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キャラ  作者: 橘わに
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8 わからぬことだらけ

 山道は昼なお薄暗く、一行は馬に任せて進んだ。巡礼の道として馬が歩けるだけの幅は確保されているが、護衛としては一列になること自体が憂いのもとだ。

「若君は向こう見ずなところをお改めください」

 ベイルは斜め後ろからくどくどと説教をたれてくる副騎士団長ノッサムに目を細めた。

 先ほど粗野な男たちに絡まれていた巡礼の娘を助けたが、ノッサムたちにではなく直接ベイルが駆けていったことを怒っているのだ。

 ベイルとしては身なりの良い自分が出たほうが貴族と知れて、男たちが引き下がるかと思ったのだが、逆に目を惹いてしまったらしい。ベイルを誘拐して売り飛ばす算段がつけられたところにノッサムたちが追いつき、男たちを捕縛した。

「ペリリューを置いてきてよかった」

 ベイルの言葉にノッサムが溜め息を吐く。出発までペリリューは自分を連れていくように進言していたが、手練れを選抜して領地を離れるのに、残される祖父——リオル伯爵を誰が守るのかとベイルに言われて引き下がったのだ。

「ここに隊長がいたらお説教の二重奏ですよ。まったく」

「うん。そうだろう。ノッサム、わたしは怖がりなんだ」

「怖がりは単騎で盗賊に突っ込んだりしません」

 ベイルは操馬に長けている上、年齢の平均より小柄で体重が軽い。疾走されれば甲冑を着た騎士ではついていけない。

「それはそうだろうが、わからないのが怖い。悲鳴が聞こえて、その理由がわからないのも、夏から半年近くも神殿の挙動がおかしいと、理由もわからないまま怯えているのがいやだ。それなら見に行くのが早いだろう」

 リオル伯領から神殿までは船と馬を使って三日だ。山を抜けようと思うと十日はかかる。転移術を使えば一瞬で移動できるともいうが、それはもうおとぎ話の扱いだ。

「世界の果てを目指すわけでもない。殿下がたが憚かると仰るなら、気楽なわたしが行けばいい。——ミスティーがいないのは寂しいが、この子も優しいから好きだ」

 ベイルが騎馬の肩を撫でる。神殿に一番近い港町で購った馬だ。巡礼用であり、軍馬ではないが、代わりに放っておいても神殿に着くという。

「もう少ししたら今日の宿に着きます。娘の処遇も決めましょう」

 騎士二名を盗賊と共に港町へ戻らせている。宿で彼らの戻りを待ち、またこの時期に巡礼に来たという娘の言葉に嘘がないかを、——幼いベイルには伝えていないが、神殿までの巡礼道には売春宿もあるため——確かめなくてはならない。

 ベイルは全く危機感を持っていなかったが、子供を売り飛ばすことを平気で口にする盗賊が、神殿への参道に出てくることがもうおかしいのだ。

「女王陛下の御代なら考えられない……」

 これでもし魔物が出てくるような事態であれば、それは即ちウェイ島の王が欠けたということになる。

 ノッサムは険しい顔で馬を進めた。


***


「聖女のヴェールが見つかった」

 大賢人の言葉に暖炉の前で犬のように転がっていたウォードは跳ね起きた。

「どこでですか?」

「墓所は暴かれた。コードがオリオンの要求を受け入れた。亡骸は解剖される」

 淡々と言葉が紡がれる。ウォードは顔に怒りをこめて立ち上がった。

「馬鹿な。そんなことをして何になるというのです。百年前の遺体ですよ。解剖したところで今のオリオンの科学力で何が解るというのです!」

「それでも大魔法使いを解剖する機会などもうないかも知れぬ。これは政治だ。計画を成すにはオリオンの技術がいる」

「取引するんですか。死者を辱める権利が魔術師にあるとでも?」

「ない」

 大賢人の返事は短く、低く抑えられた声はウォードの身をびしゃりと打った。どれほど彼が怒っているかを知り、口を噤む。

「ウォード・ラン。高速艇の使用を許す。ウィルガルに赴き、大巫(おおみこ)の託宣を得よ」

「ウェイ島ではなく?」

 アルゼルディードから近い神殿はウェイ島とアキヅ国だ。アキヅ国はほぼ鎖国状態であるため、他国の者が託宣目的に入国することはできない。

「ウェイ島の王の安否を尋ねよ」

「大賢人様はもう少し情報を開示してくださっても良いのでは?」

 もはやこれ自体が託宣の如しだ。意味がわからない。

 眉を寄せるウォードに大賢人は沈黙し、そのまま踵を返した。

「ひどい。横暴。人でなし。大好き!」

 ウォードは唸り、絨毯の上にぽつんと立っている手のひらほどの大きさのイタチを拾い上げて、笑いかけた。

「使い魔を貸してくださるならそう言ってくれたらいいのに」

『猫撫で声が気持ち悪いと仰っておりました』

「かわいい顔で傷つくこと言ってくる」

『申し訳ございません。主人は王宮に参られます。ラン殿は来週の地学の講義までにお戻りになるようにと祭礼の長より伝言給わっております』

「チャルトル様も人遣い荒いな」

『若者はその運命とも』

 わかったよ、とイタチに頷き、ウォードは荷物をまとめるために寝室に向かった。

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