王子殿下の噂
「いくらお嬢様が強くても1人で来られるのは危険すぎます」
怒られた。
「だって兵を連れてくるのはだめって言うから」
「...そうですね、言いたいことはたくさんありますがまずは助けていただきありがとうございます」
「どういたしまして!」
えーと、牢の鍵は...これかな?
お、開きました!
「怪我はない?」
「...ありません、それよりも侯爵の欲しがっていたものは万能薬でした」
「!」
万能薬...。
「ですが申し訳ありません、気を失っていたときに取り上げられてしまったようです」
「それなら大丈夫、このまま帰りましょう」
「ですが...」
「最優先はリリーの保護です、それに侯爵は思ったよりも悪い人ではなさそうよ」
リリーが驚いたような顔をする。
「帰ってから詳しく話します」
◆◇◆◇
エバンス公爵邸。自室。
「お嬢様、先程の発言はいったい...?」
「侯爵が欲しがっていたものは万能薬で間違いないのよね?」
「はい、間違いありません」
「実はリリーが競売に行っている間に侯爵の娘、ラファナとお友達になりました!」
「え?!」
「まぁそれは置いといて、ラファナから聞いた話によると侯爵夫人は体が弱く、家族であるラファナでさえ簡単に会うことが許されないみたい、だけど侯爵は侯爵夫人と寝室を共にしているの」
「...ということは移るような病気ではない?」
「おそらくそうよ、そして侯爵夫人は食事を吐き戻してしまうようなの」
リリーが相槌を打ちながら聞いてくれている。
「そこで私は侯爵夫人は拒食症なのではないか...?と、そしてその原因は心的ストレスによるものだと考えているわ」
「なるほど、では侯爵が万能薬を欲しがっていた理由は侯爵夫人のためだということですね」
「そういうこと、そして万能薬を取り上げたのならリリーが牢に入れられてる時点で使われているはず」
「確かにそうですね」
「それに侯爵はラファナにきつい言葉をあびせているようでしたが、言葉の裏を返すと全てラファナを案じているような発言だったわ」
「仮にそうだったとして、侯爵夫人の心的ストレスは何なのでしょうか」
「そこが問題なの...」
侯爵夫人が流産したかどうかは分からない...。
「リリー、侯爵夫人は流産したかもしれない...」
「...!」
「調べることはできるかしら」
「そのくらいならお任せ下さい」
◆◇◆◇
リリーの休暇が終わった。
「お嬢様の読み通り侯爵夫人は流産しておりました」
「ありがとう、では今から侯爵家に行きます」
◆◇◆◇
それからは早かった。
ラファナに頼んで侯爵家に招いてもらい侯爵と侯爵夫人について話す。侯爵にこれまでの憶測の話を伝え、侯爵夫人は心的ストレスによるものだということを医者と伝えた。
するとやはり侯爵は悪い人ではなく、成り上がろうとする理由も侯爵夫人のために良い医者に治療してもらいたいという思いからでした。ラファナにも家のことは気にせず楽に生きて貰いたいと思っていると言っていました。
信頼できる優秀な医者に任せたので、侯爵夫人も徐々に回復しています。
侯爵は感謝してもしきれないと言って今後何かあれば必ず力になると言って下さりました。
ラファナも私の力になると息巻いておりました。
ちなみに、リリーを捕まえに来た人たちもあそこまで手荒にするつもりはなかったようで、リリーが思ったよりも戦えたので気絶させざるをえなかったと言っていました。
何はともあれこれで父の裏取引の道は潰しました!
◆◇◆◇
あれから1年経ち、私は15歳になりました。剣の腕も随分と上達して今では公爵家の騎士にも勝てるようになってきました。ですが貴族の令嬢が剣を扱うのは快く思わない方も多いので周りには内緒にしています。
それはそうと...おかしい。
私と王子殿下の婚約話が一度もあがりません。
まぁ婚約しなくていいのならしたくないので良いのですけれど!
「リリー、第一王子殿下ってどんな人?」
「え?!だ、第一王子殿下ですか...?」
「そうよ」
何か変なことでも言いましたでしょうか?
「そうですね...少しお耳を近づけて貰えますか」
?
まさか、悪い噂でも...?
「...男色家だと聞いております」
「え」
男色家?!
「それは本当なの?!」
「有名な話でございます、幼い頃からある特定の男性を探していると...」
「そ、そうなの、教えてくれてありがとう」
今度ラファナにも聞いてみよう...。
◆◇◆◇
「ラファナ、第一王子殿下ってどんな人?」
「...まさか好いておられるのですか?!」
「え?!」
いや、そんなんじゃないよ?!
そう伝えようとしたら間髪入れずに
「やめておいたほうがよろしいですよ!...男色家らしいので」
と言われてしまった。
「...そうなのね、ありがとう」
やっぱり男色家なのですね。
良いじゃないですか!!向こうが男色家なら婚約の話も持ち上がらないですし!!なぜなら第一王子殿下を無理に結婚させなくとも第二王子殿下がいらっしゃるもの!なんてラッキー何でしょう!