ダメージ 0】


(やっぱりダメか! 何とかしないと! 身体能力では圧倒してるけど、相性が悪すぎる!)


 物理無効。その言葉は伊達ではなかった。

 キョウは、なおも諦めず、本能のままに乱打を繰り出す。


 ガキィン! ガキン! ガキィィィン!!!


 しかし、その全てが、無情にも弾き返される。

 装甲竜は、ダメージを受けるどころか、「かゆいな」とでも言いたげに欠伸あくびを噛み殺しているようにさえ見えた。


「ダメだニャ。全く通用しないニャ。爪楊枝つまようじで鉄板を叩いてるようなもんだニャ」


 安全圏に避難していたポヌルが、冷めた声で実況する。

 そんな絶望的な攻防を、少し離れた場所で見守る信徒たち。

 その中で、新入りのヒメが、不安そうにロジックに問いかけた。


「あ、あの……ロジックさん。キョウさんの攻撃、全く通用していないみたいですけど……。私たち、加勢しなくていいんですか? 魔法で援護するとか……」


 ヒメの真っ当な提案に対し、天才軍師ロジックは、畳の上に正座したまま、優雅に茶をてながら、静かに答えた。


「焦ってはいけません、ヒメさん。……ズズッ」


 ロジックは、熱い抹茶を一口すすると、眼鏡をクイッと押し上げた。


「今までも、このような事態は数えるほどありました。物理が通じない敵、理不尽なギミック、運営の悪意……。しかし、マスターは、その全てを『圧倒的な火力』と『深遠なる知略』で乗り越えてこられたのです」


「は、はぁ……」


「今は、マスターを信じましょう。これは、マスターが敵の装甲の『共振周波数』を探るための、テスト打撃に過ぎないのですから」


 戦況は膠着こうちゃくしていた。

 このままでは、いずれキョウのスタミナが切れるか、あるいは装甲竜の本気の一撃をもらって終わる。


(……くそっ。何か、何か手はないか!?)


 京介は、弾かれ続ける戦斧と、ドラゴンの鱗を必死に観察した。

 そして、気づいた。

 鉄壁に見える鱗だが、関節部分や、首の付け根には、わずかながら「隙間」があることを。


(そこだ……! こういうガチガチの敵は、装甲の上から叩くんじゃなくて、継ぎ目を狙うのが定石だ!)


 だが、キョウにそんな器用な真似ができるわけがない。彼は「強く叩けば割れる」としか思っていないのだから。


(なら、僕がやるしかない!)


 京介は、全神経を、自身の「尻尾」に集中させた。

 キョウが、次の一撃を振りかぶる。

 狙いは大雑把な脳天。このままではまた弾かれる。


(いけっ! 僕の尻尾!)


 京介は、尻尾を鞭のようにしならせ、キョウが斧を振り下ろす瞬間に合わせて、パシッ! と柄の部分を叩き、微妙に角度をずらす。


「ウガッ!?」


 手元の違和感にキョウが声を上げるが、スイングは止まらない。

 京介の操作によって軌道を変えられた戦斧の刃は、装甲竜の硬い鱗ではなく、そのわずかな隙間――首元の、鱗と鱗の境目へと、正確に吸い込まれていった。


(これでどうだ!!)


 ドスッ!!


 今までとは違う、肉を断つ鈍い感触が、京介の手に伝わってきた。



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