事は尾鰭が付かぬうちに
我は千禾予という。諸事情により、人間の施しを受ける事となった神じゃ。現状、4きょうだいの1番下にされておる。
その顔、疑っておるな?よかろう、我が直々に事の経緯を語ってやろう。しかと聞いておくのじゃぞ。
十年一昔なる言葉にならえば、二昔には及ばぬ位かのう。
我は3つある部隊の内の1つ、2番隊の長じゃった。当時は神も各部隊の長、即ち3柱しか居らんかったのじゃ。
部隊とは何かじゃと?天界から地上を監視し、均衡を保つのが神の務めだったのじゃ。
それ故に、神が使いの面倒を見易くする為に設置されたのが部隊という制度、じゃと解釈すれば良い。
続けるぞ。天界には、地上とを行き来する事が出来る門があったのじゃ。それを通らずに地上に降りようものなら、天界に戻る事は叶わぬ。
それを使うには神の許しが必要でのう。無断で使えぬ様に、他の神と日替わりで見張りをしておった。
とは言いつつも、使いが頻繁に悪事を働く訳も無く、終わるまで門の近くに居るのみの事ばかりじゃった。
じゃがある日、我が偶然うたた寝をしておる時に限って事件が起きたのじゃ。
門を通り地上へ向かい、多種多様な神を信じる者共に、神は全て紛い物、真の神など実在せん、などと抜かしおったのじゃと。その所為で情緒が狂った者も居った様じゃ。
馬鹿げた話じゃよな。我らが居った天界の他にも、神が居る次元があっても可笑しくは無かろうに。
じゃが、此処で馬鹿がもう1柱居る事に気付けたかのう。御明察、まさしく我じゃ。
見張り番の神がうたた寝をし、尚且つ門を無断で使われたとあらば、最も重い罰を受けるのは我じゃろう。
(この儘では不味い、早く手を打たねば、我は詰んでしまう…)
何としてでも状況を善くしようと、策を講じてみたのじゃが、良い案は浮かばず。
そうして唸っておると、ある噂が我の耳に入ったのじゃ。
どうにも此度の騒動は、仕事もろくにせずに家に引き籠もっておる、あの”サボり魔”と呼ばれる使いが起こした様じゃと。
我は時間が惜しいが為に、直ぐに動き出したのじゃ。