8.記憶
あ、これおっぱいだ。
最初に思い出せたのは、おっぱいの感覚だった。
今も口の中で感じる。
記憶よりもずいぶん小さいが、まぎれもなくおっぱいだ。
自分のことも少し思い出せた。
43歳、独身、会社員、とそこまで考えたところで、自分が少女に抱かれて、おっぱいを与えられていることが認識できた。
43歳おっさんが少女のおっぱいを吸っているという状況に戦慄し、人生終わったと言いようのない恐怖におびえていると、自分が6歳くらいの男の子だと気づいた。
セーフ!なんとなくアウトじゃない気がした。
いろいろ思い出そうとしてみるが、43歳までの前世の記憶は鮮明だが、転生した後の記憶が妙な感じではっきりしない。
母と妹と祖父母がいた気がするが顔が出てこない。
かわいい幼馴染もいた気がするが、43歳の前世の俺の脳内設定かもしれん。
そんな感じで目の前の俺を抱きかかえながら寝ている女の子は、超美少女と言えるほどかわいかったが、なんか懐かしい感じがした。
時折ぴくぴく動く猫耳としっぽに触りたいが、起こしてしまいそうで触れない。
まだ眠いからもう一回寝てから考えよう。
再び少女のおっぱいを口にくわえてから、睡眠に落ちて行った。
次に目が覚めた時に少女は近くにいなかった。
見覚えのない小さな部屋で、ベッドが1つ、その上で少女と寝ていたようだ。
少しふらつきながらもベッドから降りて、部屋から出ると小さなリビングがあった。
奥のキッチンからは少女と女性の話し声が聞こえる。
「昨日サキちゃんがおっぱいをあげてみるって言ったときはびっくりしたけど、効果はあったの?」
「まだわからないけど、ぐっすり寝てましたよ。前にパドラに体の傷を治してもらったとき、パドラが胸としっぽと耳を触っていたから好きなんだろうなって思って」
記憶にございません、身に覚えもありません。
そこで料理をよそっていた女性に覗いているのを気づかれてしまった。
「あ~!起きてる!」
「パドラ!よかった、私のことはわかる?」
俺の体は動くけど、記憶が戻っていないことを知った少女は落胆したがそれでも喜んで笑顔を見せてくれた。
「記憶は少しずつ思い出していけばいい」
少女の名前はサキといい、俺が生命魔法で傷を治したことがあるらしい。
女性はリーリンと言う名の魔法使いで、呪術で記憶をなくし、動けなくなった俺を保護して、いろいろ治そうとしてくれていたらしい。
今、俺たちがいる家はリーリンの別荘みたいなところで、俺が元居た場所とは違う国だ。
すでにこちらに来て2か月ほどたち、その間、俺をもとに戻すべくいろいろ試したらしいが、俺の記憶の欠如は、呪術というものによるらしく、人為的に特定の期間だけ思い出せないように操作されているということまではわかったそうだ。
おそらく生まれてから呪術をかけられた瞬間までの記憶を対象とされていたため、前世の記憶はすぐに思い出せたのだろう。
前世の記憶があるおかげで、思い出させないように呪術がかけられた部分を客観的に認識することができた。
親も妹も祖父母もいたことは覚えているけど、顔も名前も出てこないのはそういうことなのだろう。
記憶は無理に戻そうとしない方がいいということで、しばらくほっておくことにした。
いろいろ生活に必要なことも忘れてしまっているが、そういうことを少しずつまた学びながら思い出していけばいつかみんな思い出すだろうとリーリンは言っていた。
リーリンは鑑定の水晶を持っていて、俺の能力を確認すると、魔法が2つあることに驚いていた。
リーリン自身は、生命、水、火、風と4種類の魔法能力が発現しているが、6歳の鑑定の儀の時点では、水だけだったらしく、後々学校や師匠と修行して、発現させたらしい。
「うーん。もしかしたら掘り出し物かも。サキちゃんから生命魔法はすでに使っていたって聞いたけど、魔法をちゃんと覚える気があるなら教えるよ」
リーリンの言葉にすぐにうなずく。
「おねがいします!リーリン師匠!」
<名前> パドラ
<年齢> 6歳
<生命> 35/35
<体力> 30/30
<魔力> 40/40
<腕力> 8
<敏捷> 10
<器用> 8
<耐久> 8
<思考> 12
<武技> -
<魔法> 土魔法1、生命魔法1
<特殊> 健康体1
<名前> サキ
<年齢> 10歳
<生命> 40/40
<体力> 50/50
<魔力> 20/20
<腕力> 15
<敏捷> 20
<器用> 15
<耐久> 10
<思考> 10
<武技> 体術1
<魔法> -
<特殊> 隠密1
俺とサキの能力値を見ながら師匠が育成方針を決めたようだ。
「パドラは毎日、サキちゃんと一緒に走って体力をつけるのよ。サキちゃんの体術の先生はまた探しておくから、しばらくは体力増強を目標にしていなさい。パドラには私が生命魔法を教えるわ。土魔法の基礎は水魔法の応用で教えられると思うけど、どこかで専門の先生を探すようにしましょう。さ、まずは林の向こうまでランニングよ!」
訓練を始めてみれば、ノリノリの師匠だった。