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其ノ壱 414号室 一

 高校に入学する直前、家が爆発した。


 この話をすると大抵の人は首をかしげる。

 そりゃそうだ……自分の家が爆発するなんて、そうそう経験できることじゃないからな。


 どうやらキッチンでガス漏れが起こっていたらしい。

 それが何かの拍子に火が付き、ドンッ――親父が苦労して建てた一軒家は、哀れ家事で全焼。

 俺の制服や教科書も全部燃えてしまって、どえらい騒ぎになった。


 幸い、爆発の時に俺と家族は外食していたので怪我はなかった。

 帰った時、自分の家の周りに消防車が何両も停まっていて、燃え上がる自宅に向かってホースを抱えた消防士がてんやわんやしている姿は今でも忘れられない。

 ……あれはシュールな光景だった。


 それから色々あって、俺は高校近くのマンションに一人暮らしすることになった。

 自宅から高校が遠かったこともあり、最初は高校から程近い場所にある叔父の家で居候するはずだったが、俺がそれを嫌がったので結局マンション暮らしになったのだ。


 理由は単純――俺と従妹はすこぶる仲が悪い。


 子どもの頃からよく顔を合わせてはいたが、どうにも馬が合わなかった。

 小六の頃に取っ組み合いの喧嘩をして以来、会ってもいない。

 それが三年経って急に一つ屋根の下で暮らすとか、さすがにない。


 両親は仕事の都合で元居た街から離れられないため、俺が叔父の家に居候するのを拒んだ時には揉めに揉めた。

 だから春休みも残り少ない中、ネットで必死に高校近くの安物件を探して手頃な家賃の部屋が見つかったのは奇跡だった。


 おかげで、今は悠々自適に一人暮らしをしながら高校へと通う日々を送っている。

 ウチの親は放任主義なのか一人暮らしが決まったら決まったで、毎月の家賃と最低限の生活費は出すからあとは自分でなんとかしろと言う塩対応ぶり。

 生まれて十五年目で、俺は自由とは責任が伴うものだということを実感させられた。


 とは言え、困ってもネットでググれば大抵のことは解決するし、親からの安否確認も電話だけで済むので気が楽だった。

 家具なんて前の住人のものが残っていたので買い直す必要はなかったし、冷蔵庫と洗濯機を持ち込むだけで事足りた。

 そんなこんなで、俺の新生活は順調なスタートを切った……はずだった。


 最初におかしいなと思ったのは、高校生活が始まって二週間ほど経ってからのこと。

 学校にも慣れ、クラスメイトと気安く話すようになってきた頃、心に余裕ができたからだろうか……入居しているマンションの外廊下を歩いている時にふと気付いたことがある。


 俺が入居したマンションは、七階建てで部屋数も多い。

 俺は四階の角部屋――日差しも眺めもベストな414号室に入っている。

 外廊下はL字型になっていて、エレベーターはその直角部分にあるから、左右の廊下を覗けば窓から漏れる明かりで住人の在宅を確認できる……はずなのだが。


「今日も暗いな」


 四階の外廊下は、照明が照らすばかりでいつも薄暗い。

 真っ暗な窓の部屋をいくつも通り過ぎると、なんだかこのマンションには俺だけしか住んでいないんじゃないかと思って気味が悪くなってくる。

 そんなふうに一つ気になることを見つけると、他にもどんどん見つかってくる。


 廊下で同じ階の住人とすれ違ったことがない。

 他の部屋からまったく生活音が聞こえない。

 四階だけ外廊下の照明切れが放置されている。

 一階玄関にあるポストのうち、四階の部屋でチラシが入っているのを見るのは俺の部屋だけ。


 ……なんだかおかしくないか?


 いやいや。考え過ぎだろう。

 たまたま同じ階に住む人達と俺の生活サイクルが違うだけ。

 夜になれば、明かりのついた窓がいくつも増えているはずだ。

 そう思って、夜間にコンビニへ買い物に出てみても――


「マジで人の気配がしないんだけど……どういうこと?」


 ――やっぱり俺の部屋以外に明かりがついている窓はなかった。


 都内。駅近。交通の便良し。マンション四階。角部屋。間取り1K。北向き。

 この条件で家賃3万9千円。

 ……これ、安過ぎるか?


 ようつべ(・・・・)で、たまたま賃貸物件に関する特集をしている動画を視た。

 それによれば、賃貸には心理的瑕疵物件というものがあるらしく、家賃の安過ぎるところは大抵そういった曰く付きの部屋ということらしい。


 曰く付き……なんだかいかにもヤバそうな響きがする。

 改めて今の部屋と同じ条件で都内の物件を検索してみると、8万とか9万とかアホみたいに高い賃料ばかり出てくる。

 明らかに俺の部屋は安い――いや。安過ぎる。


「まさか……なぁ?」


 さらにググってみると、代表的な心理的瑕疵物件とは死亡事故や事件があった部屋というのがセオリーらしい。

 どこのだれだか知らない人が死んだかもしれない部屋……たしかに意識すると気分が悪い。

 ホラー映画なんかで幽霊の出る部屋とかあるけど、ああいう状況に自分が遭遇したら洒落にならないくらい怖い。

 Gが部屋に出るよりも怖い。


 スマホの画面から目を離してすぐ、恐る恐る部屋中を見回してみた。

 壁や床に特に気になる染みはないし、カーテンや家具の隙間から覗く気配も感じない。

 ごく普通の部屋にしか思えないが、賃料の安い理由が何かあるはずなのだ。


 414号室には春休みに越してきたから、そろそろ住み始めて三週間か。

 ゴールデンウィークも間近に控えて、部屋の模様替えをしようと思っていたのにやる気が削がれてしまった。

 このまま今の暮らしを続けていて、本当に大丈夫なんだろうか……。

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