人間たちへの贈り物作戦
洞窟の拠点に戻り、俺たちは集落の人間たちとどのように友好関係を築くべきかについて議論していた。
「リーダー、人間たちが薬草を見つけたときの顔、見たか?」ネズミ族のリーダーが笑みを浮かべながら話しかけてきた。「あれ、すごく喜んでたよな!」
「そうだな。あんなに喜んでくれるとは思わなかったな。」俺も同意しながら、頭の中で次の手を考えていた。もしこれからも人間たちの困りごとを解決してやることができれば、俺たちゴキブリ族とネズミ族に対して友好的な感情を持ってくれるかもしれない。
「でもな、リーダー。あいつらに直接会って交渉するのはリスクが高いよ。だって俺たち見た目が…」と、別のネズミ族が気まずそうに言葉を濁した。
「そうだなぁ。確かに俺たちの姿を見たら、人間たちは逃げ出すか、最悪、襲い掛かってくるかもしれない。」
そうだ。人間にとってゴキブリやネズミというのは、良いイメージを持たない存在だ。ましてや、俺たちは普通のゴキブリやネズミではなく、地下の迷宮で生活している生物だ。下手に近づいて誤解を招くと、関係は逆に悪化してしまう可能性がある。
◇◇◇
「だから、こうしよう。俺たちは人知れず人間たちに必要なものを渡し続けるんだ。いわば『ごんぎつね作戦』だな。」
「ごんぎつね?それってなんだ?」ネズミ族のリーダーが首を傾げながら聞いてきた。
「ああ、昔話のことだ。ごんという狐が、自分の過ちを償おうとして人知れず村人に贈り物をする話さ。俺たちもそれと同じように、人間たちに必要な物資を渡し続けることで、徐々に彼らに俺たちの存在を受け入れてもらうんだ。」
「なるほどね。でも、どうやって渡すの?また薬草みたいに置いておくだけ?」
「うーん、それじゃあ単純すぎるし、バレやすいかもしれないな。」俺は腕を組みながら考え込んだ。もっと自然な方法で、人間たちが『偶然見つけた』と思えるようにする必要がある。
◇◇◇
その日の夜、俺たちは洞窟の中で集まり、どうやって人間たちに物資を渡すかを議論し続けた。
「例えば、彼らが使っている井戸の近くに薬草を植えるってのはどうだ?」
「いや、それだと気づかれる可能性があるし、誰かが踏んでしまうかもしれない。」
「それなら、畑の隅に植えておくとか?収穫の時期に紛れて自然に手に入るように。」
「それいいかもしれない!でも、植え付けるときに見つからないようにするのが重要だ。」
こうして、俺たちは次々とアイデアを出し合った。最終的には、村の周囲に少しずつ薬草を植えたり、村人が使う道具の近くにさりげなく必要な物を置いておくことにした。
◇◇◇
次の日、俺たちは早速行動に移した。薬草を少しずつ乾燥させて、村の畑の隅に植え付けるための準備を整えた。薬草を持って村に近づくのはリスクが高いので、ネズミ族の偵察隊がまず周囲の状況を確認することになった。
「今のところ、人間の姿はないみたいだな。よし、今がチャンスだ。」
俺たちは慎重に畑の隅に薬草を植え付け、まるでそれが自然に生えているかのように見せるために、土を上手にかけて隠した。
「よし、これで村人が収穫する頃には気づかずに持っていくことができるだろう。」
「まるで泥棒の逆バージョンだな!」ネズミ族の一匹が笑いながら言った。
「まぁ、俺たちが何もかも与えている感じだからな。でも、これで少しでも彼らの生活が楽になるなら、それでいいんだ。」
◇◇◇
その後も、俺たちは同じような手法で、村人に必要な物資を届け続けた。乾燥した薬草や保存食に使える野菜、さらには畑の肥料となるような植物も少しずつ追加していった。俺たちが夜な夜な村の近くで作業している間、ネズミ族の偵察隊は村の動向を監視し続けた。
「リーダー、最近村人たちの様子が少しずつ明るくなってきたよ!」
「ほう、それはいい知らせだな。」
「特に、あの薬草がすごく役立っているみたいで、病気の人たちの状態が少しずつ良くなっているみたいなんだ。」
「そうか、それは本当に良かったな。」俺は胸を撫で下ろしながら、次にどのように人間たちとの接触を進めるかを考えた。
◇◇◇
ある夜、俺たちはいつも通りに村に物資を届けるために動いていた。俺はふと思いつき、何か特別な贈り物を用意することにした。
「よし、今日はちょっと特別なものを置いていこう。」俺は洞窟の奥から見つけた、地下の特殊な鉱石を取り出した。それはほんの少し光を放つもので、装飾品や道具の材料になるかもしれない。
「リーダー、それは何だ?」ネズミ族のリーダーが興味津々で尋ねてきた。
「これは地下で見つけた鉱石さ。これを村人が見つけたら、きっと驚くだろうな。それに、この鉱石を使えば村の生活も少しは豊かになるはずだ。」
「おぉ、さすがリーダー!そんな素晴らしいものを持ってきてたなんて!」
俺たちはその鉱石を畑の近くにそっと置いて、村人が自然に見つけられるように工夫した。そして、作業が終わった後、村の様子を見守ってみることにした。
◇◇◇
次の朝、村人たちがその鉱石を見つけ、驚きと喜びの声を上げているのが聞こえた。
「おい、これを見ろよ!なんだかすごいものを見つけたぞ!」
「これは…どこから来たんだ?まさか、神様が恵んでくれたのか?」
村人たちは鉱石を手に取り、光を放つその美しさに感嘆していた。その様子を見ながら、俺たちは小さな成功を感じた。
「リーダー、これで俺たちのことを少しは感謝してくれるかもしれないね。」
「ああ、でもまだ油断はできないぞ。これからも慎重に進めていこう。」
◇◇◇
こうして俺たちは、ごんぎつね作戦を続けながら、少しずつ人間たちとの距離を縮めていった。直接顔を合わせることなく、人間たちに助けの手を差し伸べることで、彼らにとっての「見えない友人」として存在し続ける。俺たちの小さな努力が実を結ぶ日が来ることを願いながら、今日も俺たちは静かに村を見守り続けた。




