出会いは、みたらしから。
「お団子、いかがですか?」
俺は顔を上げると、目の前に長い黒髪のお姉さんが立っていた。
そして、右手に持ったみたらし団子を俺に差し出し
「今、ちょうど午後2時です」
と目をキラキラさせている。
公園の時計を見ると、なるほど、針は午後2時きっかりをさしている。
「お団子タイムです。1本どうぞ」
お団子タイム。
なんだろう、このお姉さんは。
俺は、一般的な尺度から見れば、これは相当奇妙な状況だろうという当然の結論に達した。
しかしなぜか、こっちを見るお姉さんの目は信じていいものと俺の本能は、俺にそう伝えていた。
そして、俺はゆっくりとみたらし団子をお姉さんから受け取り、くしの一番上の団子を口に運んだ。
ごくん。
お・い・し・い・・・・!
さびれていた俺の心が、弾かれるようにジャンプした。
「さ、最高っす!」
俺は、ベンチから腰を上げ、
こんなおいしい団子は、食べたことはなかった。
「うれしい。お団子は、心を豊かにするんです」
お姉さんは、両手をあわせ満面の笑み。
「あの、これは、お姉さんが作ったんっすか?」
「はい、うちのお店で作ったお団子を宅配サービスしてるんです」
「お団子の・・・・宅配?」
俺は、お姉さんの背後に止めてある自転車に視線を移すと、荷台の部分にお団子と刺繍された小さな旗が掲げてあるのが見え、こんなサービスがあるのかと内心驚いた。
「心配したんです。こののどかな山下公園で、ずっとうなだれているみたいだったから」
「イヤイヤイヤ、大したことないんっすよ」
俺が大袈裟に顔の前で腕を振るとスマホの着信。
お姉さんの上着のポケットからだ。
「あ、じゃ、私、急いでいるので」
お姉さんは、俺に軽く会釈をすると自転車にまたがり山手の方へと走って行った。
やがて、お姉さんの姿が見えなくなると、俺はお団子のお代が気になったが、それ以上に驚きがひとつ。
「今、俺、女性と話したのか?」