挿話
ナディアが婚約する前のお話です。リリー視点です。
◆◇◆◇
皆が寝静まった頃、私はいつも通り公爵夫妻の元へと訪れる。
相変わらず見目麗しいおふたりです。
「では今日の報告を頼む」
「はい、本日のお嬢様は侯爵令嬢とお茶会をしておりました」
「ふむ」
「ですが...侯爵令嬢にも第一王子殿下についての人柄を聞いておりました」
「...やはり好いているのだろうか、ナディアは...」
旦那様が頭を抱えた。
親はいつでも子を心配するものですが...メイドに毎日の報告をさせるというのはいささか度が過ぎているような気もします。が、お嬢様は少し...いえ、かなりお転婆がすぎるところがあるので自業自得でしょう。
「おそらく...侯爵令嬢にも好いているのかと問われていましたが否定はしておりませんでしたから」
「...そうか、確かに数日前からリリーにも第一王子殿下について聞いていたからな」
奥様と視線を交わす。
「あなた、ナディはもう15ですよ?恋の一つや二つするでしょう」
隣にいた奥様が宥める。
「だが相手がよりによって第一王子だぞ!あんな噂がある男にナディは任せられない!」
旦那様...仮にも王子殿下をあんな男呼ばわりするとは...さすがは公爵家の主。王族相手にも物怖じしない。
別にそれが良いとは全く思いませんが。せめて敬称はつけるべきですね。
「...理由はそれだけじゃないでしょう、本当はナディをどこにも嫁がせたくないだけじゃないですか?」
「...」
さすが奥様!旦那様の心の内を理解していらっしゃる。
「リリーはもう下がって大丈夫よ、今日はお疲れ様」
「はい、では失礼致します」
扉を閉めると旦那様の泣き声が聞こえた。
聞かなかったことにしましょう...。
◆◇◆◇
翌日、旦那様がお嬢様のためにとのお茶会という名のお見合いの席を取り付けたらしいです。
さらにお嬢様のために新しいドレスも注文しています。
正確にはお見合いを嫌がる旦那様を奥様が「ナディが王城で恥をかいたらどうするのです」と、この一言で注文させたのでした。
お相手はもちろん第一王子殿下。
お嬢様もついに婚約者を持つ歳になったのですね。感慨深いです。
まぁ、もともと王子殿下との婚約話は上がっていました。婚約話の手紙が来る度に旦那様が嘆いていたのでよく覚えています。それを毎度毎度何かしらの理由をつけて旦那様はやんわりと断っていらっしゃいました。
「それがついに...」
いけない、つい口に出してしまいました。
お嬢様はどんどん大人に近ずいていらっしゃいます。少し寂しいような気もしますがそれは仕方のないこと。
「リリー!ちょっといいー?」
お嬢様に呼ばれてしまいましたね。
走っているお嬢様を見て驚いた。
「...はしたないですよお嬢様、リリーはここにおります」
公爵令嬢がスカートをふくらはぎが見えるまでたくし上げるのはよろしくありません。
「そういうお転婆なところは相変わらずですね」
この方が歩きやすいのだもの!とお嬢様が言っていますが、私はお嬢様の変わらない部分を見つけられて嬉しくもあるのですよ。
どうかこの愛らしいお嬢様に溢れんばかりの幸せが訪れることを願っております。
遅れてすみませんでした。
すみませんが、これからは自分のペースで投稿させていただくことが増えると思います...。