己の慢心に身を滅ぼされ
堕ちていく過程で、我は意識以外の全てを失った様じゃった。
実体を持たぬ故、地上では草木や虫にも認められず、孤独な時を過ごしておった。
(もうどれだけ経ったのかすら分からぬ…)
消滅する事も叶わず、ただ時間を浪費し続ける日々。
そんな中、何度あの使いの訴えが蘇ったか。何度あの冤罪を悔いたか。
(この様な羽目になるのなら、大人しく謝罪しておけば良かったのう…)
誰も彼も突然、世の全てから認識されぬ状況に陥ったなら、気が狂うものじゃろう。
我の精神も既に限界が近づいておった。
(誰か…悪魔でもいい。我に、気付いてくれ…)
すると、不意に此方に歩いて来る者が現れたのじゃ。
「あ!親父みて、まっしろなきつねさんがいるー!あんな道のまん中でなにしてるのかな?」
「はい…?何も見えませんが…」
人間の子が指差す先には、我しか居らんかった。
(まさか…我が見えておるのか…?)
「ほら、今こっちむいたよ!もう目が悪くなっちゃったの!?」
「そう言われましても…きっと乱反射か何かですよ。…いや、そんなわけ無いですか…」
「もういーよ!ぜぷとがはなしかけてくる!」
「ちょっと、急に道路に出たら危険ですよ!!」
人間の子は、我の前まで来るなり、身を屈めて手を伸ばしてきたのじゃ。
「きみ、おうちは?かぞくはいるの?」
(我には帰る場所も家族と呼べる者も居らぬ…)
「よかったらうちにこない?ここにいたらあぶないよ!」
(む?今何と…?)
「えと、一応僕が、家の主なんですけど…」
「だってぜぷとがペットかいたいって言ったら、親父ゆるしてくれるでしょ?」
「当然ですよね」
「じゃあいーじゃん!うちにきてもらおうよ!」
(我を愛獣扱いとは…)
人間の子は我の事を撫でておる様じゃった。
「でも見えないとなると少々不便で…あっ、今ぼんやりとですが見えました!」
(我が見える者が2人も…!?)
その事実は我にとって何よりも心の救いじゃった。
ようやく孤独から解放されると思うと、身体から力が抜けていってしもうた。
「きつねさんどうしたの!?」
心配する声を余所に、我は意識を手放してしまったのじゃ。