老人の協力と次なる作戦
◇◇◇
夜明け前、拠点の一角。
俺は寝ぼけ眼のまま、鍋の中でぐつぐつ煮えている「朝のスープ(昨日の残り物全部入り)」を木のスプーンでかき回していた。
「……あー……眠い。てか昨日、夜更かししたの誰だよ。あ、俺だわ。」
目の前では、ネズミ族のチュウタが欠伸をしながら干し肉をかじっている。
一方、ゴキブリ族のカサカサ二号は朝っぱらから妙にテンションが高い。昨日の老人とのやり取りを思い出しているのか、ひたすらニヤニヤしている。
「なぁなぁリーダー、昨日のじいさん、完全に俺らに心掴まれたんちゃう?」
「いや、“掴まれた”って表現どうなのよ。まだ信用の紐をほんのちょっと引っ張ったぐらいだぞ。」
「そやけど、あのニコニコ顔はもうファンやったで。」
いや、ファンじゃねぇ。お前らのその自己肯定感の高さ、どこから来るんだ。
◇◇◇
朝食が終わったら、今日の作戦会議だ。
といっても、全員で地べたに座って、石ころを駒にして作戦図(という名の落書き)を描くだけなんだけどな。
「よし、昨日じいさんが“協力する”って言ってくれたわけだが……次は何をどう動くかだな。」
「リーダー、やっぱごんぎつね作戦の第3段階やろ!」
「第3段階って……勝手に作戦増やすな。どんな段階なんだ?」
「えっと……村人が寝てる間に、食料と薬草を枕元に置いとくねん。で、起きたら『わぁ!妖精さんや!』ってなるやつや!」
おい、完全に童話のエルフと靴屋パターンだろ、それ。しかも妖精じゃなくて、枕元に現れるのはゴキブリとネズミだぞ。起きた瞬間、絶叫だ。
「まぁ、あれだな……驚かれる可能性が高すぎる。」
「じゃあどうするんや?」
俺はしばし顎を撫でて考えた。
じいさんが味方してくれても、村全体を動かすにはまだまだ時間がかかる。
だからこそ、次も“証拠”を積み重ねる必要がある。
「まずは村がいま何を一番欲しがってるか、じいさんからもっと情報をもらおう。それをもとに、また影から手助けするんだ。」
「ほほう……また秘密工作やな。」
「そうそう。俺たちは“影のヒーロー”だからな!」
……なんか言ってて自分でもちょっとカッコつけすぎた気がする。
◇◇◇
昼過ぎ、俺と数人の仲間は再び村の近くまで偵察に行った。
昼間は村人が動き回ってるから危険だが、茂みや下水の影を伝えば近くまで行ける。
もちろん、下水の匂いは慣れてるから平気だ。むしろ落ち着く。……落ち着きたくはないが。
「なぁリーダー、あの畑の端っこ……なんか枯れてへん?」
「お、確かに。あれは……病気か?」
枯れた部分をよく観察すると、どうやら土が固くなって水がうまく浸透していないようだ。
つまり、耕し直しが必要だな。だが村人の人数や道具の数を考えると、全てを手作業でやるのは難しいだろう。
「なるほど……次の手は“耕し屋”か。」
「耕し屋って、俺らが夜な夜な畑を耕すんか?」
「そうだ!俺たちが地面の下から侵入して、根っこを邪魔しないように土をほぐすんだ。」
ネズミ族のチュウタが、まるで宝物を見つけた子供みたいな顔をして言った。
「リーダー、それ天才や!俺らトンネル掘りは得意やからな!」
そう、ネズミ族は土掘りのプロだし、ゴキブリ族は狭い隙間の移動が得意だ。
この合わせ技なら、静かに、そして迅速に作業ができる。
◇◇◇
夜。計画通り、俺たちは村の畑に潜入した。
月明かりを避け、土の中からこっそり侵入する。
地表からはほとんど足音も物音も聞こえない。まさに“地下の忍者”だ。
「おいチュウタ、その土塊はそっちに回せ!」
「おう!けどな、これ意外と重いで!」
「カサカサ二号、お前は上から見張り頼むぞ!」
「任せとけやー……って、あ、猫や!やべっ!」
カサカサ二号の慌てた声に一瞬緊張が走ったが、幸い猫は畑のネズミを追いかけてるだけで、こちらには気づかなかった。
やっぱり地上の警備は厳しいな。
作業は順調に進み、硬くなった土を柔らかくほぐし、水が通りやすくなった。
ついでに肥料代わりになる落ち葉や枯草も混ぜ込んでおいた。
これなら、じきに枯れかけてた作物も復活するはずだ。
◇◇◇
翌朝。
俺は拠点でパンくずをかじりながら、村の様子を思い浮かべていた。
「なぁリーダー、村人たち、驚くかな?」
「そりゃ驚くさ。昨日まで枯れかけてた畑が、急に元気になったらな。」
「でもまた噂になるんちゃう?『夜中に畑が息吹き返す怪奇現象』とか。」
「……まぁ、そうなるかもしれん。」
だが、それでいい。
最初は“怪奇現象”で構わない。
その正体が“俺たちの努力”だとわかるのは、もう少し先でいい。
老人が少しずつ真実を広めてくれるはずだ。
それまでは俺たちが影で動き続ける。
◇◇◇
その夜、また会議だ。
作戦は続く。
ごんぎつね作戦は、まだまだ終わらない――。
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