ゴキブリ族との衝突
「おい、ゴキブリ、ちょっと来てくれ!」
ネズミ族の巣で日々の生活に馴染んできた俺だが、この日は何やら物騒な空気が漂っていた。チュー太が慌てた表情で俺を呼び止めてきたから、ただ事じゃないことはすぐに分かった。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて?」
「大変だ!ゴキブリ族が、うちの巣に攻め込んでこようとしているんだ!」
「ゴキブリ族…?俺と同じゴキブリってことか?」
驚きとともに、心の中に複雑な感情が湧き上がった。同族――ゴキブリ族。今まで俺は一人で地下を生き抜いてきたが、まさかこのタイミングで他のゴキブリたちに出会うとは思ってもいなかった。
「なんでゴキブリ族がここに来るんだ?」
「どうやら、地下の資源――特に食料を求めて移動しているらしい。あいつら、他の魔物の巣を襲撃して、食料をかっさらっていくって噂だ。今回は、俺たちネズミ族の巣が狙われているってわけだよ。」
チュー太の言葉を聞いて、胸がざわついた。同族であるはずのゴキブリ族が、ネズミ族の巣を襲うなんて…俺の頭の中で疑問が膨らんでいった。
「ネズミ族は今まで平和に暮らしてきたんだ。だけど、ゴキブリ族は違うみたいだな。」
「やれやれ、どうしたもんかね…。」
俺はチュー太と一緒に巣の外に出てみた。そこにはネズミ族の戦士たちが警戒態勢に入っており、その向こうには――初めて見るゴキブリ族の姿があった。
「……おいおい、これがゴキブリ族かよ。」
俺は思わず驚いた。自分もゴキブリとしてこの地下で生きてきたけど、彼らを目の当たりにして驚愕したんだ。ゴキブリ族は数こそ多いが、体はやつれていて、明らかに飢えている様子だった。それに、彼らの目には何か焦りと恐怖が滲んでいる。
「なんか…同じゴキブリとして、こんな風になっちゃうのか?」
彼らは強そうには見えなかった。むしろ、地下で生き延びるために、転々と狩場を移動し、他の魔物の巣を襲撃して食料を奪い取っている――そんな生活が彼らをここまで追い込んでいたのかもしれない。
その瞬間、俺はゴキブリ族のリーダーらしき大きな個体に目を奪われた。リーダーは他のゴキブリ族よりも一回り大きく、体には無数の傷跡が刻まれていた。彼の目は鋭く、周囲を睨みつけている。
「貴様、ゴキブリか?だが、我々ゴキブリ族に属していないようだな。」
リーダーが俺に向かって声をかけてきた。その低い声には威圧感があったが、俺は動じなかった。
「そうだ、俺はゴキブリだが、今はネズミ族と共にここで生活している。お前たちがネズミ族の巣を襲うのはやめろ。」
「ほう、ネズミ族と共存しているゴキブリだと?くだらん。貴様が何をしようが、我々は生きるために資源を求めている。それを奪うのは当然だ。」
リーダーは冷笑を浮かべたが、俺には彼の余裕のない姿が見て取れた。
「そりゃ、お前たちも生きるために必死なのは分かる。だが、他の生物の巣を襲うだけじゃ、いつか行き詰まるぞ。」
俺は彼に向かって真っ直ぐ言葉を投げかけた。ゴキブリ族がただの襲撃者になってしまっていることが、俺には悲しかった。だが、彼は俺の言葉に耳を貸そうとしない。
「お前に我々の苦しみが分かるか?我々は狩場を失い、転々と移動を続けながら生きてきた。地下の魔物たちに追われ、居場所をなくし、最後に残ったのがこの小さな領域だ。」
リーダーの言葉には、悔しさと怒りが滲んでいた。彼らは弱い立場に追いやられ、狩場も小さくなり、何とか生き延びるために他の魔物の巣を襲うしかなかったのだ。
「だが、今ここに至ってはそんなことを言っている余裕はない。我々は資源を奪わねば、飢え死にするのだ!」
彼の声は荒れていたが、その背後には疲れ切ったゴキブリ族たちがいた。彼らの姿を見ていると、俺はただ争うことが正しいのか疑問を感じた。
ゴキブリ族のリーダーとの対立
「確かに、お前たちが苦しんでいるのは分かる。だが、ネズミ族だって同じように生きるために資源を守っているんだ。お前たちがここを襲えば、また同じように争いが続くだけだぞ!」
俺は自分の言葉に力を込めた。ゴキブリ族のリーダーと正面から対立することになったが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「ふん、綺麗事を抜かすな。強者が生き、弱者が死ぬ。それがこの地下の掟だ。ネズミ族が強ければ我々を追い払えばいい。だが、貴様が言うように共存などありえん!」
リーダーの言葉には強さがあったが、同時に追い詰められていることも感じ取れた。
「いや、共存は可能だ。お前たちが他の巣を襲わず、安定した狩場を確保できれば、無駄な争いを避けられるはずだ。お前たちゴキブリ族だって、食料を得るための知恵があるだろう?」
俺はゴキブリとして、同族の力を信じたかった。彼らがただの襲撃者として生き続けるのではなく、知恵を使って生き延びる道を探すべきだと感じていた。
「知恵だと?そんなものでは生き残れない。力こそが全てだ!」
リーダーは俺の言葉を聞き流し、今にもネズミ族の巣を襲おうとしていた。しかし、俺は一歩も引かなかった。
「なら、俺がお前に知恵を見せてやる。ここで無駄な争いをするのではなく、協力して共に生きる方法を考えよう。お前たちも、ネズミ族も、この地下で生き残るためには知恵が必要だ。」
リーダーは俺を睨みつけたが、何かを考え込むように一瞬の沈黙が訪れた。ゴキブリ族が転々と移動し、他の魔物を襲撃して生き延びてきた歴史。その背景には、彼らの力だけではなく、限界が来ていたのかもしれない。
「……ふむ、ではその知恵とやらを見せてもらおうか。もしそれが我々の生存に繋がるなら、耳を貸す価値はあるかもしれん。」
リーダーはついに歩み寄ったようだ。彼は、もはや力だけでは生き延びられないことを感じ取っていたのだろう。
「よし、まずはここで無駄な争いを止めよう。そして、ネズミ族とゴキブリ族で資源を分け合う方法を考えよう。お前たちが安定した狩場を確保できれば、無駄な争いはなくなるはずだ。」
俺はリーダーにそう告げ、共存への道を提案した。これからは、ゴキブリ族とネズミ族が協力して地下で生き延びる方法を見つけていく必要がある。まだ不安はあるが、この一歩が地下の未来を変えるかもしれない。




