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【悲報】僕のVRMMOアバター、レベル1のまま魔王城に無限突撃する狂戦士なんですが?【ログアウト不可】  作者: 空木 架
第8章 魔王城攻略のリスタート

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第98話 囚われの姫

 私は守野 姫(もりの ひめ)。ごく普通の高校2年生。私は今、人生最大のピンチを迎えている。


 ことの発端は、おとといの夜。

 友達に「最近話題のVRMMOがあるから一緒にやろうよ!」と誘われたのが運の尽きだった。

 私は、家に届いたヘッドセットを装着し、ワクワクしながらログインした。そして、名前を入力した、その直後だった。


『プロフィールを確認。あなたに最適なキャラクターを自動生成します』


「え? 自動生成? 待って、キャラメイクは?」


 私の抗議も虚しく、目の前の画面でスロットマシンのように文字が回転し、ピタリと止まった。


『キャラクター「ヒメ」を作成しました』

『職業:囚われの姫(プリンセスピンチ)


「はい?」


 囚われの姫?

 職業欄に書く言葉じゃないでしょ、それ。

 私は冒険がしたいの。剣と魔法の世界で、可愛い衣装を着て、草原を駆け回りたいの。

 そんな私のささやかな願いを、無機質なシステム音声が粉砕した。


『特性:深窓の令嬢(ロック・イン・ルーム)。自力でのエリア移動不可。誰かに助けられるまで、経験値獲得不可』

『初期スポーン地点:魔王城・西の塔(最上階)』


「ちょっと! ウソでしょ!?」


『それでは、良き幽閉ライフを!』


「待ってよぉ!!」


 視界が暗転し、気づいた時には、私は石造りの冷たい塔の中にいた。

 出口は頑丈な鉄格子で閉ざされ、窓からは遥か彼方の地面が見えるだけ。

 ログアウトしようとしても、メニュー画面すら開かない。


(どうしてこんなことに……)


 あれから丸二日。

 私は、誰も来ない塔の中で、膝を抱えて途方に暮れていた。

 もう、ここで干からびていく運命なのかもしれない。


 その時だった。


 ヒュオオオオオオオオオッ!!


 窓の外から、凄まじい風切り音が聞こえてきた。

 何かが、空から猛スピードで落ちてくる音。

 鳥? 飛行船?

 私が顔を上げた、次の瞬間。


 ドガアアアアアアアアアアアアン!!!!


 塔の壁が、爆発したかのように粉砕された。

 土煙が舞い上がり、瓦礫がれきが飛び散る。

 そして、その土煙の中から、一人の男が――いや、一頭の「野獣」が、ぬらりと姿を現した。


 筋骨隆々の肉体。

 ボロボロの腰布。

 手には、凶悪なトゲのついたナックルと、身の丈よりも遥かに巨大なバトルアックス。

 そして、その瞳は、血に飢えた獣のように赤く光っていた。


「きゃあああああああああああっ!?」


 私は、悲鳴を上げて部屋の隅に後ずさった。


「モ、モンスター!? 魔王の手下が、私を食べに来たの!?」


 終わった。

 幽閉された挙句、最後はモンスターの餌食。なんて最悪なゲームなの。

 野獣が、私の方をギロリと見た。



(あ、危なかった……!)


 一方、先師京介せんし きょうすけは、瓦礫に埋もれながら、安堵のため息をついていた。


(ふぅ……。なんとか魔王城内部への侵入、成功だな……)


「きゃあああああああああああっ!?」


 京介が悲鳴が聞こえる方を見ると、部屋の隅に向かって後ずさりしている、一人の少女が見えた。

 純白のドレス、透き通るような白い肌、そして腰まで届く艶やかな黒髪。

 どこからどう見ても、「はかなげな美少女」だった。


(えっ!? 人!? こんなところに!?)


「ひぃっ! 来ないで! 食べないでぇ!」


 少女が、涙目で叫ぶ。

 無理もない。キョウの外見は、山賊かオークかといった風貌だ。おまけに壁をぶち破って入ってきたのだから、不審者以外の何物でもない。


(ちっ、違います! 僕はモンスターじゃありません! ただの通りすがりの狂戦士の犠牲者です!)


 京介が必死に弁解しようとした(声は出ないが)、その時。頭上で、あの忌まわしきファンファーレが鳴り響いた。


 ファンファーファンファーファーン!


【魔王城・西の塔にレベル1で到達しました】

【称号:光速の到達者ライトスピード・アライバーを獲得】

【特典:ステータスボーナスを付与します】

SPD(すばやさ)に200加算します】


 目の前の少女が、ハッとした表情で顔を上げた。


「……え? 今の音……システムメッセージ?」


 少女の目に、警戒心とは違う、驚きと希望の色が浮かぶ。


「も、もしかして……あなた、モンスターじゃなくて、プレイヤーですか?」


 その言葉に、京介は救われた思いがした。


(わかってくれた! そうです! プレイヤーです! ちょっと操作できないだけで!)


「ウガ?」


 キョウが、小首を傾げて短くうなる。

 すると、割れた壁の隙間から、ひょっこりとポヌルが顔を出した。


「やれやれ、派手に突っ込んだものだニャ。……おや? 先客かニャ?」


 ポヌルは、状況を一瞬で把握すると、少女に向かってすました顔で言った。


「安心するニャ、お嬢さん。こいつはただの通りすがりの変態……じゃなかった、冒険者だニャ。『そうだ、俺はキョウ、プレイヤーだ。怪しいものではない』と言っているニャ」


 しかし、少女はその言葉にパァッと表情を輝かせた。


「やっぱりそうなんですね! よかった……! 私、ヒメって言います!」


 ヒメと名乗った少女は、せきを切ったように話し始めた。


「ゲーム開始と同時に、『囚われの姫』とかっていう変な職業に就かされて、そのままここに閉じ込められて困っていたんです! ログアウトも出来ないし……もう、一生ここから出られないんじゃないかって……!」


 その目には、安堵あんどの涙が浮かんでいる。

 京介は、その言葉に、強烈なシンパシーを感じた。


(……僕と、一緒だ!)


 開始直後のトラブル。ログアウト不可。運営の悪意に翻弄される被害者。

 彼女もまた、このクソゲーの囚人だったのだ。


(大丈夫だ、ヒメさん。僕も似たようなもんだよ……。君のその『囚われの姫』っていう職業、僕の『操作不能の狂戦士』といい勝負のクソジョブだな……)


 京介の中に、仲間意識が芽生えた。

 助けてあげたい。

 せめて、この部屋から出してあげたい。


 その時、キョウが動いた。

 彼は、ヒメの話など全く聞いていなかった様子で、部屋の出口を塞いでいる頑丈な鉄格子に近づいた。

 そして、鬱陶うっとしそうに鼻を鳴らすと、手に持っていたミノタウロスの戦斧バトルアックスを、無造作に振り上げた。


(あ、また壊す気だ)


「ウガァッ!」


 ズギャアアアアアアアン!!


 轟音と共に、鋼鉄製の鉄格子が、飴細工のようにひしゃげ、吹き飛んだ。

 キョウにとっては、ただ「通り道に邪魔な棒があった」程度のことだったのだろう。


「ひゃうっ!?」


 ヒメが驚いて肩をすくめる。

 ポヌルが、したり顔で解説を入れた。


「『ここに来たのは偶然だが、ついでに道を開けてやった。感謝するが良い』……と、ツンデレ気味に言っているニャ」


(言ってないけど、まあ、結果オーライだ!)


 鉄格子がなくなり、下へと続く階段が姿を現した。

 キョウは、ヒメのことなど気にも留めず、スタスタと階段を降りようとする。

 慌ててヒメが声をかけた。


「あ、あの……! 私……私も、ついて行っていいですか? ここから一人で生きて帰れる気がしないんです……。私、戦う力なんて何もないし……」


 不安げに上目遣いで見つめるヒメ。

 京介は、即座に思った。


(もちろん! 置いていくわけないだろ! 同じ被害者同士、協力してこのクソゲーから脱出しよう!)


 京介は、全力で尻尾を縦に振って肯定の意を示そうとした。

 だが、キョウは、京介の意志とは関係なく、「ウガァ」と面倒くさそうに一つ吠えると、さっさと歩き出してしまった。


「あ……」


 ヒメが悲しげな顔をする。

 すかさずポヌルがフォローに入った。


「『勝手にしろ。ただし、俺の背中についてくるなら、命の保証はしてやる』……と、キザに言っているニャ」


(お前、今日いい仕事するな!)


 ポヌルの超訳に、ヒメの顔が輝いた。


「ありがとうございます! キョウさん!」


 ヒメは、ドレスのすそをたくし上げると、小走りでキョウの後を追いかけた。

 その背中を見ながら、京介は思った。


(……守らなきゃな)


 自分と同じように、理不尽に巻き込まれた少女。

 彼女を無事にログアウトさせることが、京介の新たな、そして明確な目標となった。


(ようやくまともな『普通の子』が出てきたな。……いや、待てよ。まだ油断はできない。彼女にも何か『裏』があるんじゃないか……?)


 一抹の不安を抱えつつ、京介は、新たな仲間と共に、魔王城の攻略を再開するのであった。

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