挿話
リリーの実家の話
手頃な宿でも探そうかと思ったが、名目上は休暇となってる。別に休暇なのでどこに泊まっても良いのだが、大抵休暇となると実家に帰省することを指す。
任務のため、ここは一度家に帰省した方が良さそうですね...。
◆◇◆◇
着いた。
我が家です。
本音を言うとここに来たくはありませんでした。
小さい頃から剣を扱う才能があり、そんな私を皆褒めてくださいました。ただ1人、お母様を除いて。
いつからか、私を騎士にしたい父と立派な令嬢として育てたい母で毎日のように口喧嘩をしていました。
そのときの私は14歳。少しづつですが気疲れして行ったのでしょう。
気づいたときには家が半壊していました。
私がオーラを使い、暴れまわってしまったようなのです。それを止めてくださったのが偶然我が家に来ていたお嬢様でした。お嬢様は9歳になられたばかりでした。
私よりもはるかに抜きん出た才能。その天才が話しかけてきました。
「あなた強いですわね!私の侍女にならない?」
「え?」
突然のことに驚いてつい「え?」なんて言葉を使ってしまいました。
「ね!なりませんか!私あなたをとても気に入りましたわ!」
侍女になるなんて想像したこともなかった。でも、この家から抜け出せるのなら...。
「分かりました、あなた様にお仕え致します」
「ありがとう!!」
こんなに屈託のない笑顔は久しぶりに見た。自然とこちらまで笑みがこぼれる。
「では早速我が公爵邸に行きましょう!」
公爵?!
思い出すと今でも笑ってしまいます。あとから聞いた話によると、最初から私を侍女にしようと我が家を訪れたようで、以前、護衛騎士を見繕いに来て、そのときに私を見つけてくださったようです。
久しぶりに会うお父様とお母様はどんな様子なのでしょう。
「お嬢様!お帰りになられていたのですね!」
事前に手紙を送っておいたおかげか執事が出迎えてくれた。
少し老けたようです。
「5日ほど泊まらせてもらえる?」
「もちろんですとも!ここはお嬢様の帰る家ですから」
そんな風に言ってもらえると安心します。
「旦那様と奥様もお嬢様に会えるのを心待ちしておりましたよ」
「そうかしら...」
執事が困ったように笑いながら「そうですよ」と答えた。
「先にお部屋に行かれますか?それでしたら荷物をお預かり致します」
「いえ、先にお父様とお母様にお会いするわ、荷物は部屋に運んでもらえる?」
「かしこまりました」
◆◇◆◇
「お父様、お母様、ご無沙汰しております」
「あぁ、リリーよく帰ってきてくれた、侍女の生活はどうだ」
「はい、お嬢様は私に大変良くしてくださいます」
「そうか、なら良い」
父は父なりに私を心配してくれていたようです。
「それでは、5日ほどお世話になります」
最後まで母は話もせず、目も合わせてくれなかった。
◆◇◆◇
それから5日間、家では特に何も無く過ごした。
まったく、お嬢様の行動にはいつも肝を冷やされます。
「もう帰る時間ですね」
「お嬢様、馬車の用意が整いました」
執事に門まで送って貰うと、父が門のそばで待っていた。
「リリー、またいつでも帰って来なさい」
「はい、ありがとうございます」
馬車に乗り込むと門から誰かが走ってきた。
「...っリリー!」
お母様...。
「...ごめんなさい...あなたの気持ちを尊重してあげられなくて、でも私はあなたを大切に思っているわ、だからたまには帰ってきてね」
てっきり淑女として生きなかったことで嫌われたと思っていました。
「ありがとうございます...これからは時々帰るように致します」
「ぜひそうしてね」
「はい、それでは失礼致します」
「リリー、剣の腕も磨くようにな」
「そうね、仕事ばかりではなくて自分のためにも時間を使ってね」
目を潤ませながら頷いた。
「お父様、お母様、手紙を出すのでお返事くださいね」
2人とも「もちろん」と言ってくださいました。久しぶりの帰省はとても良いものになりました。