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誰にも話さないよな

作者: にら

20歳の大学生である彼は、夏休みを利用して東京の友人の家に行くことにした。普段は何事にも挑戦しない彼だったが、この夏だけは少し違うことをしてみたかった。そこで、ヒッチハイクで大阪から東京までの道のりを行くことに決めたのだ。新幹線やバスで行くよりも冒険心をくすぐる何かがそこにはあると思ったからだ。


大阪からの道中、いくつかの車を乗り継ぎながら、彼は運転手たちと他愛もない会話を交わし、そのたびに「怖い話を持っていませんか?」と尋ねていた。運転手たちはそれぞれ、聞いたことのあるありきたりな都市伝説や、ほんの少し不気味な体験談を話してくれた。彼はそれを楽しみながら、次の車へと乗り換えていった。


愛知県に差し掛かった頃、夜の国道沿いで彼が手を挙げると、一台のトラックがゆっくりと停まった。トラックの運転手は中年の男で、無精ひげを蓄えた屈強な体格をしていたが、優しい笑顔を浮かべていた。


「東京行きか?乗せてってやるよ」


その言葉に感謝しながら彼は助手席に乗り込み、トラックは再びエンジンを唸らせ、夜の高速道路へと滑り出した。車内は少し古びた感じで、タバコの匂いが漂っていた。


彼はいつものように軽い雑談を始め、運転手に怖い話を持っていないかと尋ねた。すると、運転手は一瞬だけ沈黙し、前方の闇に目を向けた後、低い声でこう言った。


「お前、本当に怖い話を聞きたいのか?」


その問いに少し戸惑いながらも、「ええ、もちろん」と返事をした。すると、運転手は突然「なんてな!」と笑い声を上げた。


「ガハハ!そんな都合よく気味の悪い話なんてねえよ〜!」


彼は「気さくな人だなあ」と思い、少し安心した。しかし、しばらく沈黙が続いた後、運転手は急に真剣な表情に変わり、再び口を開いた。


「誰にも話さないって約束できるか?」


その突然の問いに驚きながらも、彼は「わかりました。約束します」と答えた。運転手はしばらく頷いた後、話し始めた。


「怖い話というか、君の悪い話になるかもしれんが…俺は趣味で廃墟巡りをしててな。廃墟って言っても、崩れ落ちそうな場所とかは危ないから、比較的綺麗なところとかで人が住んでた形跡を見るのが好きなんよ」


彼は興味深げに相槌を打ちながら話を聞いていたが、運転手が「ダム建設や高速道路建設の立ち退きで、集落全体が廃墟になったところを巡るから、犯罪じゃない」と語ると、内心「いや、犯罪だろそれ」とツッコミをいれた。


「この前、和風の一戸建てがあって、そこの前を通った時に、どこからか子供の声で『おじさん』って呼ばれた気がしてな。昼間だったし、怖いもの見たさでそこにお邪魔したんだわ。

もちろん、誰もいるはずない。でも、一応玄関で『お邪魔します』って言うて中に入ったんよ」


彼は話の進行に合わせて少し緊張しながら聞き続けた。


「昔の平屋で玄関は広くて、真っ直ぐ前に長い廊下が伸びてた。左右に襖越しの畳部屋が広がっていてな。なぜか右の部屋から誰かに呼ばれてる気がしたんだが、あえて左の部屋から見ることにした。襖を開けると、広い畳の部屋があって、奥にある箪笥が少しだけ開いてた」


運転手はそこで一息つき、少し息苦しそうに続けた。


「その箪笥を開けようとした瞬間、背後に誰かが立ってる気配がして。それがただ立ってるだけなんよ。俺のことを見るわけでもなく、箪笥を見るわけでもなく、ただ立ってるだけ。振り返る勇気はなかったが、横目で見ると目の端に間違いなく人影が見えた。これはヤバいと思ったよ。でも、俺もいい歳したおっさんだし、

勇気を振り絞って振り向くと、そこにいたんだ。直視はできなかったが、お爺さんだったな。そいつが人じゃないってのはすぐにわかったから、俺はその部屋を飛び出して玄関まで走った」


「一度は家から出たんだが、どうしても右の部屋が気になって、もう一度入ってみたんだ。玄関を潜って、左の部屋は飛び出したはずなのに襖が閉まってて今度は右の部屋に。そこには小さな茶葉代があって、奥に仏壇があった。すぐに気づいたよ。仏壇のところにある写真が俺の写真だってことに」


彼はその話を聞いて、息を飲んだ。


「なんで俺の写真がそこにあるのか、なんでなんで!ってパニックになって。それに、そのお爺さんのことを思い出して、怖くなって家から飛び出したよ。その後は特に何もなかったが、いったいあれは何だったんだろうな…」


運転手はそう話を締めくくったが、彼は心の中でゾクゾクとした不気味さを感じていた。運転手の表情には再び穏やかな笑みが戻っていたが、その言葉の余韻が車内に重く漂っていた。


私はいつの間にか眠っていて気がつくとトラックは環状線を走っていた。夜は明け朝の空気が心地よく少し開いた窓から流れ込んでいた。


トラックは高速道路を降り、近くのコンビニに立ち寄る。運転手は缶コーヒーを手渡し「誰にも話さないよな」とだけ言った。

私は「はい」とだけ良いお別れをした。

ところで、読者の皆さん。

廃墟ってそんな簡単に見つかるのだろうか。

廃墟だと思っても人が住んでるかもしれないし

特にダム建設や道路建設のために立ち退きが行われた場所は、通常、建設計画が進行中であるため、立ち入り禁止やすでに取り壊されている可能性が高い。加えて、一般人がそうした場所の情報を知ることは、普通は困難だ。

実はこの運転手、実際の民家に侵入していたのではないだろうか。


嘘は真実を交えると現実味を帯びる


運転手が話す廃墟の話が嘘だったとしても、その中に一部の真実、実際にその地域に存在する家や過去に起こった出来事を混ぜたのだとして、運転手の真意はなんだったのだろう。

過去にした悪事の罪悪感から逃れるために話したかったからなのか。

何が本当で何が嘘なのか仏壇の写真は本当だったのか。


「誰にも話さないよな」


その言葉が真相の複雑さを増していった。

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